インスリンポンプSAP・CGM情報ファイル

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先生たちのSAP体験談 その2
~インスリンポンプの新機能(AHCL)を使って~ 後編

SAP(Sensor Augmented Pump)療法とは、CGM機能を搭載したインスリンポンプによる治療のこと。腹部などに装着したセンサーで連続的に間質液中のグルコース(センサーグルコース値)の濃度を測定し、インスリンポンプのモニタ画面に測定値を表示します。
間質液中のグルコース濃度は血糖値そのものではありませんが、血糖値とある程度相関することがわかっており、連続して測定することで、患者さんがご自身でリアルタイムに血糖変動を確認することができます。

後編:~低血糖対策と新しい情報の入手法について~

前回の「先生たちのSAP体験談」はこちら
(SAPなどの用語解説もこちらをご覧ください)

ご参加いただいた先生方

高谷具純 先生
千葉大学医学部附属病院 小児科
高谷先生の座談会「Part1 子どもの成長とSAP療法

小谷紀子 先生
国立国際医療研究センター病院 糖尿病内分泌代謝科
小谷先生の座談会「Part2 妊娠・出産とSAP療法

加藤 研 先生
国立病院機構大阪医療センター 糖尿病・内分泌内科 科長
加藤先生の座談会「Part3 仕事とSAP療法 成人発症の男性患者さん

低血糖を防ぐための対処法は?

加藤先生

高谷先生から低血糖のお話がありましたが、低血糖については特にしっかり指導を行う必要があると感じています。AHCLは高血糖時の対応に関して、補正インスリンがポンポンとよい感じに行ってくれて高血糖は起こりにくくなったものの、目標血糖を100mg/dlにして低血糖が起こりやすくなった、という人もいますので。

インスリンポンプというのは、カーボカウントをして、食べた分の量は基本的に自分で打たなければいけません。ほかにインスリンポンプが行ってくれないのは、体を動かした時の対応です。インスリンポンプに何歩動いたかがわかる活動計がついているわけではないので、動いたときに血糖が下がることに対しては、患者さんができることは自分で行わないといけません。HCL、AHCLを使っている方では、動きによる低血糖が増えてきたと個人的に考えているので、早めに一時目標150mg/dlを使うような指示で低血糖の予防を指導した方がよいのかなと思っています。

動いた時の低血糖については、インスリン濃度が高い時間帯、まだ残存インスリンがある1、2時間ぐらいのときに自転車をこいで駅まで行ったなど、何かしらの通勤中の動きだけで下がってくるという患者さんがいます。ご飯を食べたので上がる時間なのに、動いたらやっぱり下がると。動くと下がるというと、結構な運動をしたと思われがちですが、目標血糖100mg/dlで、ある程度カーボカウントをしっかりしていると、ちょっと近所に買い物に行っただけでも下がってくる。日常動作で下がってしまうという声を結構聞いています。

患者さんはそれを防ぐため、朝ご飯を食べるときに一時目標を11時ぐらいまでにするような人が増えていますね。では具体的な運動、ランニングするときはどうすればいいですか?と聞かれるときは、一時目標を150mg/dlにし、補食もした方がいいですよと伝えています。

患者さんの中には、カーボ量50g食べるところを、今から動くので40gと少なくポンプに入力しておこうとする方もいますが、私はあまりおすすめしていません。ポンプのレポートに記載されるカーボ量が実際に食べた量なのか、自分で減らしている量なのか、が栄養指導の際にわからなくなったりもするので、基本的にカーボは実際食べる量でポンプに入力し、食後に動く際の血糖低下に対しては補食か一時目標で対応する方がよいのではと個人的には思っています。

小谷先生

今、加藤先生がお話されたように、AHCLは高血糖にはある程度対応できますが、低血糖は、注入停止しかありません。過剰なボーラス(追加インスリン)に対する低血糖予防は、やはり自身で対応する必要があります。この点は今までと変わりません。AHCLになってインスリンポンプの性能が上がり、頻回のモニター確認が不要になってきました。インスリンポンプの画面を見る頻度が減ると、低血糖をチェックするのがおろそかになることがあります。低血糖予防のためには、運動時であれば早めに一時目標を150mg/dlにする、早めに補食をする、ということは引き続き必要です。

高谷先生

私も運動をしているお子さんや、インスリンポンプをつけられない時間がある場合にどうするかを考えています。ボーラスを打っておくなどですね。見ておいて必要なさそうならそのままでよい場合もありますし。後でインスリンポンプを付け直したときの変動もあるので、そのあたりをどうするかということも考えなければいけません。

お昼の食事のボーラスを打てない子に関しては、ベーサル(基礎インスリン)をマニュアルモードで行うなどしています。そして帰宅してまたHCLやAHCLに戻したときの変化をどう捉えるか、どう見ていくか。ボーラスを打てる子に関しては特にすることがだんだんなくなってきてよいなと思うのですけれど、ボーラス(追加インスリン)を打てない子たちが、どうこの機器にうまく乗って対応していくかは、少し工夫が要ると思っています。

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新しい情報はどこでどうキャッチするのがよい?

