厚生労働省は7日、「運動基準・運動指針の改定に関する検討会」(座長:戸山芳昭・慶應義塾大学医学部整形外科学教室教授)の初会合を開き、6年前にまとめた「健康づくりのための運動指針」と、健康づくりのための運動基準を見直すための議論を始めた。高齢者や2型糖尿病などの生活習慣病患者の身体活動などの科学的知見をもとに議論を進め、今年度中に新たな指針と基準を取りまとめる方針だ。
運動不足の影響は肥満や喫煙に匹敵する
生活習慣病は死亡数の約6割、一般診療医療費の約3割を占める。生活習慣病の一般診療医療費は8.8兆円に上る(平成22年度)。また、高血圧症、糖尿病、高脂血症などの有病率が急激に増加しており、虚血性心疾患と脳血管疾患などの深刻な疾患の原因となっている。
これらの疾病の危険因子を減少させるため、健康を維持し生活習慣病を予防するために必要な身体活動や運動を示す、新しい運動指針・基準を策定することが求められている。
この日の会合では、厚労省から改定に向けての主な論点として、▽運動基準・指針の対象者や利用者の考え方、▽新たな科学的知見をふまえた運動基準の改定方法、▽高齢者、生活習慣病患者、子どもの運動基準、▽安全・効果的な運動指導の留意点、▽利用者の視点に立った運動指針の在り方、▽まちづくりの視点を含めた普及啓発の具体的方策――が示された。
下光輝一委員(健康・体力づくり事業財団理事長)は、世界の死亡数の1割近くが運動不足に起因し、影響の大きさは肥満や喫煙に匹敵すると指摘した上で、「成人の33%、子供の80%が推奨される身体活動を行っておらず、身体的不活動は世界的に流行しているパンデミックの状態といえる」と警鐘を鳴らした。
健康増進のためには、成人は1週間に少なくとも150分の中等度から高強度の身体活動を行うべきだが、日本ではこの12年間、国民の1日の歩数は減少傾向にある。
下光委員は「通勤、買い物など日常生活の歩行を推進するために、たとえば都市への車の乗り入れ禁止などの社会環境対策や、健康な街づくり計画などを進める必要がある。ウォーキングのための環境を整備するなど、運動を習慣として行いやすい社会整備も求められている」と強調した。
運動器の障害のために自立度が低下し、介護が必要となる危険性の高い状態になる「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」も深刻だ。有酸素運動だけでなく、骨格筋群を含む筋力を強化する運動や身体活動も普及させる必要がある。
「4メッツ・時」以上の運動・身体活動を増やすための基準づくり
また、宮地元彦委員(国立健康・栄養研究所健康増進研究部長)は、運動基準改定のために268本の文献を解析した結果を説明し、改定のためのエビデンス収集の方向性を提示した。
日本人は「23メッツ・時/週以上」の運動や身体活動を行うことで、生活習慣病のリスクが急激に減少するが、現状の平均値は「19メッツ・時/週」だという。運動量を少しでも増やすために、「より少しでも長く、キビキビと活発にからだを動かす習慣を広める必要がある」と説いた。
65歳以上の高齢者については、「4メッツ・時/週以上の余暇身体活動量がある高齢者は、死亡・発症リスクが15%低下する」として「炊事、外出、散歩や軽い体操などを週120分行うべきだ」と基準を示した。
鈴木隆雄委員(国立長寿医療研究センター研究所長)は、愛知県大府市や知多市の住民の協力を得て行った長期縦断疫学研究から、中高年期の運動の重要性について説明した。
中年期に汗ばむ程度の中等度以上の運動を行う習慣があった場合、老年期に「階段を数段上まで登ることに困難を感じる」リスクや、「1km以上歩くことに困難を感じる」リスクは有意に低下することや、認知症のリスクも低下し、老年期に握力が維持できるなどのデータを示し、中年期の運動が高齢期の身体機能に与える影響について述べた。
今後、高齢者や生活習慣病有病者の運動指針・基準を策定する方向で議論を進め、今月下旬に行われる2回目の会合では、主に高齢者の指針・基準について議論する予定。
第1回運動基準・運動指針の改定に関する検討会(厚生労働省)
[ Terahata ]