下記のうち、血糖値上昇に注意を要することが多いものには×を、
反対に血糖値を下げるように働くことが多いもの
(ただし、そのために時には低血糖への注意も要することがあるもの)には○を、
一概にどちらとも言えないものには△を付けてください。
血糖値を上昇させる直接的で最大の要因は食事、特に炭水化物の摂取と言えます。ですから炭水化物の摂取量を減らすことは、血糖値の上昇の抑制につながります。また、血糖値の上昇が抑制されるということは、必要とされるインスリンの量も少なくなるということで、それは肥満や動脈硬化の進行も抑制するように働くと期待できます。よって、基礎疾患のない一般の方の減量や適正体重維持を目的とする保健指導領域において、緩やかな糖質制限は否定されるものではないと言ってよいでしょう。
一方、糖尿病の患者さんへの糖質制限の導入については未だ賛否両論ありますが、過体重や肥満で合併症がない場合、患者さんの希望があれば、減量と血糖管理を目的に緩やかな糖質制限を試みてもよいかもしれません。しかし、腎症や動脈硬化がある程度進行している場合には、糖質制限のために高蛋白または高脂肪食とすることが、それら合併症の進行に影響を及ぼす可能性について、慎重に判断する必要が生じます。
また、血糖降下薬を使用している場合には、糖質制限開始とともに低血糖が起こりやすくなるため、処方量の調節が必要です。
インスリン非依存状態とは、生存のためにインスリンを体外から補給する必要のない状態のことです。生存のためではなく、血糖管理を目的とするインスリン療法を実施している患者さんも含みます。よって、大半の2型糖尿病患者がこれに該当します。
この状態において運動は、インスリン感受性を高め、血糖の消費を増やし、総じて血糖値を下げるように働きます。これが、運動療法が食事療法と並んで糖尿病治療の柱とされるゆえんです。
基本的には運動は、インスリン感受性を高め、血糖の消費を増やし、総じて血糖値を下げるように働きます。これが、運動療法が食事療法と並んで糖尿病治療の柱とされるゆえんです。
さて、インスリン依存状態とは、主に1型糖尿病の患者さんが該当し、基礎分泌も含めたほぼすべてのインスリンを体外から人為的に補給している状態を指します。この状態においての運動は、エネルギー消費による血糖の低下と、肝臓での糖新生により保たれる血糖の恒常性が、体外から補給するインスリンと上手に合致しなければ、低血糖にも高血糖にもなり得ます。よって1型糖尿病において血糖管理を主目的として運動療法を行う際には、血糖変動に細かい注意が必要になってきます。
しかし、運動によってインスリン感受性が高まるという効果は糖尿病の病型によらず得られる効果ですので、それによってふだんの血糖管理を行いやすくなります。また運動をしないことは、体重増加、それによるインスリン感受性低下、糖尿病以外の生活習慣病の招来などにつながります。
1型糖尿病であっても、運動療法は「しなくてよい」のではなく、注意すべき点はあるものの、できるだけ「したほうがよい」治療法と言えます。
高血糖状態では、高血糖であることによりインスリン感受性が低下しインスリン分泌が減少するという「糖毒性」が生じます。つまり、血糖値が高いこと自体がさらに血糖値を上げるように働いてしまうということです。
このような状態で治療を開始し血糖値が低下し始めと、それにつれて糖毒性が解除されてきます。つまり、血糖値の改善とともにインスリン感受性とインスリン分泌量が回復してくるということです。これに伴い、低血糖の可能性も生じてくるため、血糖降下薬の処方量の調節が必要とされます。
腎症の進行とともに、血糖値は低めに推移することが多くなります。
その理由の一つは、腎機能低下によってインスリンのクリアランスが低下することです。腎機能の低下に伴い、経口血糖降下薬をインスリン製剤に切り替えることが多くなりますが、そのインスリン製剤の作用時間が、腎機能の低下した人では正常な人よりも長くなるため、腎症の進行とともに必要とされる単位数が減ってきます。
