低カロリーの食事が全身の老化にブレーキをかけることが遺伝子レベルで解明されている。鍵となるのは、カロリー摂取の制限により活性化される長寿遺伝子「サーチュイン(Sirtuin、SIRT1)」だ。
サーチュイン遺伝子は、空腹の状態、つまり摂取カロリーが減ると活性化する。これは動物としての防衛機能と考えられ、食料が減ってエネルギーが足りなくなると、細胞レベルの損傷を防ぐために修復機能が活性化すると考えられている。
サーチュイン遺伝子には、老化やがんの原因とされる活性酸素を抑制したり、病原体のウイルスを撃退する免疫抗体の活性化、さらに全身の細胞の遺伝子をスキャンして修復するなど、さまざまな老化を防止する機能があるとされる。
米国では、サーチュイン遺伝子の働きを高める方法が研究されており、カロリー制限が効果的な方法であることが判明している。さらにサーチュイン遺伝子の働きを高める薬の開発も始まっている。
サーチュイン遺伝子は記憶力強化や脳活動の活性化にも重要な役割を果たしている可能性が高い。サーチュイン遺伝子が作りだす酵素が、記憶力を強化し、脳内の神経細胞の発達を促進すると考えられている。
米マサチューセッツ工科大学のLi-Huei Tsai氏(神経生物学)らの研究チームは、カロリー制限がどのように実験マウスの脳細胞に影響を与えるかを調べる実験を行った。
その結果、30%のカロリー制限を行うことで、サーチュイン遺伝子が作りだす酵素が増えることを突き止めた。この酵素は神経細胞の喪失を防ぎ、それに伴う脳の機能低下を防ぐ働きをする。
この酵素を増やす薬剤を投与したマウスでは、通常のマウスと比較して、海馬への電気刺激に対する反応が良好であることが判明した。海馬は長期記憶と空間ナビゲーション能力に重要な役割を果たしている。また、アルツハイマー病で、脳の中でもっとも早くに損傷がみられる領域とされている。
この実験マウスでは、脳活動の重要な指標である神経細胞の密度低下が抑制されていた。記憶力テストでも、古い物体と新しい物体を区分けする能力が向上していた。
研究チームは、この発見が、アルツハイマー病や衰弱性神経疾患の治療薬の開発に役立つ可能性もあるとしている。
Reducing caloric intake delays nerve cell loss(マサチューセッツ工科大学 2013年5月21日)
[ Terahata ]