英国のケンブリッジ大学の研究チームが、1型糖尿病患者が低血糖になると、息に微量の化学物質が増えることを発見。これをモニターして低血糖を早期に発見する方法をみつかれば、低血糖の弊害を最少に抑えられる可能性がある。
低血糖を感知して知らせる「糖尿病アラート犬」
1型糖尿病患者の低血糖を感知して患者や家族に知らせる「糖尿病アラート犬」が欧米で訓練されている。ケンブリッジ大学の研究で、なぜ犬が低血糖を嗅ぎ分けられるのかが解明された。研究は米国糖尿病学会(ADA)が発行する医学誌「ダイアベティズ ケア」に発表された。
「低血糖」は、インスリンや血糖降下薬で治療をしている患者に起こる、血糖値が下がり過ぎた状態。血糖値が50mg/dL程度に低下すると、頭痛、目のかすみ、空腹感、眠気などの症状が起こり、50mg/dL以下になると、意識レベルの低下、異常行動、けいれんなどが現れ、昏睡に陥りやすくなる。
就眠中に起こる「夜間低血糖」は、症状を自覚しにくいので特に深刻だ。低血糖が起きていないかを確かめるために、夜間に起き出して血糖自己測定を行う必要がある。低血糖が起きている場合は、ブドウ糖やブドウ糖を含む飲料を摂取するか、経口摂取ができない場合は家族に血糖を上げるグルカゴンを注射してもらう必要がある。
ケンブリッジ大学エードンブローク病院小児科の糖尿病専門看護師であるクレア ペスタフィールド氏は、自身が1糖尿病患者だ。インスリン注射と血糖自己測定を毎日欠かさず行っている。
彼女は、糖尿病患者の低血糖を嗅ぎ分けられるよう特別な訓練を受けた「糖尿病アラート犬」を飼っている。このマジックという名のゴールデンラブラドルは、アラート犬を育てる英国の慈善団体である「メディカル ディテクション ドッグ」によって訓練された。
低血糖を感知して知らせる「糖尿病アラート犬」
低血糖が毎日の治療の脅威に
研究者によると、犬の嗅受感覚器の数は人間のおよそ1,000倍だという。糖尿病アラート犬は鋭い嗅覚で低血糖を嗅ぎ分け、深夜のベットや外出先で飼い主に異変が起きると知らせることができる。
「インスリン療法を続けている患者にとって、毎日の治療で低血糖は脅威になっています。血糖値が過剰に低下し、それが急速に起こるとき、命にも関わる危険な状態になります」と、ペスタフィールド氏は言う。
患者によっては、無自覚性の夜間低血糖が起きている場合もあり、適切な処置を行わないと命に関わることがあり、そうでない場合でも心血管疾患や認知症の発症リスクが高まる。
犬のマジックは、夜間に低血糖が起こると、その臭いを嗅ぎ分けて、低血糖を知らせるために跳び上がって、眠っているペスタフィールド氏の肩に足を置き起こしてくれるという。
「犬のマジックは大切な仲間であるだけではありません。1型糖尿病の私にとっては、低血糖を知らせる“鼻”の役割を担っています」と、ペスタフィールド氏は言う。
低血糖時に呼気に増える天然化学物質を感知
なぜ犬が低血糖を嗅ぎ分けられるのだろうか? ケンブリッジ大学ウェルカム トラストMRC研究所の研究チームは、血糖値が低いときに息に特定の物質が混ざり、呼気の成分が変化するのではないかと考えた。
研究チームは、40歳代の1型糖尿病の女性8人に参加してもらい実験を行った。血糖値をコントロールした環境下で呼気を質量分析し、血糖値が低いときにどのような化学物質が増えるかを調べた。
その結果、低血糖時には呼気に混ざる炭水化物の一種である「イソプレン」の値が2倍に上昇することが判明した。
「イソプレンは人間の呼気に含まれる一般的な天然化学物質ですが、どのようなメカニズムで発せられるのか不明の点も多いのです。コレステロール産生の副産物と考えられていますが、低血糖時になぜ増えるのかはよく分かっていません」と、エードンブローク病院のマーク エヴァンス氏は言う。
特別な訓練を受けた犬は、人間の呼気に含まれるイソプレンを嗅ぎ分けることができる。しかし、犬を訓練するために技術や設備、費用が必要となる。自動的にイソプレンを識別できる医療機器を作れば、誰もが利用できるようになる。
「低血糖を知るためには、患者は指を穿刺して採血し、血糖自己測定を行う必要があります。イソプレンを医療機器で識別する方法であれば、血糖自己測定を行わなくとも、緊急に対応することができます。潜在的に命に関わる合併症のリスクを減らすことができます」と、エヴァンス氏は述べている。
Diabetes sniffer dogs? ‘Scent’ of hypos could aid development of new tests | University of Cambridge(ケンブリッジ大学 2016年6月27日)
Exhaled Breath Isoprene Rises During Hypoglycemia in Type 1 Diabetes(Diabetes Care 2016年6月21日)
[ Terahata ]