第1回「CSII療法のあり方を考える」
2. 誰がどのように使うべきか
ポンプのメリット
現在のポンプの素晴らしい点は、持続注入(ベース)をプログラムして自由に注入量を調節できることです。そしてもう一点は、追加注入(ボーラス)を様々なパターンで行えることです。食事の摂り方や内容に応じてペン型注射器でゆっくり注入したり、途中で注入スピードを変えたりなどは現実にはできません。これらの利点はMDI(Multiple Daily Injection、インスリン頻回注射)では及ばない、ポンプそのもののメリットだと思います。
適用はどんな人?
最も良い適用は、1型糖尿病の発症早期の方です。まだ多少は内因性インスリン分泌能が残存している状態でCSIIにより正常に近いレベルで血糖を維持すると、一時的にインスリン注射が不要になることがあります。これはハネムーン期、または寛解期と呼ばれ、インスリン分泌能が少し改善し、インスリン感受性もよくなったことにより、このような現象に至ると考えられます。多くのケースでは再びインスリン注射が必要になりますが、わずかながら残されている内因性インスリン分泌能を維持することは、今後の良好な血糖コントロールを続ける上で非常に大切です。
第二は1型糖尿病を発症して日は浅いものの、MDIで完全な血糖コントロールが得られない方です。夜中は拮抗ホルモンが最も低下し、明け方4〜5時から上昇し始めます。これに同期して、基礎インスリンを夜中は少なくして低血糖を防ぎ、明け方から増加させて朝食前の血糖を良くしたい。ところが基礎インスリン分泌がほとんど枯渇している場合はトレシーバやランタスなどの持効型インスリンを使用しても、夜中の低血糖回避と明け方の高血糖改善を両立させるのは難しいものです。これを解決するにはCSIIによる持続注入のプログラムが大いに役立ちます。
第三は妊娠を希望する方や安全に妊娠を継続すべき方です。1型、2型を問わず、妊娠可能なレベルまで血糖を改善する目的で使います。あるいはMDIでそれほど悪くない血糖コントロールで妊娠できた方であっても、妊娠期間中に血糖変動をさらに安定化させるためにCSIIに変更する場合があります。これは一時的な使い方で、大半の方は出産後に元のMDIに戻ります。
以上のようなケース以外にも、糖尿病性ケトアシドーシスなどの急性代謝失調や外科手術前後、抗癌剤やステロイド高用量の治療中、重症感染症など、様々な血糖異常をきたした場合にも一時的にCSIIを行う場合があります。
小児科での血糖コントロール
小児科の内分泌代謝領域を専門とされている先生からは、お子さんのほうが抵抗なく、CSII治療を受け入れてもらいやすいと聞いています。小児の1型糖尿病の患者さんにとって、普通のお子さんと同じ生活を送り、同じように身体的、精神的に成長することはとても大切です。それこそが血糖コントロールの目的だと思います。インスリンは単に血糖を下げるホルモンではなく、同化ホルモンとして様々な作用を発揮しています。インスリンがたくさん必要な時間帯は多く、あまり多くは要らない時間帯は少なくする必要があります。そのようなデリケートな調整が出来るのがCSIIですから、小児の患者さんにとっては非常に効果的な治療法です。30年前にニプロSP3で治療していた時代から、現在の素晴らしいデバイスでCSIIが可能になったように、小児の患者さんのこれからの人生は長く、もっともっと新しい技術の恩恵を受けられる可能性があると思います。
ただ、日本の糖尿病専門医は5,000名程度であり、小児科の分野でCSIIを導入、指導できる先生はまだまだ少ないのが現状です。従って、専門の先生に診てもらえるかどうかが治療の分かれ道になっています。専門施設にお子さんを連れてこない限り、CSIIを受けることが出来ません。現在はインターネットなどで情報を簡単に入手できる時代ですから、小児科の主治医の先生とよくご相談されて、専門施設にご紹介頂かれることをお勧めします。
2型のインスリン療法患者
2型糖尿病ではこの程度が現実だと私も感じています。大きな原因は不十分な血糖コントロールにもかかわらず、漫然と経口薬を長期間使用していたケースが多いことです。2型糖尿病では内因性インスリン分泌は経時的にどんどん低下してくることが知られています。同じ経口薬を同量で継続しても、数年の経過でHbA1cが次第に上昇してくることをしばしば経験します。しかし、この10年間のインスリン治療に関する調査や研究の進展により、以前よりは早期にインスリンを開始するケースが増加しています。これにはインスリンのデバイスや注射針の改良も寄与していますし、インスリンと併用できる経口薬の選択幅も広がりました。恐らく、今後はインスリン治療中の患者さんのデータはもっと改善すると推測されます。
2015年08月 公開