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2026年08月24日
腸内細菌が2型糖尿病のサインに? 便検査によるリスク予測の実現に期待
2型糖尿病は、生活習慣を改善することで発症を予防したり遅らせたりできる病気である。発症リスクを事前に把握できれば、早い段階から食事や運動などの対策に取り組める。
早期のリスク把握に向けて注目されているのが、腸内にすむさまざまな細菌の集まりである「腸内細菌叢(そう)」、いわゆる「腸内フローラ」だ。
スウェーデンのチャルマース工科大学などによる研究グループは、研究開始時に2型糖尿病のなかった成人4,685人の便に含まれる腸内細菌の遺伝情報を解析し、その後の2型糖尿病発症リスクと関連する9種類の腸内細菌を特定した。
便検査で得られる腸内細菌の情報を、肥満や遺伝的要因、血糖値などの従来のリスク因子と組み合わせ、将来は発症リスクをより正確に予測できるようになることが期待される。
2型糖尿病発症の数年前から腸内細菌に違い
世界保健機関(WHO)によると、糖尿病のある成人は1990年の2億人から、2022年には8億3,000万人に増え、30年余りで4倍を超えた。その95%以上を2型糖尿病が占める。
WHOは、健康的な食事、運動、適正体重の維持などにより、2型糖尿病の発症を予防したり遅らせたりできるとしている。発症前の段階でリスクを把握できれば、食事や運動などの対策をより早く始められる。今回紹介する研究が注目される理由も、そこにある。
スウェーデンのチャルマース工科大学のリカール・ランドバーグ教授とガエル・トゥボン博士研究員らは、カロリンスカ研究所、ウプサラ大学の研究者と共同で、将来の2型糖尿病発症リスクと関連する腸内細菌の種類や働きの特徴を明らかにすることを目的に、大規模な追跡研究を行った。
研究の対象は、開始時点で2型糖尿病がなく、糖尿病治療薬も使用していなかったスウェーデンの成人4,685人である。平均年齢は73.9歳で、研究グループは参加者から採取した便を使い、腸内細菌の遺伝情報を詳しく調べた。
追跡期間の中央値は5.3年で、その間に383人(8.2%)が2型糖尿病を発症した。解析の結果、発症リスクの上昇に関連する6種類と、リスクの低下に関連する3種類の計9種類の腸内細菌が特定された。
これまでの研究の多くは、すでに2型糖尿病を発症した人と2型糖尿病のない人の腸内細菌を比較したものだった。そのため、腸内細菌の違いが発症前からあったのか、それとも発症後に生じたのかを判断しにくかった。
これに対し今回の研究は、2型糖尿病を発症していない段階で便を採取し、その後の発症を追跡した点に特徴がある。
筆頭著者のトゥボン氏は、チャルマース工科大学の研究発表で「今回の研究では、2型糖尿病を発症する数年前に、腸内細菌叢に変化がみられることを明らかにできた。これは、腸内細菌叢の構成が、糖尿病を発症した結果として変化したのではなく、発症に関わっている可能性を示している」と説明している。
「健康に良い菌」が発症リスクの上昇と関連?
