ACCORDのサブスタディであるACCORD-Eyeを追加解析した結果が、米国眼科学会誌に掲載された。既報と同様に、血糖管理の強化やフェノフィブラートの使用は網膜症の進展を有意に抑制するものの、血圧管理の強化は網膜症の進展に影響しないことが確認された。また、血糖管理強化やフェノフィブラートによる介入の効果は、ベースライン時に軽度網膜症のあった症例でより有効であることが、新たに報告された。
ACCORD(The Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes)は、厳格な血糖管理が必ずしも心血管イベント抑制に有益でないばかりか全死亡の有意な増加を伴うことを示し、血糖管理目標の個別化を重視するという最近の糖尿病治療のトレンドに大きな影響を与えた大規模臨床試験。そのACCORDは試験対象者数が1万例を超え十分なサンプル数があることから、本試験以外にもいくつかのサブスタディが組まれた。
眼科関連サブスタディとしてはACCORD-Eyeが行われ、2010年には
N Engl J Med誌にその第一報が掲載されている。今回の報告は、ベースライン時の網膜症病期別の解析などの詳細な検討を加えたもので、米国眼科学会誌に掲載された。
血糖トライアルと脂質トライアルでは強化療法群で網膜症の進展が抑制される。血圧管理強化は影響せず
ACCORDの本試験は血糖トライアル、血圧トライアル、脂質トライアルという3本のトライアルで構成され、それぞれの強化療法群と標準療法群とで心血管イベント発生率が検討された。結果は3試験いずれも心血管イベントの有意な抑制に至らず、さらに血糖トライアルについては強化療法群で死亡率が有意に高いことが安全性委員会から指摘され、当初の計画より早く終了した。
ACCORDの対象者10,251例中、登録時に眼底写真撮影等の視覚関連検査が行われ、かつインフォームドコンセントの得られた3,472例がACCORD-Eyeに組み入れられ、このうち4年後にも視覚関連検査を施行し得た2,856例(生存者の85%)が解析対象とされた。その結果、心血管イベントに関するアウトカムと異なり、血糖トライアルと脂質トライアルの強化療法群において網膜症の進展が有意に抑制されていた。
具体的に既報からまとめると、網膜症がベースラインからETDRS(Early Treatment Diabetic Retinopathy Study)指標で3段階以上進行した者やレーザー光凝固術または硝子体手術を受けた者の割合で網膜症の進展を定義した結果、血糖管理強化群(目標HbA1c6.0%未満)は標準療法群(同7.0〜7.9%)に比して有意な抑制がみられた(7.3% vs 10.4%,オッズ比0.67,p=0.003)。また脂質管理強化群(シンバスタチン+フェノフィブラート)も標準療法群(シンバスタチン+プラセボ)に比し有意に網膜症の進展を抑制していた(6.5% vs 10.2%,オッズ比0.60,p=0.006)。一方で血圧管理強化群(目標収縮期血圧120mmHg未満)は標準療法群(同140mmHg未満)と有意差が認められなかった(10.4% vs 8.8%,オッズ比1.23,p=0.29)。
新たなアウトカムでも血糖管理強化や
フェノフィブラートの網膜症進展抑制効果が再確認される
今回の追加報告は、評価アウトカムをやや改変したうえで、ベースライン時の網膜症病期別にフォローアップ期間中の網膜症進展率を比較したもの。アウトカムの改変は、第一報では硝子体手術の施行も網膜症の進展と定義していたが、これを外し、ETDRS指標3段階以上の進行とレーザー光凝固術の施行という2項目で網膜症の進展と定義した。硝子体手術を外した理由は、同手術が網膜前膜に対して施行されることが多く、現在では網膜症の進展とはみなさないとの考え方も生じてきていることによる。
結果だが、まず、網膜症の病期にかかわらず全数を対象とした解析では、血糖トライアルにおける強化療法群、脂質トライアルにおけるフェノフィブラート群で、それぞれ有意に網膜症の進展が抑制されており、第一報とほぼ同様だった(
表1。表中の1行目が第一報、2行目が今回の解析結果)。血圧トライアルには有意差がない点も第一報と同じ結果だった。
表1 | | 全対象およびサブグループ別にみた4年間での糖尿病網膜症の進展率 |
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ベースライン時に軽度網膜症がある群で、
血糖管理、フェノフィブラートがより有効
続いてベースライン時の網膜症の病期別に解析した結果をみると、血糖トライアルについては軽度網膜症(片眼に毛細血管瘤または軽度単純網膜症があり、他眼は網膜症なしか毛細血管瘤のみ)を有していたグループで、強化療法によりその後4年間の網膜症の進展が有意に抑制されていた。ベースラインの病期がその他のグレードの場合、オッズ比は標準療法群より強化療法群のほうが低いものの、統計的有意差はなかった。
