インスリンがアルツハイマー病の治療に役立つ可能性があるという研究が、米ノースウェスタン大学(イリノイ州)の研究チームより発表された。この研究は、米国科学アカデミー発行の「Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)」オンライン版に2月2日に掲載された。
最近の研究ではアルツハイマー病は、インスリンの作用を受ける細胞の感受性が悪くなるインスリン抵抗性と密接に関連していると考えられている。脳の細胞にもインスリン受容体があり、インスリンは学習や記憶といった脳の働きに重要な役割を果たしている。
インスリン治療はアルツハイマー病予防にも役立つかもしれない
ノースウェスタン大学が公開した画像。赤色の部分はADDLの神経細胞への結合を示し、緑色の部分は記憶を形成するシナプス(神経と神経のつなぎ目)を示している。左側はADDLが結合しシナプスが阻害され赤色になっているが、インスリンを添加した右側では細胞は正常に保存され緑色になっている。
アルツハイマー病の原因はまだはっきりと分かっていないが、脳内にあるアミロイドβ蛋白という物質が関わっているという見方が有力。今回の研究では、研究者らはアミロイドβ蛋白より凝集程度の低いADDL(アミロイド由来拡散性リガンド)という毒性のある蛋白に着目した。ADDLは神経と神経のつなぎ目の役目をするシナプスの働きを攻撃・阻害し、記憶低下を引き起こす。
研究ではインスリンと、2型糖尿病治療に用いられるインスリン抵抗性改善薬が、脳の重要な記憶中枢である海馬から採取したニューロン(脳神経細胞)を、ADDLから保護することが示された。神経細胞にインスリンを添加したところ、ADDLが神経細胞に結合するのが阻害され、またインスリン抵抗性改善薬により保護作用が高まる結果になった。
インスリン抵抗性のリスクは加齢とともに高まる傾向があり、アルツハイマー病もまた歳をとると増える。ノースウェスタン大学認知神経学・アルツハイマー病センターのWilliam L. Klein教授は、「インスリン抵抗性がアルツハイマー病の危険因子であることが新たに示されている。糖尿病治療薬がADDLの結合から保護するという発見は、アルツハイマー病による記憶喪失の治療に新たな希望を与えるものだ」と述べている。
今回の研究についてビデオが公開されている。
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インスリンがアルツハイマー病の新たな治療法となるかもしれない(ノースウェスタン大学のリリース・英文)
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[ Terahata ]