糖尿病の人の中には「五十肩」に悩まされている人が多い。糖尿病が悪化すると五十肩も治りにくくなり、五十肩の検査で糖尿病が発見されるケースもあるという。
糖尿病の人は「五十肩」になりやすい
「五十肩」とは、肩関節周辺の組織に変性が起こり、生じた炎症によって痛みが起こる「肩関節周囲炎」のこと。40〜50歳代で多く発症する。
▽肩が痛んで腕が上がらない、▽衣服の脱ぎ着ができない、▽夜や朝方に肩が痛くて目が覚める、▽痛い方の肩を下にして眠れない、▽痛いほうは腕が後ろに回せないなどの症状があらわれる。
「たかが五十肩」と軽くみられる傾向があるが、その中に重症化しやすいタイプも含まれるので注意が必要だ。
40〜50歳代に起こりやすい要因として、この年代は加齢によって肩周辺の組織がもろくなり始めること、仕事や運動などで肩を動かすことが多いこと、肩関節は動く範囲が大きいために骨以外の組織が引っ張られやすいことがあげられる。
糖尿病で血糖コントロールが不良だと、肩の動きに大きな役割を果たしている腱板の損傷部分が血行不良になり、五十肩を起こしやすく、治りにくくなると考えられている。
症状が軽い場合は簡単な運動で五十肩を改善できる
Sports Injury Clinicが公開しているビデオ。
適度な運動を行うと効果的
五十肩には、突然痛みが発生する「急性期」と、肩の動きが制限される「慢性期」がある。
急性期は、発症から通常は2週間ほど続く。痛みが強いものの、無理をすれば肩を動かすことができる。肩を動かしたときだけでなく、安静時や就寝時にも痛みが出る。痛みを伴う動作は無理に行わないようにする必要がある。
慢性期は、通常は6ヵ月ほど続く。痛みは軽減するが、肩を動かしにくくなり、無理に動かそうとすると痛みが出る。痛みが軽減してきたら、硬くなった肩関節をほぐすために肩の運動を行い、少しずつ肩の可動域を広げていく。
特に糖尿病がベースにある場合は適度な運動を行うと効果的だ。体操を行う場合は、呼吸を止めずに、ゆっくりした動作で、あくまで気持ちよいと感じる痛さに加減して行と効果的だ。
五十肩の多くは簡単な運動を毎日続けることで改善できる
Ask Doctor Joが公開しているビデオ。
糖尿病患者の10~20%が肩の痛みに悩まされている
肩関節は上腕骨、肩甲骨、鎖骨の3つの骨で支えられ、肩を大きく動かすために肩甲骨関節窩が小さく上腕骨頭のはまりが浅い。そのため骨だけで不安定なところを関節包や発達した腱板が強度を高めている。
筋肉が衰えてくると、筋肉が骨に付着している腱が拘縮しやすくなる。その状態で肩を動かすことで起こる肩周囲の滑液包の炎症が、五十肩の原因と考えられている。血流の低下も原因のひとつだ。
また、年齢とともに、肩の部分にある関節を覆う膜や骨同士を結びつける靱帯の柔軟性が低下する。上腕部の筋肉と骨をつなぐ腱板が加齢にともない変性し、炎症を起こしやすくなる。
特に、糖尿病がある人は、そうでない人と比べて五十肩になりやすく、治りにくいことが分かっている。
米国の整形外科医学アカデミーによると、糖尿病患者の10~20%が五十肩に悩まされている。40歳代から60歳代で五十肩が増え、男性よりも女性の方が発症する可能性が高い。
東京女子医科大学東医療センターの調査では、糖尿病の人では五十肩を合併する割合が高いことが分かった。五十肩で受診している人で糖尿病と診断された割合が約3割に上るという。同センターでは、肩の痛い中高年の患者に血液検査をして、血糖値やHbA1cを調べている。
痛みが改善しない場合は整形外科を受診
糖尿病で併発した五十肩では、整形外科の治療だけでなく、血糖値のコントロールが欠かせない。糖尿病のある人は五十肩の発症や悪化を防ぐためにも、食事や運動、薬などで血糖を適切にコントロールすることが重要だ。
五十肩は多くの場合、1〜2年で自然に治るか、日常生活に支障をきたさない状態になるため、必ずしも受診する必要はない。ただし、強い痛みがある場合や、痛みや動きの制限によって仕事など生活に支障がある場合は、整形外科を受診することが勧められる。
五十肩がなかなか治らなくて困っている人や、運動を半年以上行っても一向によくならない人のために、最近では肩関節鏡視下手術を行う肩関節外来を開設する医療機関が増えている。
東京女子医科大学東医療センターの肩関節外来では、肩関節鏡視下手術により2~3泊の入院で、小さな創で治療する治療を行っている。
関節鏡視下手術では、外側の正常組織を殆ど損傷せずに内部の病変部位を修復することが可能で、レベルの向上が目覚しい治療法だ。
東京女子医科大学東医療センター 肩関節外来
Frozen Shoulder(米国糖尿病学会 2015年3月30日)
[ Terahata ]