糖尿病セミナー
7. 肥満と糖尿病
2014年11月 改訂
II.肥満糖尿病の原因
肥満になると、インスリンの必要性が増すため、糖代謝(体内で糖をエネルギーとして消費したり蓄えたりする作用)を支えるすい臓などの各組織が、それぞれの持ち場でフル回転し、肥満という事態に対応します。しかし、その状態が長引くと、血糖を処理する役目の部分に、次々異常が起こり、糖代謝のサイクルが狂ってきます。いくつかのそうした異常が重なって、糖尿病が発症します(下図参照)。
肥満が糖尿病を起こすメカニズム
私たちが、活動するにはエネルギーが必要ですが、そのエネルギーは、血中のぶどう糖(血糖)を、筋肉や脂肪細胞などの組織が、細胞内に取り込むことでつくられます。血糖が細胞内に入るには、すい臓から送られるインスリンと、細胞側にあるインスリン専用のレセプター(以下レセプターと略す)が結合して、初めて入れるしくみになっています。肥満になると、インスリンの血糖降下能が低下してインスリンの必要量が増えるので、すい臓にあるβ細胞が、インスリンを増産し、体内にはたくさんのインスリンが出回るようになります。(高インスリン血症)。
しかし、インスリンが一定量を超えると、レセプターの量が、相対的に減少する現象(レセプター異常)が起きるため、血糖の利用効率がさらに落ちて(インスリンの感受性低下。インスリン抵抗性ともいう)、人によっては、高血糖が始まり出します。
次いで、インスリンとレセプターが結合したあとの異常(レセプター結合以後の異常)も加わってくると、すい臓はそうした状態を正常化しようと、さらにインスリンを増産しますが、血糖処理が追いつかず、ここで糖尿病が発症してきます。レセプター結合以後の異常が発生するのは、肥大した脂肪細胞から、TNF-α、インターロイキン6、レジスチンなどの、インスリンの効き目を下げる物質(サイトカイン)が出ることが主な原因です。
こうした異常が続くと、今度はβ細胞にも異常が起き(β細胞障害)、インスリン分泌も不足する事態になります。糖尿病は重症化して、SU薬やインスリン注射が必要となり、たくさん食べてもやせてきます。
ただ、β細胞が障害されるまで重症化するのは、2型糖尿病の遺伝的体質をもつ人に多いと考えられています。なお、アジア人の糖尿病は糖尿病発症時にはインスリン分泌不全になる場合が多いのですが、欧米人では発症時にもインスリン分泌が過剰の場合が多いという違いがあります。
III.肥満糖尿病の治療
体重減少が治療の原点です
肥満糖尿病の治療の最大の目的は、細胞がもっているインスリンの感受性(効き目)を回復させ、正常な血糖状態をとり戻すことです。それには、まず、体重を減らすことが先決です。日本人の場合、まず3kg 減らすだけで、インスリンの感受性や血糖コントロールが、目に見えて改善してきます。
減量による治療効果
(1) インスリンの感受性が回復します。(2) インスリンの分泌量が適正になります。
(3) 血糖コントロールが改善します。
(4) 血中脂質異常が正常化します。
食事療法と運動療法のふたつが基本
減量は、食事療法と運動療法の組み合わせで行う方法が無理なく、効果的です。食事療法で摂取エネルギーを制限し、運動療法で代謝を改善して、太りにくい体質に変えていくのです。減量しても血糖コントロールが改善しにくかったり、減量ができない状態にあるなどの場合に限って、補助的に、SU薬やインスリン注射などの薬物療法を行います。しかし、肥満糖尿病の場合、多くの患者さんは、発病初期は食事と運動による減量だけで、血糖コントロールが可能です。
なお、減量は、目標によって短期と長期に分けた2段階方式が失敗しません。まず、短期プランで大きく減量し、次に、長期プランでじっくり確実に減量します(囲み記事参照)
●短期プラン
まず、1日でも早く血糖の正常化をはかるために、食事療法を主体にした方法で、2〜3カ月かけて3〜5kg の減量をします。
摂取カロリーを、標準体重×20〜25キロカロリー/1日と低めに抑え、補助的に運動療法を行うものです。この間、空腹にはがまんが必要です。
まず、1日でも早く血糖の正常化をはかるために、食事療法を主体にした方法で、2〜3カ月かけて3〜5kg の減量をします。
摂取カロリーを、標準体重×20〜25キロカロリー/1日と低めに抑え、補助的に運動療法を行うものです。この間、空腹にはがまんが必要です。
●長期プラン
3〜5kgの減量ができたら、次は、運動療法を主体とした長期プランに切りかえます。これは、極端な効果は求めず、毎月1〜2kgの減量を目標とし、確実に持続的に減量することに、重点をおくものです。
食事量の制限は、標準体重×30キロカロリーと、短期プランよりもゆるやかにし、その分、運動量を増やします。太りにくい代謝状態をつくるため、1日最低200〜300キロカロリーの運動を日課にします。
●減量の最終目標
最終的には、BMI20〜24kg/m2程度に落ちつくことが目標ですが、個人差があるため、必ずしもこれにこだわりません。減量はあくまで手段であり、肥満糖尿病の減量の目標は、薬物療法の助けを借りなくても、血糖値を正常範囲に保てるようになることです。5%減量すると効果があるといわれています。
目標達成後は、適正体重と良好な血糖値の維持に努めてください。
3〜5kgの減量ができたら、次は、運動療法を主体とした長期プランに切りかえます。これは、極端な効果は求めず、毎月1〜2kgの減量を目標とし、確実に持続的に減量することに、重点をおくものです。
食事量の制限は、標準体重×30キロカロリーと、短期プランよりもゆるやかにし、その分、運動量を増やします。太りにくい代謝状態をつくるため、1日最低200〜300キロカロリーの運動を日課にします。
●減量の最終目標
最終的には、BMI20〜24kg/m2程度に落ちつくことが目標ですが、個人差があるため、必ずしもこれにこだわりません。減量はあくまで手段であり、肥満糖尿病の減量の目標は、薬物療法の助けを借りなくても、血糖値を正常範囲に保てるようになることです。5%減量すると効果があるといわれています。
目標達成後は、適正体重と良好な血糖値の維持に努めてください。
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