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2026年07月22日

どうする?夏のインスリン保管 記録的な猛暑が常態化、温度管理に注意

 糖尿病の治療に使われるインスリン製剤は、タンパク質由来のバイオ医薬品であり、熱による変性が起こりやすい。近年は記録的な猛暑が毎年のように更新されており、気象庁が関東甲信地方と東海地方の梅雨明けを発表したばかりの昨日(7月21日)、早速、岐阜県と愛知県で最高気温が40.0℃以上に達する「酷暑日」となるなど、夏場のインスリン製剤保管ではこれまで以上に温度や直射日光への注意が必要になっている。

インスリンは高温に弱い

 インスリン療法は、糖尿病患者に不足しているインスリンを、注射やインスリンポンプで体外から補給して血糖値を下げる治療法だ。1型糖尿病患者では必須の治療であり、2型糖尿病患者でも、飲み薬だけでは血糖コントロールが改善しない場合などに効果的な選択肢となる。

 インスリンは膵臓のβ細胞でつくられるホルモンで、主成分はタンパク質だ。そのため過度な高温や低温にさらされると立体構造が変化(変性)し、薬理作用が弱まるおそれがある。卵を加熱すると白く固まるように、タンパク質は熱の刺激によって性質が変わってしまうのだ。したがってインスリン製剤は、高温や凍結を避けて保管する必要がある。

深刻化する日本の夏―2025年は観測史上もっとも暑い夏に

 インスリン製剤は、使用開始後であれば「室温」での保管が可能とされている。ここでいう室温とは、日本薬局方が定める「1~30℃」を指す。しかし近年、この上限を超える暑さが当たり前になりつつある。

 気象庁によると、2025年夏(6月~8月)の日本の平均気温は、北日本で平年より3.4℃、東日本で2.3℃、西日本で1.7℃それぞれ高く、1946年の統計開始以降、夏としてもっとも高温となった。長期的な気候変動の監視に使われる全国15地点の観測値でも、基準値からの偏差が+2.36℃となり、1898年の統計開始以来もっとも高い夏を記録している。

 全国のアメダス地点で観測された「猛暑日」(最高気温35℃以上)の延べ地点数も、比較可能な2010年以降でこれまで最多だった2024年の8,821地点を上回り、2025年は9,385地点に達した。東京都心(千代田区)でも、2025年の猛暑日は29日となり、1875年の統計開始以降でもっとも多い年間日数を記録している。

 こうした状況を受け、気象庁は2026年、最高気温が40℃以上になった日を指す「酷暑日」を正式な予報用語として新たに定義した。夜になっても気温が下がらない「熱帯夜」が続く地域も多く、室内の温度が「室温」の範囲(1~30℃)を外れることは、もはや珍しいことではなくなっている。

 なお、30℃を少し超えた程度で、インスリン製剤がただちに変質するわけではない。真夏の数週間、日中の数時間ほど30℃を超える程度であれば、大きな問題は生じにくいと考えられている。しかし、風通しの悪い部屋などで7~9月に夜間も30℃を超え続けるような場合は、冷蔵庫や保冷剤の活用を検討したほうがよいケースもある。

インスリン製剤を冷蔵庫で保管するときは、凍らせないよう注意

 高温下で保管されていたインスリン製剤は、適切な温度で保管されていたものに比べて効力が低下し、血糖降下作用に差が出るとの報告がある。

 使用前のインスリン製剤は、添付文書に記載された保管方法に従い、冷蔵庫などで「2~8℃」で保管する。このとき注意したいのが「凍らせるほど冷やしすぎない」ことだ。インスリンが凍結すると、変性が起きたり、カートリッジが破損したりするおそれがある。

使用開始前のインスリン製剤を、冷蔵庫(2~8℃)で保管するときの注意点

なるべく冷蔵庫の手前側やドアポケット、野菜室など、凍結のリスクが低い場所を選ぶ。
フリーザー内や吹き出し口からの冷風が直接あたる場所に置かない。
冷蔵室内を「強冷」に設定すると、凍結するおそれがあるので、冷やし過ぎないようにする。
凍ってしまったインスリンなどは、作用時間が変わるなど品質を保てなくなっているので、使用しない。

 使用前には製剤の外観も確認したい。変色していたり、かたまりや薄片が見えたり、懸濁製剤を混和しても均一に白濁しなかったりする場合は、変性している可能性があるため使用せず、新しい製剤に交換する。

使用中のインスリン製剤を熱から守る方法

 使用開始後のインスリン製剤は常温での保存が可能だが、直射日光を避け、温度変化の少ない涼しい場所を選ぶといった対応が必要になる。

 とくに、(1)自動車の中、(2)直射日光の当たる場所、(3)海水浴場やキャンプ場などは高温になりやすく、注意が必要だ。受診後帰宅するまでは手荷物として持ち運ぶのがポイントとなる。駐車した車内は50℃以上になることがあり、放置は禁物だ。直射日光の当たる窓際だけでなく、日の当たらない後部座席でも、夏には40℃以上になることがある。