小谷先生

こうして次々に新しいモデルが出てくるなかで、いろいろな情報がネット上などに流れてきます。なかには誤った情報もあり、「Aさんにはあてはまるかもしれないけど、Bさんにはあてはまらない」ということもあります。

情報を正しく得るための場所としては、患者会はとてもよいです。患者会で実際にインスリンポンプを使っている人や、患者会に携わる医療者からは、正しい情報が得られます。患者会を知らない方やインターネットにアクセスしない方は、情報が不足していると思います。ですが必ず主治医はいるので、主治医の先生によく質問をして、必要な情報を教えてもらうことが大切です。

今話しているような先進デバイスを使うためには、医療費がかかります。そのため、一人一人の経済状況を鑑みて治療法を選択しなければなりません。情報提供はすべての人に行いますが、どの血糖管理の方法を選択するかは個々に異なります。

経済的に難しい患者さんに対して、何らかの助成が受けられるように活動を行っていますが、まだ力が及ばず、現状を変えることができていない状況です。今、厚労省を含めてとにかく関係者を巻き込んで、現状を共有していこうとしているところです。患者さんに対して、希望のない状況にはしたくないです。現在、まだうまくいっていませんが、我々医療者も取り組んでいるので、一緒に頑張ろうということはお伝えするようにしています。

高谷先生

小児科ですと、親御さんのネットワークの大切さというのもあります。やはり患者会やキャンプなどの患者の集まりでの情報交換が、みなさんいちばん盛り上がって、悩みや解決策等々の話が進むのをいつも感じていますので、そういった繋がりは大事だと思います。

SNSもあるのですけど、親御さんたちは忙しくて、熱心に見ている感じは私の患者さんはそこまでなくて。やはり患者会で話をして、実際どうなのかというところを参考に子供さんの治療に生かしている方が多いですね。状況が小学生と中学生でも全然違いますし、地方や地域でのいろいろな活動も違います。その点で患者会のほうが情報としてもいいですし、親御さん自身の不安などを共感できるという意味でもいいですね。

みなさんそれぞれにいろいろな心配事をわかってほしい、共感してほしいというところがあって、それはやはり同じ経験をした親御さんがいちばん共感してくれるところがありますので、患者会が非常に重要かと思います。

加藤先生

インターネットで情報を取るときは、もちろん信頼のたるところがよいと思うのですけれど、いろいろな情報がインターネットにはあるので、患者会がおすすめではありますね。ただ、患者会でも裏技的なことなどのあまりおすすめできない話が出ることがあります。

ですからやはり、最終的には主治医へ相談してくださいと。そこがないと、いろいろな情報に惑わされたり、自己流になってしまいますので。最終的にはご自身のことをずっと見てくれている主治医に相談して、こういう話を聞いた、こういう情報があった、だけど、私にとっては先生どう思いますか?という相談を必ずして、ご自分に応用していただきたいです。

あと、少し話がずれてしまうかもしれませんが、医療者側の情報発信という面で、新しいワードとして、SAPという言葉に加えて、AIDという言葉も世の中に出てきました。とはいえ、私の周りではAIDという言葉はまだまだ浸透していないのが現状です。今は患者さんも医療従事者も、HCL、AHCL含めてほとんどの人がSAPと言っていますが、時代はSAPとAIDを分ける流れになっているので、私自身はHCLとAHCLを合わせてAIDと言うように、医師として発信しないといけないなと思っています。

物が次々に進化していくに従って、用語もいろいろなものが出てきます。ほかにも、「オートモード」などいろいろな言葉が、バージョンが変わると違う呼び名になることで患者さんは非常に混乱するので、できるだけ医師、発信する側が、言葉が新しく変わったならそれをしっかり使って伝えていかないと、混乱をまねいてしまう印象があります。

小谷先生

HCLを扱っている医療施設でのAHCLへのアップデートについて、まだ未実施の施設は少なくないです。患者さん自身が自宅で担当者とZoomでアップデートする方法と、担当の方に病院まで来ていただいて、何人かで一緒にやる、という方法があります。病院の事情が律速にならないように、メーカーの担当の方の協力をお願いして進めていけるとよいです。

加藤先生

私のところでは病院にみなさんに来ていただいて行っているのですけれども、医療者側も少し負担はあるものの、患者さんの治療面において先ほど述べたような非常に大きなメリットがあるので、ぜひ、導入を進めてほしいです。私も患者さんにアップデートの動画を見てくださいね、と何回も電話したりしていて、今のところ医療者側もひと手間あるけれども、やはりこれだけよい治療法ですから、できるだけ早く患者さんに届けてあげてほしいということを、メッセージとして送りたいと思います。

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この座談会は2024年1月30日に実施しました。

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