厚生労働省は、健康な食事の考え方やその具体的な目安を提示することを目的とする「日本人の長寿を支える『健康な食事』のあり方に関する検討会」(座長:中村丁次・神奈川県立保健福祉大学長)の第2回目の会合を開催した。来年3月に報告書をまとめ「健康な食事」の目安を提示することを目指している。
京都大学医学部附属病院・疾患栄養治療部の幣憲一郎副部長は、糖尿病の「発症予防」と「重症化予防」につながる食事のあり方を提案した。
「糖尿病の食事療法は治療の根幹であり、“食べる楽しみとしての食事”の観点と、“治療としての食事”の両立が求められる。理想的なのは、雑穀米などを含む主食(ご飯)と、魚・野菜・海藻などを中心とした日本食」と強調している。
日本人の2型糖尿病患者の特徴は、(1)インスリン分泌不全が著しく、肥満症例が欧米人に比べ少なく、(2)インスリン抵抗性よりむしろインスリン分泌能低下が多いなど、特にインスリン分泌初期反応が低下していることだという。
糖尿病を予防・改善するための食事を考える場合、欧米型とアジア型の食文化の違いに配慮する必要があり、欧米のガイドラインをそのまま持ち込むと問題がある。日本人の民族的特徴をふまえて、総エネルギー量の適正化を中心として、脂質エネルギー比が過剰にならないよう配慮し、肥満予防を中心とした生活改善が求められる。
1975年頃の食事が日本人には理想的
日本人の食事パターンは、時間が経過するとともに変わっていった。東北大学などの研究グループは、日本の家庭の食事メニューを1960年から2005年まで15年おきに再現しマウスに与える実験を行った。その結果、1975年頃の食事を与えたマウスは、内臓脂肪の蓄積や中性脂肪が半分に抑えられ、高コレステロールの頻度も低く、糖尿病リスクが低いことがあきらかになった。
もっとも糖尿病リスクが低いのは1975年頃の食事で、その頃の家庭の標準的な夕食のメニューは、ご飯・肉じゃが・もずく酢・キャベツと卵のすまし汁といったものだった。ご飯と魚介類、海藻が多く、欧米食の影響はわずかだったという。
動物性脂肪の摂り過ぎと不健康な食習慣が増加
日本人の食事の3大栄養素のエネルギー比率は60年間に変化している。炭水化物・脂質・タンパク質の比率は、1946年には80.6%・7.0%・12.4%だったのが、2008年には62.4%・21.5%・16.1%に変化した。
日本人はもともと米を主食としてきたわけではなく、米と麦を半々、あるいはアワ・ヒエ・ソバ・イモなどを混ぜて炊飯していた。1960年代以降の高度経済成長を経て、精白米・パン・麺類が主食の中心となり、糖質の摂取量が急激に減少した。
幣氏は「“動物性脂肪の過剰摂取”、“食物繊維の不足”、“朝食の欠食や間食・夜食の増加”、“夜9時以降の食事”といった食習慣が増えています」と、現在の日本人の食事は社会依存傾向が強い点を指摘する。
食事回数は1日3回を基本として、可能な限り時間を守り、欠食しないことや、早朝の高血糖を避けるため夜9時以降の食事を控える、よく噛んで時間をかけて食べることが重要だ。
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肉を食べ過ぎると糖尿病リスクが上昇
日本人の肉類の摂取と糖尿病リスクとの関連について、国立国際医療研究センター、国立がん研究センターなどが2013年に大規模研究の結果を発表した。男性では肉類全体の摂取量が多いグループ(1日あたりの100g以上)で糖尿病発症リスクが高くなった。摂取量がもっとも少ないグループ(同23g)に比べ、もっとも多いグループでは糖尿病のリスクが1.36倍高いという結果になった。
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若い世代ほど食物繊維が不足
食物繊維は消化されずに、小腸を通って大腸まで達する食品成分。便秘の予防をはじめとする整腸効果だけでなく、血糖値上昇の抑制、血液中のコレステロール濃度の低下など、多くの生理機能があきらかになっている。日本人の食物繊維の摂取量は、穀類摂取量に比例して低下している。最近の調査によると、食物繊維の平均摂取量は男性13.9g、女性13.5gで、若い世代ほど少ない傾向がある。