 夏の旅行など炎天下で長時間持ち歩くときは、保冷バッグ(凍結保冷剤)の活用が有効だ。冷蔵庫で冷やした保冷剤を、製剤に直接触れないようタオルで包み、保冷バッグに一緒に入れる。500gの保冷剤を使うと、約5時間にわたり30℃以下で保管できる。保冷バッグや保冷剤は100円ショップなどでも購入できる。

 保冷剤が手元にない場合は、冷たい飲み物のペットボトルをインスリンと一緒に入れる、ポリ袋に入れたインスリンを湿らせたフェイスタオルで包み気化熱で保冷する、といった方法も役立つ。

 自己注射の際は、製剤の外観に変化がないか、空打ちに問題がないかも確認しておきたい。

インスリン プレフィルド/キット製剤
 使用中も冷蔵庫での保管が可能な製剤もある(「くすりのしおり」や「患者向医薬品ガイド」を確認するか、薬剤師に尋ねる)。注射針は必ず外し、遮光して保管し、凍結にも注意する。注射前には常温に戻し、外観チェックと空打ちで異常がないことを確認する。

インスリン カートリッジ製剤
 使用中は冷蔵庫に入れない。高温を避けられない場合は保冷剤の使用も検討する。冷凍庫で凍らせた保冷剤は使わず、結露にも注意する。

インスリンポンプ使用者への新たな注意喚起―高温によるゲル化リスク

 インスリンポンプを使用している人は、とくに夏場、薬液の「ゲル化」にも注意が必要だ。

 ノボ ノルディスク ファーマは2026年6月12日、持続皮下インスリン注入(インスリンポンプ)で使用できる「フィアスプ注100単位/mL(フィアスプ注バイアル製剤)」について、高温により薬液がゲル化する事例が複数報告されたとして、改めて注意喚起を行った。同社によると、ゲル化による影響が疑われる副作用事例は、2023年1月から2026年5月までに国内で7例(糖尿病ケトアシドーシス〔重篤〕2例、高血糖〔重篤〕1例、高血糖〔非重篤〕4例)報告されているという。

 薬液がゲル化するとポンプ内が閉塞し、薬剤が適切に投与されなくなって、重篤な高血糖関連事象につながるおそれがある。同社は、インスリンポンプに充填して使用する際は、暖房器具やカイロなどの熱源にポンプを近づけない、高温環境の作業場での利用を避けるなど、37℃を超える高温を避けるよう呼びかけている。同様の注意喚起は2022年3月、2023年2月にも行われており、今回で3度目となる。

 インスリンポンプを使用している人は、屋外での活動時などにポンプ自体が高温にさらされないよう、とくに意識したい。

GLP-1受容体作動薬・GIP/GLP-1受容体作動薬も同様の注意が必要

 GLP-1は、食事の摂取に伴い消化管から分泌され、膵臓のβ細胞に作用してインスリン分泌を促すホルモンだ。「GLP-1受容体作動薬」は、GLP-1受容体を活性化し、GLP-1と同様の生理活性をもたらす薬剤で、トルリシティ、オゼンピック、ビクトーザ(2026年後半に販売終了予定)などがある。

 これに加え、GLP-1受容体とGIP受容体の両方に作用する「GIP/GLP-1受容体作動薬」のマンジャロが、2023年から2型糖尿病治療薬として使用されている。

 GLP-1受容体作動薬は、バイオテクノロジーを用いてつくられるタンパク質由来のバイオ医薬品、マンジャロは中分子医薬品に分類される薬剤であり、いずれも高温には弱い。使用開始前は冷蔵庫(2~8℃)で保管する必要がある。保管可能な温度や期間は製剤によって異なるため、添付文書 や薬剤師からの説明で個別に確認することが重要だ。

インスリン製剤・GLP-1受容体作動薬・ GIP/GLP-1受容体作動薬の相談窓口

 インスリン製剤やGLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬の取り扱いについては、製薬各社が相談窓口を設けている。患者個々の健康状態や治療内容など医療行為に関わることは、かかりつけの医療機関に確認する必要があるが、それ以外の自社製品の適正使用、保管温度や使用可能日数などについては相談に応じてもらえる。

ノボ ノルディスク ファーマ
Tel.0120-180363(月~金 9:00~17:00/祝日・会社休日を除く)
日本イーライリリー
Tel.0120-245-970 Tel. 078-242-3499(製品に関する問合せ 月~金 8:45~17:30)
くすり相談室(医薬品関連)(サノフィ)
Tel. 0120-109-905(月~金/祝日・会社休日を除く 9:00~17:00)
オプチコール24(糖尿病関連医療機器)(サノフィ)
Tel. 0120-497-010(24時間365日)

※電話番号・受付時間は変更されている場合があります。最新の情報は各社公式サイトでご確認ください。

■参考

[ 糖尿病ネットワーク編集部 ]

記事の内容(HbA1c表記や医師の所属など)は掲載日時点のものです。 本サイトに掲載されている記事・写真・図表の無断転載を禁じます。 治療や療養についてはかかりつけの医師や医療スタッフにご相談ください。

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