横浜市で1月に開催された第50回日本糖尿病学会関東甲信越地方会で、羽田勝計・旭川医科大学内科学講座病態代謝内科学分野教授が、「糖尿病腎症の病態と治療〜新たな展開〜」と題して講演した。早期診断と的確な治療を着実に実施することで、糖尿病腎症の寛解は可能だと強調している。
糖尿病腎症の管理・治療法は進歩している
糖尿病性腎症は慢性の高血糖状態が持続することにより引き起こされる細小血管障害のひとつで、臨床的には蛋白尿(初期には微量アルブミン尿)、腎機能障害、高血圧、浮腫などを呈し、最終的には腎不全に至る。
糖尿病性腎症は、1998年から透析療法導入原疾患の第1位となり、2011年には全透析療法導入者数の中で44.2%を占めるにいたっている。背景には、糖尿病患者数そのものの急増と、未治療または治療を中断し末期腎症に至ってから受診する患者が後を絶たないという状況がある。
一方で、糖尿病腎症の管理・治療法は進歩しており、医療機関継続受診例では患者の腎症発症・進行はかなり抑制されつつある。そして最近では、腎症の寛解(remission)さえ生じえることが報告されている。
早期診断に必要な検査を着実に実施することが重要
糖尿病性腎症では糸球体血管壁の透過性亢進により血漿蛋白、特にアルブミンの尿中漏出が生じ、糸球体性蛋白があらわれる。蛋白定性検査で陰性と判定された検体尿でも、アルブミンの排泄量が異常に増加していることがある。「微量アルブミン尿」は、早期の腎障害の目安になる。
糖尿病症例に「微量アルブミン尿」が出現した時点で糖尿病性腎症と診断することは、すでに1990年代に全世界で確立している。日本糖尿病対策推進会議では2009年に啓発ポスターを作成した。
腎症の診断における微量アルブミン尿の重要性はすでに確立しているが、尿アルブミン値の定量検査が必ずしも年1回行われていないという問題が浮上している。
「尿蛋白陰性か陽性(+1)を示す尿病患者を対象に随時尿によるアルブミン定量検査を日を変えて施行し、30〜299mg/g・Crが3回中2回以上該当した場合」に微量アルブミン尿と判定する。
しかし実臨床で「尿蛋白が陰性か+1程度の陽性」の患者に尿アルブミン検査を頻回に行うことは十分には行われていないという。「尿蛋白陰性であっても少なくとも年1回は尿アルブミン検査を行っていただきたい。尿アルブミン値測定の啓発活動は今後も必要です」と、羽田先生は強調した。
糖尿病発症初期から医療管理下にある患者の腎症発症・進行はかなり抑制されつつある。厳格な血糖コントロール、レニン-アンジオテンシン(RA)系阻害薬を第1選択薬とした厳格な血圧コントロール、血清脂質コントロール、およびマイルドな蛋白制限食を含む集約的治療により、糖尿病腎症の寛解(remission)は可能になった。
「今後は“腎症の寛解を目指す”という確かな視座をもって、個々の患者に対して早期に、かつ積極的に介入し取り組むことが重要です」と、羽田氏はまとめた。
第50回日本糖尿病学会関東甲信越地方会
[ Terahata ]