糖尿病セミナー

32. 糖尿病予備群

2014年9月 改訂

予備群と言われるのはどんな人?

 健康な人の血糖値は、体温と同じようにほぼ一定しています。食後に少し上がりますが、2時間もすれば元の値に戻ります。糖尿病か糖尿病でないかは血糖値を調べて診断します。その判定の基準は下表のようになっています。

血糖値の判定基準

IFG : impaired fasting glycemia (glucose)
IGT : impaired glucose tolerance〈耐糖能障害〉
〔日本糖尿病学会:糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告、2010・他より〕

※1 ブドウ糖負荷試験
 糖尿病を診断するための検査。75gのブドウ糖溶液を飲み、その後の血糖値の変動から、血糖レベルを正常型、境界型、糖尿病型の三つに分けて判定します。

(注)ブドウ糖負荷試験をせずに空腹時の血糖値だけで判定する場合、100mg/dL以上110mg/dL未満の間は「正常高値」とされ、注意が促されます。高血圧や脂質異常症など他の生活習慣病がある場合には、なるべくブドウ糖負荷試験を受けて、治療の必要性をより正確に判定してもらいましょう。

合併症が起きる血糖レベルは「糖尿病型」

 さきほど述べましたように、糖尿病の怖さは合併症にあります。その合併症が起きるのは、空腹時の血糖値が126mg/dL以上の人、またはブドウ糖負荷試験※1の2時間値が200mg/dL以上の人であることがわかっています。ですから、これにあてはまるときは、糖尿病型と診断されます。

糖尿病が心配ない血糖レベルは「正常型」

 糖代謝機能(食物に含まれている糖をエネルギーとして利用する働き)が正常とされるのは、空腹時110mg/dL未満でしかも2時間値140mg/dL未満の人です。

糖尿病予備群に該当するのは「境界型」

こんな人は要注意!
糖尿病の危険度チェック

糖尿病体質を指し示すこと

上半身肥満(リンゴ型肥満、ビール腹。ヒップに比べてウエストが気になる肥満)
血縁者に糖尿病の人がいる
発熱や過食をしたとき、尿に糖が出たことがある
健康診断で血糖値が高めと言われたことがある
(女性で)原因不明の流産、早産、死産をしたことや巨大児(4,000g以上)を分娩したことがある

糖尿病を促す病気や薬の服用

慢性膵炎、膵石症になっている
慢性肝炎、脂肪肝になっている
内分泌の病気(バセドウ病、褐色細胞腫、先端肥大症、クッシング症候群など)がある
副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)、降圧利尿薬を服用している

 糖尿病型と正常型の間は境界型といいます。この程度の血糖値では、糖尿病特有の合併症(三大合併症※2)は起きにくいことがわかっています。このため、直ちに糖尿病として扱われることはありません。ただし境界型の人は、数年以内に糖尿病を発病する確率が高いことが統計的に明らかになっています。ですから、境界型と判定された人は、糖尿病予備群です。
 このようにブドウ糖負荷試験で境界型と判定された人以外にも、右に挙げることが該当する人も、糖尿病予備群の可能性があります。ぜひ早めに診察を受けてください。
※2 三大合併症
 糖尿病の合併症の中で頻度が高い、網膜症、腎症、神経障害の三つをいいます。網膜症は眼底出血や網膜剥離などを引き起こし、視覚障害の原因になります。糖尿病網膜症による視覚障害者は毎年約3,500人とも言われていて、視覚障害の主要な原因となっています。
 腎症は、血液をろ過し尿を作る腎臓の機能が低下する病気で、進行し腎不全になると、人工透析が必要になります。人工透析が必要になる原因のトップが糖尿病腎症で、毎年1万数千人が新たに透析を始めています。
 神経障害は、手足のしびれや痛みで患者さんを悩ますほか、自律神経の障害により、起立性低血圧、失禁などを起こしたり、生命維持に重要な多くの機能に影響を及ぼします。

予備群なら合併症は大丈夫?

食後の血糖値には、とくに要注意

 糖尿病の合併症を防ぐために、軽いうちに糖尿病を診断し治療していくのですが、糖尿病には、'糖尿病特有'とは言えない――糖尿病の人に起こりやすいが、糖尿病でなくても起こる――合併症があります。その代表が、動脈硬化であり、動脈硬化による心臓病や脳卒中です。
 動脈硬化は、血糖値が「境界型」でも進行します。つまり、動脈硬化は予備群の人にも起こる合併症だということです。
 また、空腹時の血糖値が高い人よりも、食後の血糖値が高い人のほうが、心臓病や脳卒中の危険が高いことがわかっています。逆に、食後の高血糖をしっかりコントロールすると、動脈硬化の進行が抑えられ、同時に、糖尿病になりにくくなることが、科学的な調査研究で証明されています。    

メタボリックシンドロームの治療が必要

 近年、糖尿病・高血圧・脂質異常症(高脂血症)のうち二つ以上を併発している人は、動脈硬化が進みやすいことがわかり、たとえそれぞれの病気の程度が軽くて「予備群」の段階だとしても、積極的に治療するようになってきました。そのような状態を「メタボリックシンドローム」といいます。下記の診断基準に該当する場合には、その治療が必要です。

〔メタボリックシンドローム診断基準検討委員会:
 メタボリックシンドロームの定義と診断基準、
 日本内科学会雑誌、94(4):794-809、2005より改変〕
(注)特定健診における空腹時血糖の基準値は100mg/dLが上限です。

糖尿病の経過

年 齢 →

薬による糖尿病予防

 糖尿病予備群の人が糖尿病になりやすいことがわかっているのなら、それを薬で予防することはできないのか――。
 その試みとしてα-グルコシダーゼ阻害薬という、食後の血糖値上昇を抑える薬を使った研究が行われました。その結果、予備群の人がその薬を服用すると、糖尿病の発病が減少するとともに、高血圧や動脈硬化による心臓病・脳卒中の発症も減ることが明らかになりました。食事・運動療法を3〜6カ月以上続けても血糖値がよくならず、かつ、高血圧などの生活習慣病がある場合には、この薬が健康保険で処方されることもあります。
 また、ビグアナイド薬という別の薬を使った研究でも、糖尿病発症の抑制効果が確認されました。ただしその研究では、運動や食事などの生活面を改善するほうが、より高率に糖尿病発症を抑制できることがわかり、生活習慣改善の重要性が改めてクローズアップされました。


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