同様に、脂質トライアルにおいても、ベースライン時に軽度網膜症を有していたグループでフェノフィブラート併用による有意な網膜症進展抑制効果が確認された。ベースラインの病期がその他のグレードの場合、オッズ比はフェノフィブラート併用群がプラセボ群より低いものの、統計的有意差はなかった。
血圧トライアルについてはベースライン時の病期にかかわらず、すべてのグループで統計的有意差はみられなかった。
血糖管理の強化とフェノフィブラートによる介入は相加的に影響する
表2は、血糖と脂質トライアルの強化療法群と標準療法群の相互の関係を示したものだ。
血糖と脂質の両者が強化療法に割り当てられていた群で網膜症が進展したのは400名中19名(4.8%)で、両方とも標準療法が割り当てられていた群は381名中50名(13.1%)に網膜症の進展がみられた。どちらか一方が強化療法を割り当てられていた場合は、その中間であり、血糖管理の強化と脂質管理の効果はほぼ同等だった。
このことから、血糖管理の強化とフェノフィブラートによる介入は相加的に作用し網膜症の進展を抑制することが示唆される。
表2 | | 各トライアルグループ別にみた4年間での糖尿病網膜症の進展率 |
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「フェノフィブラートは糖尿病網膜症の治療において考慮されるべき」
血糖管理を強化することで糖尿病網膜症の進展を抑制可能であることについては、DCCTやUKPDS、熊本スタディ等々の膨大な数の大規模臨床試験が示すところであり、確固たるエビデンスが確立されている。一方、脂質管理の強化については、このACCORD-Eyeに先立ち、FIELD(Fenofibrate Intervention & Event Lowering in Diabetes)が行われている。FIELDは軽度脂質異常症を伴う2型糖尿病患者約1万例を2群に分け、フェノフィブラートでの介入効果を検討した二重盲検試験で、レーザー光凝固術の施行を約30%減少させるという網膜症進展抑制効果が報告されている。
こうした既報と今回のACCORD-Eyeの追加解析結果を受け、本論文の著者らは、「フェノフィブラートは糖尿病網膜症の治療に考慮されるべき。特に、良好な血糖コントロールが得られない患者の治療として妥当であろう」と述べている。
原典論文:
ACCORD Eye Study Research Group. The Effects of Medical Management on the Progression of Diaetic Retinopathy in Persons with Type 2 Diabetes. Ophthalmology 121 ; 2443-2451, 2014
http://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(14)00623-X/abstract
関連ページ:
ACCORD-Eyeの第一報;
The ACCORD Study Group and ACCORD Eye Study Group. Effects of Medical Therapies on Retinopathy Progression in Type 2 Diabetes. N Engl J Med 363:233-244, 2010
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1001288
FIELDスタディの網膜症関連サブ解析;
FIELD study investigators. Effect of fenofibrate on the need for laser treatment for diabetic retinopathy (FIELD study): a randomised controlled trial. Lancet 370:1687-1697, 2007
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17988728?ordinalpos=1&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum
FIELDスタディの日本語解説;
http://www.fieldstudy.jp/top.html
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