筋肉に脂肪が霜降り状に蓄積する「脂肪筋」が増えると運動機能が低下し、特に男性では年齢が高くなると「脂肪筋」が増え、「サルコペニア」の危険性が高まることが、名古屋大学などの研究チームによって明らかにされた。
「脂肪筋」がたまると運動能力が衰えるが、その目安となるのは「椅子座り立ち」運動の衰えだという。
筋肉が霜降り状態に
「脂肪筋」がたまると運動機能が低下
「脂肪筋」が増えると、血糖を下げるインスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」が引き起こされ、2型糖尿病のリスクが上昇する。また、「脂肪筋」は運動機能にマイナスの影響を及ぼすことが明らかになっている。
「脂肪筋」は加齢とともに増加するが、日本人ではどのような因子と関係しているのかは明らかになっていない。そこで、名古屋大学などの研究チームは、どのような人が「脂肪筋」がたまりやすく、どのような体の変調が起こりやすいかを調べた。
研究は、名古屋大学総合保健体育科学センターの秋間広教授らによるもので、医学誌「Archives of Gerontology and Geriatrics」に掲載された。
運動機能が低下すると「サルコペニア」の危険性が高まる
研究チームは、62~88歳の男女64人を対象に、太ももの筋肉の「脂肪筋」の指標と筋肉の厚み、椅子の座り立ちを連続10回行うのに要する時間、寝た状態から立ち上がるまでに要する時間などの運動機能について測定した。
「脂肪筋」に関わりの深い因子を調べたところ、年齢が高くなると「脂肪筋」が増える傾向がみられ、筋肉量が低下するとまず椅子の座り立ちの機能が衰えることが明らかになった。つまり、「脂肪筋」が多い人は、加齢に伴い筋肉が萎縮し、運動機能も低下し、「サルコペニア」の危険性が高まるという。
「サルコペニア」とは、加齢とともに筋肉の量が減少し、機能が低下した状態。筋肉量が一定以下まで低下すると、日常生活の動作が制限されるようになり、寝たきりや転倒骨折などを起こすリスクが非常に高まる。
研究チームは、医療現場で用いられる超音波断層装置により、太ももの横断画像を撮影しコンピュータで画像分析、筋肉内の霜降り度合いを数値化。得られた画像から、筋肉の厚さ(筋量の指標)、皮下脂肪の厚さ(脂肪量の指標)も同時に計測した。
さらに運動機能として、「上体起こし測定」「床立上がり測定」「椅子座り立ち測定」「5m最大速度歩行測定」「6分間歩行距離」の測定を行った。その他、身体組成計を用いて、全身の体脂肪量、体脂肪率、筋肉量、筋肉率を推定した。
その結果、「脂肪筋」が増えている人では、男女ともに筋肉が減少しており(男性 r=-0.734、女性 r=-0.565)、筋肉の霜降り状態が進んでいることが分かった。
「椅子座り立ち」運動が衰えたら要注意
女性では「脂肪筋」と皮下脂肪の厚さが関連していたが、男性では相関関係はみられなかった。脂肪組織が体に蓄積していくパターンは、男性と女性では異なることが示唆された。
さらに「脂肪筋」ともっとも関連の深い指標を調べたところ、男性では、(1)太ももの筋肉の厚さ、(2)椅子座り立ち測定、(3)年齢が、女性では、(1)太ももの筋肉の厚さ、(2)椅子座り立ち測定が、「脂肪筋」を予測できる関係因子であることが明らかになった。
筋肉内に蓄積する「脂肪筋」はサルコペニアと密接に関係しており、「脂肪筋」は運動機能との間にもマイナスの関係があることが示された。
また、加齢が「脂肪筋」に与える影響については、高齢男性と高齢女性では異なることも示唆された。
加齢に伴い筋肉の量が減少しサルコペニアの危険性が高まるが、同時に筋肉の中に脂肪が蓄積し、量的な変化だけでなく筋肉の「質的な変化」も生じているという。また、加齢に伴う筋肉の質的変化の影響は男性で特に大きいという。
さらに、この筋肉の中に蓄積した脂肪は、高齢男性と女性ともに運動機能にも影響することが分かった。定期的な運動が、筋肉量と運動機能の低下を軽減し、同時に「脂肪筋」の蓄積を抑制するという。
「脂肪筋の多い高齢者は、将来的にサルコペニアなどに陥る可能性が高い。患者に運動や食事の指導をするときは、筋肉の量的指標だけでなく、質的な指標についても十分に考慮する必要がある」と、研究者は述べている。
名古屋大学総合保健体育科学センター
Relationship between quadriceps echo intensity and functional and morphological characteristics in older men and women(Archives of Gerontology and Geriatrics 2017年1月14日)
[ Terahata ]