サバやマグロなどの魚油に含まれる「オメガ3系脂肪酸」を摂取すると、認知機能の低下を低減し、記憶力を改善する効果を得られるという調査結果が発表された。
青魚に含まれるDHAとEPAが認知症の予防に有用
運動と食事といった生活習慣を改善することが、認知症の予防につながることは実証されている。身体活動や運動が少ないことはアルツハイマー病の危険因子であり、その量を増やすことが予防に役立つという知見がある。運動が効果をもたらすメカニズムとして、脳血流の増加作用、神経成長因子への刺激、脂質代謝の改善、血糖を下げるインスリンに対する細胞の感受性(インスリン感受性)の改善、免疫機能を介する作用などが挙げられている。
また、食事について注目されているものとして抗酸化物質が挙げられる。抗酸化物質は酸化によるダメージから体を守る。野菜や果物は抗酸化物質を豊富に含んでいる。
さらに、不飽和脂肪酸が認知機能の改善に良いことも知られている。特にオメガ3系脂肪酸であるDHAとEPAには、脳卒中や心筋梗塞の原因になる血栓を予防する効果や、抗炎症作用、降圧作用、インスリン感受性を良くする作用など、多くの効果があるとされる。
正常な認知機能の高齢者が、オメガ3系脂肪酸のサプリメントを摂取すると、加齢による記憶力などの認知機能や記憶力に関係する脳領域で脳委縮を低減するという調査結果が米国で発表された
DHA(EPAも体内でDHAに変換される)は脳、特に脳神経に多くある成分で、加齢による記憶力などの認知機能の低下、さらには認知症の予防に役立つことが期待されている。DHAとEPAはサバやサンマ、マグロ、サケなどの青魚に多く含まれる。
「世界中で毎分1人以上の人がアルツハイマー病と診断されています。治療法を発見するための多くの研究が進行中ですが、根本的な治療法はみつかっていません。アルツハイマー病を予防し、発症を遅らす方法をみつける研究が重要です」と、米国のロードアイランド病院のロリ ダイエロ氏は言う。
健康的な食生活が認知症の予防に大きく影響
研究チームは、米国立保健研究所(NIH)が主導する「アルツハイマー病の克服を目指す全国規模の臨床研究」(ADNI)に参加している1,043人の高齢者を対象に、6ヵ月毎に認知機能検査と脳磁気共鳴画像診断(MRI)を実施した。検査ではアルツハイマー病を経時的に評価する指標である「ADAS-cog」と「MMSE」を実施した。
229人は正常な認知機能をもっていたが、397人は軽度認知障害と診断され、193人はアルツハイマー病の診断を受けた。解析した結果、アルツハイマー病の危険因子とされる「ApoE4遺伝子」をもたない認知機能が正常な人(試験開始時)の中で、オメガ3系脂肪酸のサプリメントを常用していた人は、認知機能の低下が有意に抑制されていることが判明した。さらにMRIの結果でも、認知機能に関与する脳の萎縮が軽減していることが明らかになった。
「研究期間中に実施した脳画像診断で、認知機能が正常でオメガ3系脂肪酸を摂取していた人々は、摂取していなかった人々に比べ、主要な脳領域の脳委縮が少ないことが示されました」と、ダイエロ氏は言う。
「この研究結果は有望です。加齢関連の認知機能低下とアルツハイマー病におけるオメガ3系脂肪酸の効果に関する知見を拡大するため、さらなる研究が必要です」としている。
古賀良彦・杏林大学医学部精神神経科学教室教授はこの研究について「認知症予防の前提となるのが、脳を健康に保つこと。このためには良質な睡眠と食生活、ストレスをためない生活などがあげられますが、意外と見過ごされているのが食生活です。特に血管性認知症予防を考えたときには、3つの「ア」(アルコール、甘いもの、脂っこいもの)を極力減らし、薄味にすることが有効です。高齢期になると健康な人も認知機能が低下し脳の萎縮も進みますが、オメガ3系脂肪酸はそれらを低減する可能性があります」と、DHA・EPA協議会が発行したプレスリリースで述べている。
Fish oil supplements reduce incidence of cognitive decline, may improve memory function(Lifespan 2014年7月15日)
Association of fish oil supplement use with preservation of brain volume and cognitive function(国際アルツハイマー病学会 2014年6月18日)
DHA・EPA協議会
[ Terahata ]