世界の14億人が運動不足で、2型糖尿病、心血管疾患、2型糖尿病、がん、認知症などの危険性が高まっているという調査結果を、世界保健機関(WHO)が発表した。日本でも3人に1人以上が運動不足だ。
WHOは、2025年までに世界で運動不足を10%減らすという目標を掲げ、「運動推進グローバル行動計画 2018-2030」を立ち上げた。
世界の14億人以上が運動不足 「パンデミック」に
世界保健機関(WHO)は、2016年に世界の世界の成人(18歳以上)のうち、14億人以上が運動不足とみられ、2型糖尿病や心血管疾患、がん、認知症などにかかるリスクが高いとの研究結果を発表した。
運動ガイドラインでは、活発なウォーキングなどの中強度の運動を1日30分、成人は週に5日以上行うことを推奨している。週に2日以上の筋力トレーニングを含めたり、長時間座り続けるのを避けることなども勧めている。
2016年には、世界の男性の4人に1人(23%)、女性の3人に1人(32%)が、この目標に到達しておらず、健康を維持するのに必要な運動・身体活動を行っていないことが判明した。
運動不足の程度は高所得国では37%に上り、低所得国の2倍以上高く、5年間に5%増加している。
研究では、2001〜2016年に身体活動レベルはほとんど改善していないことが示された。こうした傾向が続くと、2025年までに世界で運動不足を10%減らすというWHOの目標を達成するのは難しくなる。
「主要な健康リスクについては改善がみられる項目もありますが、運動不足については世界的に改善していません」と、WHOのレジーナ ガットホールド氏は言う。
日本でも3人に1人以上が運動不足
研究は、168ヵ国の18歳以上の成人約190万人を対象に行われた調査をもとにしている。調査では、職場、家庭、余暇、交通移動での運動・身体活動について、自己申告により調査された。
詳細は国際的な医学誌「ランセット グローバル ヘルス」に発表された。
運動不足の成人の割合は、米国が40.0%、英国が35.9%、ドイツが42.2%、フランスが29.3%、デンマークが28.5%、韓国が35.4%、ブラジルが47.0%に上る。
日本では成人の35.5%(男性 33.8%、女性 37.0%)が運動不足だ。米英に比べると改善傾向にあるが、それでも3人に1人以上が運動不足という状況にある。
運動に積極的に取り組める環境づくりが必要
西欧の先進国でとくに運動不足が増加している。ドイツ、ニュージーランド、米国、アルゼンチン、ブラジルなどがそうだ。
豊かな国では、座ったまま過ごす生活が定着し、レクリエーションや交通でも体をあまり動かさなくなっている。
「政府は、スポーツやレクリエーションをできる場を整備し、国民がウォーキングやサイクリングなどの運動に積極的に取り組めるよう対策する必要があります」と、ガットホールド氏は言う。
先進国だけでなく途上国でも、生活習慣の改善や早期発見・治療により改善が可能な、2型糖尿病、心筋梗塞、呼吸器疾患、がんなどの「非感染性疾患」(NCD)の増加が問題になっている。
最近のNCD政策調査では、日本を含む世界の3分の2の国が、国民の運動不足や不活発を解消するための政策や行動計画を立ち上げていることが報告されたが、実践できている国はまだ少ないのが現状だ。
WHOが「運動推進グローバル行動計画」を立ち上げ
そこでWHOは2018年6月に、「運動推進グローバル行動計画 2018-2030」(WHO Global Action Plan on Physical Activity 2018-2030)を立ち上げた。
この行動計画では、20件の政策分野を組み合わせることで、運動やスポーツをめぐる環境を改善し、運動プログラムを増やすことで、健康で活動的なライフスタイルを促進し、より活発な社会を創造することをめざしている。
行動計画は、座ったまま過ごす時間をなるべく減らし、ウォーキング、サイクリング、水泳、ダンス、活発なレクリエーションなど、あらゆる年齢の人々が運動やスポーツに取り組むことを奨励するために、国が必要とする政策を示したロードマップだ。
「活発に体を動かす生活を選ぶために、プロスポーツ選手のようになる必要はありません。エレベータの代わりに階段を使う、近所で買い物するために車ではなく徒歩で行く、自転車で通勤する、そんなことでも十分です。毎日の積み重ねが大切です」と、WHOのテドロス アダノム氏は言う。
「世界的に、糖尿病、心疾患、がんなどの医療費が増加していますが、それには運動不足が大きく関わっています。運動不足を解消することで、これらの疾患を改善できる可能性があります」と、オーストラリアのシドニー大学のメロディー ディン氏は言う。
女性の運動への参加を促す政策も必要
男女間に運動の格差もあることが明らかになった。日本の調査でも、とくに若い世代の女性で運動不足が目立つ。
多くの国で男性よりも女性の方が運動不足が多く、バングラデシュ、エリトリア、インド、イラク、フィリピン、トルコ、米国、英国といった国でその傾向が強くみられる。
「運動や身体活動についての男女格差は、中央アジア、中東、北アフリカ、南アジアでは顕著です。女性が運動に参加することを促す環境づくりや社会整備が必要です」と、ディン氏は言う。
「女性が運動する機会を増やし、安全・安価・文化的にアクセスできるよう、社会の体制を整備することが、運動不足を解消するというグローバルな目標を達成するために不可欠です」と、WHOのフィオナ ブル氏は強調している。
Physical activity(世界保健機関)
More active people for a healthier world - The global action plan on physical activity 2018 - 2030-(世界保健機関)
Globally, 1.4 billion adults at risk of disease from not doing enough physical activity(ランセット 2018年9月4日)
Worldwide trends in insufficient physical activity from 2001 to 2016: a pooled analysis of 358 population-based surveys with 1·9 million participants(ランセット グローバル ヘルス 2018年9月4日)
[ Terahata ]