研究グループがとくに注目したのが、2型糖尿病発症リスクの上昇に関連する6種類の腸内細菌のひとつ、「アッカーマンシア・ムシニフィラ」である。この菌は、肥満や血糖値との関係を調べたこれまでの研究から、「健康に良い菌」として注目されてきた。
しかし今回の研究では、便の中にこの菌が多い人ほど、2型糖尿病の発症リスクが高いという関連が示された。
なぜ健康に良いと考えられてきた菌が、2型糖尿病の発症リスクの上昇と関連したのか。研究グループはその背景を探る手がかりとして、「食物繊維の摂取量」と腸を守る「粘液層」の関係に注目している。
腸の内側の壁(腸壁)は、「ムチン」という成分を主とする粘液層で覆われている。この粘液層には、腸内細菌が腸壁に直接触れるのを防ぎ、腸を守るバリアとなる働きがある。腸内にはこのムチンを分解し、栄養源にする「ムチン分解菌」が複数存在する。アッカーマンシア・ムシニフィラは、そのひとつだ。
論文で引用されている過去のマウス研究では、食物繊維が不足すると、アッカーマンシア・ムシニフィラを含むムチン分解菌が増え、腸を守る粘液層の分解が進んだ。その結果、粘液層が薄くなり、バリア機能が低下した。
粘液層のバリア機能が低下すると、本来は粘液層に隔てられている腸内細菌が腸壁に接触しやすくなる。こうした状態は慢性的な弱い炎症につながり、血糖値を下げるインスリンが効きにくくなって、血糖値が上がりやすくなると考えられている。
このような過去の研究を踏まえ、研究グループは今回、食物繊維の摂取量とアッカーマンシア・ムシニフィラとの関係も調べた。その結果、食物繊維の摂取量がもっとも少ないグループでは、この菌が多いほど2型糖尿病の発症リスクが高いという関連が数値上、ほかのグループより強くみられた。
将来の2型糖尿病発症予測に期待
ただし、今回の研究結果を実際のリスク予測に利用するには、さらに検証が必要である。
食物繊維の摂取量によって、アッカーマンシア・ムシニフィラと2型糖尿病の発症リスクとの関連の強さが変わることは、統計学的には明確に示されなかった。また、今回の研究では、腸の粘液層やバリア機能を直接調べていない。
さらに、この菌が体にどのような影響を与えるかは、その人の食生活などによって異なる可能性がある。したがって、今回の研究結果だけでは、アッカーマンシア・ムシニフィラがその人の健康に良い影響を与えるとも、2型糖尿病の発症リスクを高める原因となっているとも結論づけることはできない。
また、この研究の対象者は平均年齢73.9歳のスウェーデン人であり、便の採取も1回だけだった。年齢や地域、食習慣などの異なる集団でも、同じ関連がみられるかを確かめる必要がある。
こうした課題はあるものの、発症前に採取した便に将来の2型糖尿病リスクを捉える手がかりが含まれていることを示した点で、今回の研究の意義は大きい。
トゥボン氏は「将来、これらの菌をバイオマーカーとして利用できる可能性がある」と述べている。バイオマーカーとは、病気の有無や発症リスクなどを判断するための指標である。腸内細菌の情報を、肥満、遺伝的要因、血糖値など、すでに知られているリスク因子と組み合わせることで、2型糖尿病の発症リスクをより正確に予測できるようになることが期待される。
ランドバーグ教授は「今は腸内細菌叢の解析結果にもとづく具体的な食事指導を行える段階ではないが、今回の結果は、果物、野菜、豆類、全粒穀物など、食物繊維の豊富な食品の摂取を勧める現在の食事指針を支持するものだ」と説明している。
生まれ持った遺伝的要因は変えられない一方、腸内細菌叢は食事や生活習慣によって変えられる。腸内細菌と食生活の関係がさらに解明されれば、将来、便から得られる情報をもとに2型糖尿病の発症リスクを早い段階で捉え、一人ひとりに合った予防に生かす道が開ける。
発症前にリスクを捉え、予防に早く取り組む────今回の研究は、そうした2型糖尿病予防の実現に向けた一歩である。
■参考
- Gut microbiome composition and functional potential associate with incident type 2 diabetes in 4,685 adults from a Swedish prospective cohort(Cell Reports Medicine掲載の原著論文)
- Gut microbiota can predict risk of type 2 diabetes years before it develops(チャルマース工科大学提供の研究発表)
- A Dietary Fiber-Deprived Gut Microbiota Degrades the Colonic Mucus Barrier and Enhances Pathogen Susceptibility(食物繊維の不足と腸の粘液層に関するマウス研究、Cell)
- Diabetes(世界保健機関[WHO]による糖尿病の解説)
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