低カロリー甘味料は、血糖値やインスリン値を上昇させないが、甘味をしっかり味わうことができる。
低カロリー甘味料は健康な成人の糖尿病リスクを上昇させないという研究が発表された。
一方、低カロリー甘味料の多くは消化管で消化・吸収されにくいため、大腸まで届きやすい。その結果、一部で腸内環境にマイナスの影響を与える可能性も懸念されている。
そうした場合でも、腸内細菌により改善できるという研究も報告されている。
低カロリー甘味料は血糖コントロールに役立つ
低カロリー甘味料は、血糖値やインスリン値を上昇させないが、甘味をしっかり味わうことができる。また、カロリー摂取量をコントロールすれば、肥満を予防・改善でき、2型糖尿病と心臓病の危険性を低下させることが期待できる。
米国心臓学会(AHA)と米国糖尿病学会(ADA)が2012年に発表した声明では、「低カロリー甘味料は、適切な利用の仕方をすれば、糖質の摂取量と全体的なカロリー摂取量をコントロールするのに役立ちます」とされている。
糖質(炭水化物)を制限することは、最適な栄養摂取と健康的な体重をサポートするための重要な戦略となる。食事に低カロリー甘味料を取り入れることが、食事のカロリー摂取量の減少と体重減少がもたらすことを示した研究が発表されている。
糖質の摂取は血糖コントロールに影響する。以前は100kcalの糖質が加えられた清涼飲料を飲んでいた人が、その代わりに低カロリー甘味料を使えば、摂取カロリーを100kcal減らすことができる。
低カロリー甘味料はすでに、清涼飲料、菓子類、ヨーグルト、デザート、ガムなどの食品に幅広く利用されている。米国で市販されている低カロリー甘味料は、米国食品医薬品局(FDA)によって食品添加物として安全であることが確認されている。
低カロリー甘味料にも上手な使い方が求められる
一方で、両学会の声明では、「カロリーを減らした分、ケーキやクッキー、ポテトチップスなどの高カロリーの食品を食べてしまい、摂取カロリーを100~200kcalと余計に摂ってしまったのでは意味はありません。低カロリー甘味料の上手な使い方が求められます」と指摘されている。
食事療法の基本となるのは、食事のカロリー摂取量と栄養バランスのコントロールだ。一般的に勧められる食品は、野菜、果物、食物繊維の多い全粒穀類、大豆・豆類、低脂肪の乳製品などだという。
声明ではさらに、「ライフサイクルのさまざまな時点での、体重コントロールと血糖コントロールに対する低カロリー甘味料の長期的な影響を判断するには、適切に設計・管理されたヒトを対象とした臨床試験が必要であり、さまざま分野でさらなる研究が必要です」と、注意も促している。
低カロリー甘味料を含む食品を食事に取り入れることで、食事全体にどのような影響がもたらされるかは、利益とリスクの全体的なバランスを考慮して判断する必要があるという。
低カロリー甘味料は糖尿病を引き起こさない
オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターとオハイオ州立大学医学部がこのほど共同で行った研究では、低カロリー甘味料は健康な成人の糖尿病リスクを上昇させないことが示された。
研究グループは、体格指数(BMI)が25以下18~45歳の健康な成人46人を対象に、無作為化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。低カロリー甘味料を平均的な消費量もよりも多く、3ヵ月摂取してもらい、体にどのような変化があらわれるかを調べた。
その結果、低カロリー甘味料は、腸内細菌叢の変化や、耐糖能異常を誘発せず、健康への悪影響を引き起こさないことが示された。甘味受容体を遺伝的に欠いているマウスを使った10週間の試験でも、同様の結果を得られた。
「高糖質・高カロリーの食事は、肥満、心臓病、2型糖尿病のリスクを高めることは多くの研究で示されています。もしも選択肢があるのであれば、低カロリー甘味料を上手に利用すれば、健康上のメリットを得られることは科学的にみて明らかです」と、同大学生化学・薬理学部のジョージ キリアジス氏は言う。
肥満や2型糖尿病が世界的に増加している。その影響で、低カロリー甘味料の使用は世界的に過去10年間で大幅に増加しており、今後も増えると予測されている。
低カロリー甘味料は糖尿病を引き起こさない
オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターが公開しているビデオ
腸内細菌により下痢などを予防できる可能性
慶應義塾大学は、腸内細菌が低カロリー甘味料の摂取によって引き起こされる下痢を抑制することを明らかにした。
お菓子や飲料などに幅広く使用されている低カロリー甘味料(糖アルコール)は、過剰摂取すると一部で軟便や体重減少をともなう下痢を引き起こすことが指摘されている。
ヒトの腸管内には百数十種類、100兆個ほどの細菌が絶えず増殖を続けている。これらは腸内細菌と呼ばれ、複雑な生態系である腸内細菌叢をつくっている。
研究グループは、腸内細菌のまったくいない無菌マウスや、抗生剤で腸内細菌叢を撹乱させたマウスを使って実験を行った。その結果、腸内細菌が糖アルコール誘発性の下痢を防ぐ重要な因子であることが明らかになった。
糖アルコールを栄養源として利用している大腸菌の一種に、糖アルコール誘発性の下痢を抑制する働きがあることも発見した。糖アルコール消費能をもつ大腸菌などの腸内細菌により下痢などを予防できる可能性がある
これまで、低カロリー甘味料の多くは消化管で消化・吸収されにくいため、大腸まで届きやすく、その結果、腸内環境にマイナスの影響を与える可能性が、一部で指摘されている。
大腸菌のなかには、病原性をもたず、食物の消化を助けたり、有害な微生物から宿主を守ったりする働きをになうものがあり、プロバイオティクスとして使用されている大腸菌株もある。
今回の研究では、腸内に共生している大腸菌が低カロリー甘味料によって誘発される腸への有害作用に対して保護的な役割を果たしていることが示された。
Nonnutritive Sweeteners: Current Use and Health Perspectives - A Scientific Statement from the American Heart Association and the American Diabetes Association - (米国心臓学会 米国糖尿病学会 2012年7月9日)
Ohio State Study: High Doses Of Saccharin Don't Lead To Diabetes In Healthy Adults(オハイオ州立大学ウェクスナー医療センター 12, 2021年1月12日)
High-dose saccharin supplementation does not induce gut microbiota changes or glucose intolerance in healthy humans and mice(Microbiome 2021年1月12日)
慶應義塾大学薬学部・薬学研究科
Gut Microbiota Prevents Sugar Alcohol-induced Diarrhea(Nutrients 2021年6月12日)
[ Terahata ]