コーラやジュースなどの高カロリーの清涼飲料やジャンクフードに課税すれば、消費量を減らすことができ、肥満や2型糖尿病を減少・改善できるという報告書を、世界保健機関(WHO)がまとめた。大手食品メーカーも清涼飲料などをカロリーを抑えた商品に切り替える方針を発表した。日本では現在、課税の具体的な動きはない。
高カロリー飲料の消費を減らせば肥満や糖尿病を改善できる
世界保健機関(WHO)がまとめた報告書「非感染性疾患(NCD)を減らすための食品政策」では、高カロリー飲料の消費を減らすために、小売価格を20%以上引き上げると効果的だとしている。
「NCD」とは、2型糖尿病やがん、心臓病、肺病など、不健康な食事や運動不足、喫煙、過度の飲酒などの原因が共通しており、生活習慣の改善により予防可能な疾患の総称だ。
報告書は、WHOが召集した栄養学の専門家が、食料政策とNCDの予防に関して調査したランダム化比較試験(RCT)を含む11件の質の高い研究を解析したものだ。
「高カロリー食品の摂取を減らすことで栄養バランスが改善し、肥満や過体重、2型糖尿病、虫歯で苦しむ人を減らすことができる」と、強調している。
果糖ブドウ糖液糖が肥満や糖尿病の原因
報告書では、清涼飲料や菓子類などに含まれる「果糖」(フルクトース)は、食品のカロリーを高めるだけでなく、2型糖尿病や心血管疾患の発症リスクも高めると指摘されている。
ジュースやコーラなど清涼飲料や菓子類などの甘味の強い加工食品の多くに「果糖ブドウ糖液糖」が甘味料として使われている。コーンスターチ(トウモロコシから作られたデンプン)などから製造される「果糖ブドウ糖液糖」は、果糖(フルクトース)とブドウ糖(グルコース)を主成分とする異性化糖。工業的に安定して生産でき、価格が安いので、多くの食品に用いられている。
ごはんやパン、穀類、いも、カボチャなどの野菜に含まれる炭水化物が複合糖質であるのに対し、フルクトースやグルコースは吸収されやすい単糖類だ。フルクトースは糖の中ではもっとも甘味が強く、多量を摂り続けると体重増加や肥満につながりやすいと懸念されている。
フルクトースは高カロリーの清涼飲料などの加工食品に多く含まれている。ジュースや菓子などに含まれるコーンシロップ(果糖ブドウ糖液糖)が主な摂取源で、フルクトースを単体で摂取することはほとんどない。消費者は栄養成分表示を見ないと、どの食品に果糖ブドウ糖液糖が含まれているかを知ることができない。
世界の3人に1人以上が過体重 肥満人口は5億人を突破
「肥満や2型糖尿病の世界的な増加の原因のひとつは、高カロリー飲料やジャンクフードの過剰摂取です。これらの食品に課税し、得られた収入を医療サービスに投資すれば、多くの命を救うことができ、医療費の削減にもつながります」と、WHOのNCD予防部のディレクターであるダグラス ベッチャー氏は言う。
WHOによると、2014年の調査では世界の18歳以上の成人の3人に1人以上(39%)が過体重であることが明らかになった。また、肥満の割合は1980年から2014年に2倍に増加しており、肥満人口は5億人を突破した。世界の男性の11%と女性15%が肥満だという。
さらには、2015年には5歳以下の子供のうち4,200万人が肥満か過体重であり、15年間で1,100万人増加したことが判明した。これらの子供のうち半分(48%)がアジアに集中している。
糖尿病とともに生きる人の数は1980年には1億800万人だったが、2014年には4億2,200万に増加した。糖尿病が直接的な死因でなくなる人は2012年に150万人に上った。
世界の多くの人が糖質を摂り過ぎている
「世界では多くの人が栄養学的に糖質を摂り過ぎている。肥満や過体重の人は1日の総カロリー摂取量を10%減らすことが勧められる。カロリー摂取量を5%減らしただけでも、健康上の大きな恩恵を得られる」と、WHOの栄養健康増進部のディレクターであるフランチェスコ ブランカ氏は言う。
「健康増進のために減らしたいカロリーは、高カロリー飲料1杯分(250mL)に相当する」と、ブランカ氏は強調する。
高カロリーの飲料やジャクフードの摂り過ぎがもっとも懸念されるのは、子供や若者、低収入の階層の人々だ。これらの人々は食品の価格変動の影響を受けやすい。高カロリー飲料の価格を上げる意義は大きい。
「各国の経済政策は、高カロリーの食品に課税をし、他のもっと健康に良い食品の価格を下げることを目指すべきだ」と、報告書は指摘している。
清涼飲料に課税して成功した国も
WHOの報告書では、高カロリー飲料に課税した場合の影響として、次のことを挙げている。
・ 新鮮な野菜や果物の価格を助成により10~30%下げると、これらの食品の摂取量を増やせる。
・ 健康に悪い飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の含まれる食品、塩分の多い食品、糖質の多い食品に課税し価格を上げると、これらの食品の摂取量を減らせる。
・ 健康に悪い食品の課税で得られた税収を、保険制度を改善したり、より健康的な食事を奨励したり、運動や身体活動を増やすための公共サポートに活用すると、より高い健康増進の効果を得られる。
・ 不健康な食品に課税する政策を採用した国は多い。メキシコは高カロリー飲料に課税し、ハンガリーは塩分・糖分・カフェインの含有量の多い食品に課税し、消費の減少につながった。英国、フィリピン、南アフリカは高カロリー飲料に対する課税をする方針を発表した。
ペプシコが飲料のカロリーを減らすと発表
「ペプシコーラ」で有名な米国の飲料・食品大手ペプシコは、世界で販売する自社製飲料のカロリーを減らすと発表した。世界で30億人に上るペプシコ商品の利用者に対し、より栄養価の高い飲料や食品を提供するとしている。
高カロリー飲料が肥満や2型糖尿病の元凶だとする非難の声が世界的に広がるのに押され、商品戦略の変更を迫られた。他の飲料メーカーの戦略にも波及しそうだ。
ペプシコは世界で販売する飲料の3分の2以上を対象に、糖質を減らし、約350mL(12オンス)当たり100kcal以下に下げると説明している。2025年までに達成するという。
また、商品の4分の3以上を対象に、飽和脂肪酸の量を100kcal当たり1.1g未満に、ナトリウムの量も1.3g未満にそれぞれ抑える。全粒穀物、野菜や果物、乳製品、タンパク質や水分などを強化した健康的な食品を増やすとしている。
ペプシコのウェブサイトによると、「ペプシコーラ 350ml缶」には果糖ブドウ糖液糖や砂糖が含まれ、カロリーは168kcal。ペプシコーラが対象になれば、カロリーを一定程度抑えることができる。ただし低カロリー甘味料を使うのかどうかなど詳細は不明だ。
米国では健康志向から高カロリーの清涼飲料水が敬遠される傾向もあり、ペプシコは消費者イメージの向上を目指しているとみられる。
WHO urges global action to curtail consumption and health impacts of sugary drinks(世界保健機関 2016年10月11日)
[ Terahata ]