脂肪分の多い食べ物をとりすぎると2型糖尿病を発症するメカニズムを、マウスを使った実験で解明したと、広川信隆・東京大学特任教授(細胞生物学)のチームが発表した。この成果を応用し、既存の胃潰瘍の薬に治療効果のあることも確かめた。
胃潰瘍治療薬が糖尿病の発症を防ぐ可能性
細胞内でアミノ酸などの分子を微小管を通じて小器官に運び、ATPなどの化学エネルギーを運動エネルギーに変換する働きをする「モータータンパク質」は45種類がみつかっている。このうち「KIF12」と呼ばれるタンパク質は、膵臓に多く分布しているが、その機能はよく分かっていなかった。
研究チームは、KIF12を欠損させたマウスを作り、KIF12が失われると膵臓のβ細胞からインスリンが十分に分泌されず、2型糖尿病を発症することを確かめた。KIF12が酸化ストレスを低下させる因子を増やす働きのあるタンパク質を安定化し、細胞の酸化ストレスに対する抵抗性を高めていることを突き止めた。
次に、脂肪をとりすぎると、KIF12の量が減少し、細胞内の反応を調整している小器官の働きが損なわれ、β細胞の機能が低下しインスリンが分泌されなくなることが、マウスを用いた実験で明らかにした。
β細胞を培養し解析したところ、KIF12にはβ細胞を酸化ストレスから守る働きがあり、正常なインスリン分泌を維持していることが判明。KIF12を欠損したマウスに高脂肪のエサを与えたところ、細胞を酸化ストレスから守るタンパク質の合成量が低下し、β細胞の機能が低下することを確かめた。
次に、マウスに市販の胃潰瘍治療薬である「テプレノン」を2週間投与した。テプレノンには、胃粘液成分の合成と分泌を高める作用に加え、細胞を酸化ストレスから守る作用がある。テプレノンを飲んでいると、脂肪のとりすぎによってKIF12が減少していても、β細胞の抗酸化能が失われず、インスリンの分泌が保たれることが分かった。
「糖尿病は遺伝的な要因と生活習慣による要因が重なることで発症する病気だが、発症メカニズムには不明の点が多い。高脂肪の食事をとっていても、抗潰瘍薬を飲んでいれば、β細胞の機能が守られ、糖尿病の発症が抑えられる可能性が分子レベルの実験で示された。この仕組みを活用し、より効果のある薬剤を開発していきたい」と、広川特任教授は述べている。
研究成果は医学誌「Developmental Cell」に10月27日付けで発表された。
東京大学大学院医学系研究科
[ Terahata ]