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2026年08月05日

「博物館浴」血圧にも良い効果? ~ミュージアム、健康高める場に~

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時事通信社

 ミュージアムが、芸術や歴史を学ぶだけではなく、健康やウェルビーイング(幸福度)を高める場として期待されている。夏休み中は展覧会やワークショップが充実する。涼を取りつつ、リラックスしに、博物館や美術館、科学館などを訪れてみるのはどうだろうか。

 芸術や文化を鑑賞すると、気持ちが和らいだり、活気が湧いたりする。それはなぜか。ミュージアムの見学がもたらす癒やし効果を科学的に解明しようと、「博物館浴」という研究が国内で進められている。これまでの実証実験で見えてきたのは、芸術などを鑑賞すると、感情が落ち着くほか、血圧が高めの人は低く、低めの人は高くなるといった傾向だ。

 ◇癒やし効果、科学的に検証

 博物館浴とは、博物館が持つ癒やし効果を健康増進や疾病予防に活用する活動のこと。福岡市にある九州産業大学の緒方泉特任教授(博物館学)が提唱する。博物館は美術館、科学館、資料館、記念館なども含む。英語で言うところのミュージアムだ。

博物館浴の実証実験で絵画を鑑賞する大学生=2026年2月、名古屋市美術館(緒方氏提供)

博物館浴の実証実験で絵画を鑑賞する大学生=2026年2月、名古屋市美術館(緒方氏提供)

 癒やしやわくわくなど、文化的体験で得た前向きな感覚を科学的に評価する方法として、緒方氏が注目したのが森林浴。森の中をゆっくりと歩き、香りをかぐとリラックスできるとして、日本で始まった健康法だが、今では世界中で親しまれている。森林浴によるストレス軽減や睡眠改善、免疫力向上などの効果は、散策前後に血圧や脈拍、心理などを測定して心身の変化を調べ、証明されている。

 これになぞらえ、緒方氏はさまざまなミュージアムで、見学者の血圧、脈拍、心理状態を鑑賞前後に測定する実証実験を2020年にスタート。今年7月現在、国立西洋美術館(東京都台東区)を含む全国111カ所の施設で中高生から高齢者まで1850人のデータを集めた。

 分析の結果、気分などを聞く心理テストの結果から、芸術などの鑑賞後には怒り、混乱、疲労、抑うつ、緊張といったネガティブな感情は和らぎ、活気というポジティブな気持ちが高まる傾向が見られた。

アート鑑賞後、心理測定をする実証実験の参加者=2026年2月、名古屋市美術館(緒方氏提供)

アート鑑賞後、心理測定をする実証実験の参加者=2026年2月、名古屋市美術館(緒方氏提供)

 ほかに、血圧が改善する可能性も確認できた。具体例を挙げると、下の血圧が60以下の低血圧の高校生8人に書画、大学生8人に現代アートを20分見てもらったところ、下の血圧の数値は、高校生で平均50から55、大学生は平均53から60に上昇した。

 上の血圧が140以上の高血圧でも同様だ。絵画を30分堪能した70代3人の場合、鑑賞前の上の血圧の平均は169だったが、鑑賞後は150に下降。10分間、おしゃべりしながら洗濯板やそろばんといった懐かしい道具などを触った60~80代9人では上の血圧の平均は体験前158が体験後147に下がった。

 こうしたポジティブな変化は、鑑賞時間が30分未満と短くても、美術系、歴史系、民俗系、考古系、自然史系などジャンルを問わず、ミュージアムによく行く人だけでなく、あまり行かない人にも見られた。

 なぜ、血圧や気分が安定に向かうのか。博物館浴をするとレジリエンスというストレスなどを乗り越える心の回復力が高まるからだと緒方氏は考える。レジリエンスが備わると、リラックスモードの副交感神経が優位に働いて自律神経のバランスが取れ、結果的に体の恒常性が維持されると言われる。

名古屋市美術館で実施した実証実験での大学生の心理測定の結果。鑑賞前は活気が低く、怒りや混乱などネガティブな項目は数値が高かったが、鑑賞後は活気は上がり、ネガティブな項目は改善された。鑑賞中はおしゃべりはせず、黙って作品を見た

名古屋市美術館で実施した実証実験での大学生の心理測定の結果。鑑賞前は活気が低く、怒りや混乱などネガティブな項目は数値が高かったが、鑑賞後は活気は上がり、ネガティブな項目は改善された。鑑賞中はおしゃべりはせず、黙って作品を見た

 ◇健康の柱に文化芸術鑑賞を

 ミュージアムの訪問は頭の余白を取り戻す時間にもなる。「ミュージアムに行くと、情報過多で忙しい日常から離れ、デトックス(解毒)できる。ゆっくり歩き、じっくり作品を見る空間が担保されている」と緒方氏。

 博物館浴の効果はだんだんと科学的に分かってきたが、心身の健康に与える影響をきちんと解明していくにはまだまだデータが少ない。そのため、今後は短い朗読で脳疲労度や自律神経バランスを可視化できるオンラインのサービスも使う。そうして被験者数を増やすとともに、作品の内容や館内の巡り方、施設の空間などで効果に変化はあるのかといった細やかな調査を医師と連携して行いたいという。

 将来的には、AI(人工知能)を使って、そのときの心身の状態に合った展覧会や施設を案内したい考え。そこには、多くの人にミュージアムを訪れてもらいたいという思いがにじむ。なぜなら、国内には5700館以上の博物館や美術館などミュージアムがあるが、国民1人当たりの利用回数は年間平均2回。よく行く人もいるが、全く行かない人もいると緒方氏は見る。

 「健康のためとならば、ミュージアムに行く機会を持ってもらえるのではないか。文化芸術鑑賞を健康の柱の一つにしてもらいたい。リフレッシュのためにひとっ風呂浴びるように、日常的にミュージアムに行ってほしい」

緒方泉氏

緒方泉氏

 ◇海外で広がる「博物館処方箋」

 薬を処方するように、健康やウェルビーイングの維持に向けて、人や地域とのつながりを提案する「社会的処方」が注目されるようになった。ミュージアムもその一つだ。

 芸術や文化的な活動で健康やウェルビーイングを高める「クリエイティブ・ヘルス」を進める英国では、多くのミュージアムの入り口に「ミュージアムズ・チェンジ・ライブス(博物館は人生を変える)」というメッセージを掲げる。緒方氏の説明によると、カナダのモントリオール美術館は医師会と提携し、2018年から医師が患者に同館の訪問を処方する「博物館処方箋」を始めた。ベルギー、スイス、台湾でも同様の取り組みがあるという。

 博物館浴が幅広い年齢層の健康に役立つようになることを緒方氏は願う。また、低血圧などで不登校の子どもや認知症や孤立を抱える高齢者の支援策として自治体に活用してもらい、従業員の健康増進を図る取り組みとして企業に導入してもらえるよう、訴え掛けていきたいという。「10分でも博物館浴ができれば、自律神経が改善し、仕事の効率が上がるはず。そういう実験データも集めていきたい」と意気込んでいる。(及川彩)

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[ 糖尿病ネットワーク編集部 ]

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