理由の二つ目は、腎臓での糖新生が低下することです。体内において糖新生を担っているのは肝臓と腎臓です。腎臓における糖新生については肝臓のそれに比べてまだ不明な点が少なくありませんが、空腹時血糖の15%程度を担っており、絶食時間が長くなるとその比率がより高くなるのではないかと考えられています。このことが、腎不全期の患者さんに生じる低血糖に関与している可能性があります。
アルコール飲料は、肝臓での糖新生を抑制するように働きます。そのため、飲酒によって血糖値の低下に拮抗する反応が弱くなり、低血糖を来しやすくなります。アルコール摂取後、糖新生が抑制された状態の低血糖は遷延しやすく、また酩酊によって、ふだんであれば低血糖を自覚する人でも自覚しにくくなります。さらに周囲の人も、低血糖による昏睡を酩酊状態と見誤ることがあります。こういった条件が重なるため、飲酒時の低血糖は非常に危険です。
その一方で、アルコールを飲むときには、つまみを食べることが一般的ですので、その摂取は血糖値を上昇させるように働きます。アルコールによる食欲の刺激も関わってきます。また、ビールや日本酒などの醸造酒は、それら自体に糖を含んでいるため、血糖値を直接的に上昇させる働きがあります。反対に、焼酎やウィスキーなどの蒸留酒はそれ自体に糖を含んでおらず血糖値の直接的な上昇作用はないものの、同時に食べる食物の消化吸収に影響し血糖変動に関与する可能性があります。
副腎皮質ホルモン(ステロイド)には、肝臓における糖新生を増やしたり、筋肉での糖取り込みを減らしたりするなど、インスリン作用の減弱同様の状態を招く作用があります。このため、糖尿病素因のある方の場合、ステロイドの長期投与が耐糖能異常や糖尿病の発症につながることがあります。
また、糖尿病の患者の場合には血糖管理を悪化させることが少なくありません。これに対しては、こまめな血糖のモニタリングと、その結果に基づくインスリンの増量により対処します。
感染症罹患時にはインスリン作用拮抗ホルモンの分泌が高まることや、発熱、食物摂取量の減少による脱水などのために、血糖値は上昇傾向を示します。血糖値の上昇は感染を長期化するように働き、状態の悪化に拍車をかけます。この悪循環の結果、ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群などの急性合併症に進展することがあります。
一方、感染症罹患のために食欲がなくなり摂取量が減ると、それは血糖値を下げる方向に働きます。そのため感染症に罹患したからといって必ず血糖値が上がるとは言い切れません。いずれにしても、感染症の罹患などによるシックデイには、血糖値が大きく変動しやすくなることは間違いないでしょう。
糖尿病用薬以外にも血糖値に影響を及ぼす薬剤はあります。ステロイド剤による高血糖、一部の抗精神病薬による高血糖はよく知られていますし、反対に低血糖を来し得る薬剤としてニューキノロン系抗菌薬やST合剤などが知られています。ニューキノロンもST合剤も、尿路感染症や肺炎等で使用される機会が高い薬剤なので、血糖降下薬で治療中の糖尿病患者にこれらの薬剤が処方された場合には、低血糖が起こり得る可能性について考慮しておくようにしましょう。
妊娠の後半では胎盤からインスリン作用に拮抗する種々のホルモンが分泌され、母体はインスリン抵抗性の状態になります。糖尿病素因のある女性の場合、このことによって妊娠糖尿病を来すことがありますし、糖尿病女性の場合は妊娠前よりも高血糖を来しやすくなります。
このように、基本的に妊娠は血糖値を高くするように働きます。しかし、糖尿病患者さんの場合に妊娠前半の悪阻等のために食事摂取量が減少すると、低血糖を来しやすくなることもなくはありません。
妊娠期間中は血糖値の上下動が大きくなることに注意し、母児の健康のためにできるだけ厳格な血糖管理に努めるようにします。
『10月8日は、糖をはかる日』について
『10月8日は、糖をはかる日』は、2016年糖尿病治療研究会により制定されました。2021年6月糖尿病治療研究会の解散により、一般社団法人日本生活習慣病予防協会が『10月8日は、糖をはかる日』を継承することになりました。
<糖尿病治療研究会40年の歩み>