総エネルギー量が少ない場合は、1日のエネルギー摂取量1,000kcalあたり10g以上(1,600kcalの人は16g以上)の食物繊維を摂取するのが目標で、食物繊維を1日20〜25g摂取するのが理想的だという。「食物繊維の増加はインスリン感受性を改善し、糖尿病リスクを低下させる。インスリン抵抗性に対して適切にインスリンを分泌する能力を改善し、血糖低下、血清脂質改善作用をもたらします」と、幣氏は指摘している。
バランスの良い食事パターンで糖尿病リスクを低下
「DFSA食」は、野菜、果物、乳製品、デンプンを多く摂取し、アルコールの摂取量が少ないバランスの良い食事パターン。九州大学などが行った調査により、DFSA食事パターンの食生活をしている人は、そうでない人と比べて2型糖尿病の発症リスクが49%少ないことがあきらかになった。
「野菜や果物を摂取する食事パターンは、2型糖尿病の発症リスクを低下させます。野菜にはビタミンやミネラル、食物繊維や抗酸化物質などが含まれ、乳製品にはカルシウムが豊富に含まれます」と、幣氏はバランスの良い食事パターンのメリットを強調する。
次は...糖尿病予備群の段階から動脈硬化は始まっている
糖尿病予備群の段階から動脈硬化は始まっている
内膜中膜複合体厚(IMT)は、早期段階における動脈硬化の進展指標のひとつ。頸動脈の血管壁の厚さを、エコー検査(超音波検査)によって測定する。動脈硬化の進んだ血管の場合、IMTが厚くなることが分かっている。
福岡県久山町で長年にわたり続けられている疫学調査「久山町研究」では、糖尿病と診断されないが血糖値が高めになっている「耐糖能異常(IGT)」の段階で、IMTが厚くなり動脈硬化が進むことが確かめられた。
食事療法:インクレチン療法に期待
2型糖尿病のインスリン分泌障害に対する新たな治療戦略として、「インクレチン」と呼ばれる消化管ホルモンが脚光を浴びている。インクレチンは、食事摂取に伴い消化管から分泌され、膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進するホルモンの総称。インクレチンは、血糖値が上昇した時のみに作用してインスリンの分泌を促進して血糖を降下させる。さらに不適切なグルカゴンの放出を抑える働きもある。
インクレチンは、食事中の炭水化物の量に応じて分泌される。血糖コントロールに大きく影響を与える炭水化物の摂取については、質と量について注意が必要となる。日本人の炭水化物の平均摂取量は年々減少しているが、消化・吸収の遅い穀類やデンプンなどの複合糖質を主体とし、食後の血糖値が上昇しやすい単純糖質の摂取を控えることが必要となる。お菓子やジュースなどの清涼飲料に含まれるのは単純糖質だ。
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高齢者向け宅配食サービスのニーズは拡大
国立健康・栄養研究所の高田和子氏は「高齢者がよりよく生きるための日本人の食事」と題して発表した。日本は高齢化社会を迎えており、高齢者が充実した食生活を送ることや、快適な食事環境を整えることが重要な課題となっている。実際には、年齢が高くなるほど買い物や料理を困難に感じる高齢者が増るという調査結果がある。
多くの高齢者にとって、自宅で生活するためには少しの支援があればよい。適切な支援があれば、高額な高齢者介護施設に入りサービスを受ける必要もなくなる。多様な宅配食サービスを利用できれば、高齢者の自立に強力な手助けとなる可能性がある。
内閣府の「高齢者の健康に関する意識調査」によると、55歳以上の人が、今後自分で食事の用意ができなくなった場合に、利用したい食事サービスは「民間による宅配サービス」がもっとも多く34.3%で、次いで「公的な配食サービス」、「ホームヘルパーや家政婦による食事の用意」と続く。1人暮らしの高齢者の増加などの影響を受け、食品宅配の市場規模は2009年には1兆6,166億円だったのが、2015年には1兆9,021億円に拡大すると予測されている。
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第2回日本人の長寿を支える「健康な食事」のあり方に関する検討会(厚生労働省 2013年8月20日)
[ Terahata ]