ヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作製した、腎臓のさまざまな細胞のもとになる腎前駆細胞をマウスに移植し、急性腎不全の症状を抑制させることに京都大学iPS研究所とアステラス製薬などの研究グループが成功した。ヒトの急性腎不全などにも効果が期待できるという。
iPS細胞から作製した腎前駆細胞を移植し腎機能障害を改善
iPS細胞(人工多能性幹細胞)は、心臓や神経、腎臓などさまざまな細胞を作り出す可能性があることから「万能細胞」と呼ばれる。
京都大学iPS研究所の長船健二教授とアステラス製薬の研究グループは、腎臓の再生医療に関する共同研究を行っている。iPS細胞から作製した腎前駆細胞を移植し、マウスの急性腎障害(AKI)による腎機能障害や腎組織障害を軽減するのに成功した。
「急性腎障害」(AKI)は、腎臓が数時間~数日の間に急激に働かなくなった状態をいい、以前は急性腎不全と呼ばれていた。尿から老廃物を排泄できなくなり、さらに体内の水分量や塩分量などを調節することができなくなり、死亡率が50%超と高い上、腎臓がダメージを受け、慢性腎臓病となるケースも多い。
これまでの治療法ではこの急性腎障害により受けた腎臓のダメージを軽減することは従来の治療で不可能で、ヒトiPS細胞を使った細胞移植が新しい治療の選択肢のひとつとして期待されている。
壊死や線維化などの腎細胞組織のダメージを軽減
研究グループは、ヒトiPS細胞に、腎前駆細胞の指標となるOSR1遺伝子の発現に伴いGFP(緑色蛍光タンパク質)が、SIX2遺伝子の発現とともにtdTomato(赤色蛍光タンパク質)が発現する系を構築した。この系を用いて緑と赤の蛍光を目印に、ヒトiPS細胞から腎前駆細胞へと分化誘導する方法を確立した。
この方法で誘導した細胞は、急性腎不全のマウスに移植したところ、いずれも尿細管様の管構造をつくり、腎臓の前駆細胞として機能することが明らかになった。
さらに、急性腎不全の腎被膜下に作製した腎臓の前駆細胞を移植したところ、腎機能の検査値である血中尿素窒素(BUN)値や血清クレアチニン値が、細胞を移植しなかったマウスと比べて顕著に低下していることが分かった。
また、腎臓の組織切片を観察したところ、尿細管の壊死や、細胞が機能しなくなる線維化など、腎臓が障害を受けた時に発生する現象も小さく抑えられたという。
慢性腎不全の新たな治療法を開発
今回の研究では、ヒトiPS細胞から作製した腎前駆細胞を、急性腎障害のマウスに移植し、回復効果を得られることが確かめられた。
移植した細胞は、マウスの腎臓の一部にはならなかったが、周りの細胞の回復を助ける働きがあり、また腎臓の保護因子も分泌していることが確認された。
人工透析を受けている慢性腎不全の患者の場合、腎臓の細胞がほとんど壊れているため、治療には腎臓そのものを作製して移植することが必要であり、今回の方法だけでは治療は困難だ。
しかし、今回の研究により急性腎障害を発症した患者の腎機能を回復し、慢性化を防げる可能性が示された。
研究が進めば、慢性腎不全の患者にも細胞移植による新たな治療が行えるようになる可能性がある。急性腎不全だけでなく、日本に1,300万人以上患者がいる慢性腎臓病(CKD)の進行抑制の効果が期待できるという。
この研究は科学誌「Stem Cells Translational Medicine」オンラインに発表された。
京都大学 iPS細胞研究所: CiRA(サイラ)
Cell Therapy Using Human Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Renal Progenitors Ameliorates Acute Kidney Injury in Mice(Stem Cells Translational Medicine 2015年7月21日)
[ Terahata ]