2型糖尿病とアルツハイマー病を併発する高齢の患者が増えているが、対策も進められている。近い将来に、糖尿病の治療薬でアルツハイマー病の治療も行えるようになる可能性がある。
糖尿病とアルツハイマー病の関連を探る研究から生まれた成果
スコットランドのアバディーン大学の研究チームは、2型糖尿病とアルツハイマー病の関連について調査しており、糖尿病の治療薬がアルツハイマー病の進行を防ぐのに効果的であることに気が付いた。
この成果は、アバディーン大学医療サイエンス研究所のバイオ医学が専門のミレラ デリベゴベック教授と、神経内科学が専門のベッティナ プラット教授による画期的な共同研究によるものだ。成果は、欧州糖尿病学会(EASD)が発行する医学誌「Diabetologia」に発表された。
糖尿病は、血糖を下げるインスリンの作用不足によって起こる代謝症候群だ。その背景として、カロリーや脂肪の摂り過ぎや運動不足など、生活習慣が深く関わっていると考えられてきた。
研究チームは、2つの病気がともに高齢者に多いのは理由があるからだと考え、その原因を解明する研究を始めた。
「高血糖の人は高齢になるとアルツハイマー病を発症しやすくなります。逆に言えば、糖尿病の病状を改善すれば、アルツハイマー病による脳機能の低下を抑えられるはずです」と、プラット教授は言う。
脳の調整不能が糖尿病の原因に
研究チームはアルツハイマー病のモデルを発展させて、原因がアルツハイマー病だけでなく、糖尿病合併症によって毒性のある蛋白質を産生する遺伝子が脳内に増えることが要因となっていることを突き止めた。
アルツハイマー病患者の脳内には異常蛋白であるアミロイドβが蓄積して、それが線維化して塊となって沈着する。アミロイドβを産生する働きを持つ「BACE1」という蛋白分解酵素があり、アルツハイマー病の脳ではその発現が上昇する。研究チームは糖尿病においても「BACE1」が増えていることを発見した。
「糖尿病とアルツハイマー病との関連を探る研究は始まったばかりですが、アルツハイマー病のある人の80%は脳内の環境が糖尿病の状態になっていたり、耐糖能異常が起きていると考えられています」と、プラット教授は言う。
不健康な生活スタイルは2型糖尿病の発症リスクを高めるだけでなく、アルツハイマー病のリスクも高める。これまで2型糖尿病の原因は、膵臓や肝臓、脂肪細胞などの体の器官にあると考えられてきた。そのため“糖尿病は太った人がかかる病気だ”といった誤解をまねくこともあった。実際には、体脂肪が少なく肥満のない人でも2型糖尿病を発症することがある。
「我々の研究では、もうひとつの重要な要因は脳にあると解明しつつあります。脳の調整不能が糖尿病の一因であると考えています」と、プラット教授は言う。
アルツハイマー病と糖尿病の両方に効果がある治療薬を開発
2型糖尿病や肥満の治療薬の中には、潜在的にアルツハイマー病の治療にも効果があるものがあるという。今回の研究が、アルツハイマー病の新しい治療法の開発につながる可能性がある。
糖尿病患者にとって良いニュースとなるのは、現在、アルツハイマー病と糖尿病の両方に効果があると考えられている新しい医薬品の開発が、世界中で数多く進められていることだ。
「近いうちに、アルツハイマー病と糖尿病の両方を治療し、脳の認知機能を改善しながら、糖尿病の合併症も予防する治療法が実現しそうです」と、プラット教授は言う。
認知症の専門家と糖尿病の代謝の専門家が協力することで、糖尿病とアルツハイマー病の関連について多くのことが分かってきた。
糖尿病のある人がアルツハイマー病を発症しやすいことは以前から知られていた。しかし、糖尿病は適切に治療すればコントロールできる病気だ。それと同じように、アルツハイマー病も適切に対処すれば改善できるはずだという。
近い将来に、血糖コントロールを改善しながら、アルツハイマー病の症状の進行も抑える治療薬を使えるようになる可能性がある。
New link found between diabetes and Alzheimer's disease(アバディーン大学 2016年6月21日)
Neuronal human BACE1 knockin induces systemic diabetes in mice(Diabetologia 2016年3月2日)
[ Terahata ]