肥満や2型糖尿病が増えている原因のひとつは、掃除や洗濯などの家事にかける時間が少なくなり、代わりに座ったままテレビやスマートフォンを見て過ごす時間が増えたからだ。
家事時間の減少は身体活動の低下に直結
米国人の肥満の割合は、2004年には32%に上ったが、1960年代には13%だった。肥満は40年で2.5倍に増えた。肥満が増加している背景に、家事に費やす時間が減っていることが指摘されている。
サウスカロライナ大学公衆衛生学部のエドワード アーチャー博士らは、米国人の家事時間の減少について調査した。この研究は科学誌「プロス ワン」に発表された。
女性が家事に費やす時間は、1965年には週に25.7時間だったが、2010年には13.3時間に減少した。それにともない、カロリー消費量は1965年には週に6,000kcalだったのが、2010年には4,600kcalに減少した。家事による1日のカロリー消費は、40年でおよそ200kcalも減ったことになる。
「この40年で、女性が家事などの身体活動で消費するカロリーは大きく減少しました。掃除機や洗濯機、自家用車が普及し、家事時間が短縮され、歩いて買い物に行かなくなったことなどが影響しています」と、アーチャー博士は言う。
身長168cm・体重76kgの人が、1時間の通常のウォーキングで消費できるカロリーは287kcalぐらい、階段の上り下りであれば516kcalぐらいだ。
これに対し、家事で消費できるカロリーは、▽掃除機をかける(194kcal)、▽床ふき(174kcal)、▽ガーデニング・草むしり(288kcal)、▽床をモップでふく(194kcal)、▽窓ふき(180kcal)、▽アイロンがけ(113kcal)、▽壁紙の張り替え(133kcal)、▽薪割り(415kcal)となっている。
現代人は、家事時間が減った分、身体活動が低下している。消費カロリーが減った分が、そのまま体重増加につながっているおそれがある。
テレビの視聴時間が増加し運動不足に
身体活動が低下しているのは女性に限った話ではない。男性でも1日の仕事時間の消費カロリーは、1960年代に比べ142kal減っている。これを1年に換算すると、およそ10kgの体重増加につながるという。
「1960年代には人々は仕事や家事に追われていました。昼間に働いて、夜に家に帰ると、家事や子育てに時間を費やし、1日のあいだに二重の生活をしていたのです。現代では、男女ともに多くの人々は家事から解放されています」と、アーチャー博士は話す。
自由になった時間には、テレビやコンピュータの前で座ったまま過ごしたり、モバイルフォンなどを操作して過ごすことが多くなった。テレビの前で過ごす時間は、1965年は週に8.3時間だったが、2010年には16.5時間に倍増した。テレビの視聴時間がもっとも短いのは、1960年代の仕事をもっている女性で週に7.5時間だった。
「家事で体を活発に動かすことがくなり、テレビ視聴などの体を動かさない娯楽が増えています。こうした時間の配分の変化は健康増進に大きく影響しており、肥満や2型糖尿病の増加の一因になっている可能性があります」(アーチャー博士)。
次は...家事だけを行っていれば十分というわけではない
家事だけを行っていれば十分というわけではない
ただし、注意しなければならないのは、家事をしていれば、身体活動量が十分に足りるわけではないことだ。
英アルスター大学の研究者が4,600人以上を対象に行った研究によると、家事に多くの時間を費やしている人では、運動ガイドラインが勧める運動の所要量を満たしていない割合が高いという。
「家事に多くの時間を費やしている人は、家事をしているので運動をしなくても良いと考えがちです。家事をしているのだから、特に運動をしなくてもいいだろうと考えてしまうのです。実際には、運動量は決して十分とはいえません」と、アルスター大学のマリー マーフィー氏は指摘している。
調査では、「健康を増進するために運動が不可欠ですが、自分の毎日の運動量は足りていると思いますか?」という質問に対し、43%の人が「足りていると思う」と回答した。そのうち、最大で73%は「家事が運動の代わりになる」と考えていることが分かった。
詳しく調べてみると、家事の内容は「掃除」や「洗濯」、「アイロンがけ」といった運動強度の低いものが大半だったという。現代では、家事の多くは自動化された機械を使い、効率化がはかられており、昔のようにカロリーを多く消費することが少なくなった。
「掃除機をかけたり、床を掃除すると、30分で130kcal以上を燃焼できますが、トレッドミルで自転車こぎを30分行った場合は倍以上の400kcalを燃焼できます。カロリー消費量だけをみると、運動やスポーツの方がはるかに効率は良いのです」と、マーフィー氏は言う。
家事の中にはカロリーをたくさん消費するものもある。芝刈り機で庭の手入れをしたり草刈りをすると、ウォーキングを30分行ったのと同じくらいのカロリーを消費することになる。
「ただし、こうした運動負荷の高い家事を、毎日行っているわけではありません。家事をすると運動によるカロリー消費を増やせるのは確かですが、ほとんどの人にとっては、ジョギングやウォーキングなどの運動を組み合わせることで、効果が倍増すると考えるべきでしょう」と、マーフィー氏は指摘している。
45-Year Trends in Women's Use of Time and Household Management Energy Expenditure(プロス ワン 2013年2月20日)
Housework Is not Always a Healthy Exercise Alternative(アルスター大学 2013年10月18日)
[ Terahata ]