思春期患者によるインスリンポンプおよび自己調節鎮痛(PCA)ポンプの使用:米国食品医薬品局(FDA)における過去10年の有害事象の後ろ向き解析
論文の要点
- 研究のタイプ:後ろ向きコホート研究。
- 患者:FDAへ有害事象報告が寄せられたインスリンポンプまたは自己調節鎮痛(PCA)ポンプを使用中の思春期患者(12-21歳)。
- 方法:1996年1月1日から2005年12月31日までの間にFDAへ寄せられたインスリンポンプおよび自己調節鎮痛ポンプに関する有害事象報告をFDAのデーターベースで検索して、報告の内容から年齢分布・有害事象の種別・後遺症の有無・有害事象の発生に寄与した潜在的な要因を解析した。
- 結果:
- 1674件の報告が特定され、このうち1594件がインスリンポンプに関するもので、53件がPCAポンプに関するものであった。
- インスリンポンプに関する報告の中では、13件の死亡例があり、このうち2件は自殺企図の可能性が示唆されていた。
- さらに医療器具関連と見られる重症低血糖・重症高血糖の報告が複数、存在した。
- インスリンポンプに関する報告のうち102件(6.4%)において、コンプライアンス・教育・スポーツに関連した活動・ポンプの落下または損傷に関連した問題により有害事象が発生した可能性が明らかになった。
- インスリンポンプに関する報告のうち、82%が入院を要していた。
- PCAポンプに関する報告の約半数が医薬品の過量投与が関与しており、不正変更とコンプライアンス不良が明らかになった事例もあった。
解 説
2005年の1年間にFDAが5件のインスリンポンプ使用中の思春期患者の死亡報告を受け、この年齢層の患者におけるインスリンポンプ使用に対する懸念が高まったことから、本調査は行われた。
本調査により明らかになったイベントの内訳は表1のとおりであった。
表1 1996年1月1日から2005年12月31日の思春期患者(12-21歳)におけるFDA有害事象報告
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◇患者背景
- 合計:1954件
- 男性:637件(40.0%)
- 女性:934件(58.6%)
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◇有害事象の種類
- 傷害:1038件(65.1%)
- 故障:528件(33.1%)
- その他の事象:15件(0.9%)
- 死亡:13件(0.8%)
また、インスリンポンプに関するトラブルの原因の可能性は表2のとおりであった。
表2 トラブルの原因の可能性が示された102件(6.4%)の詳細
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◇患者背景
- 男性:42件
- 女性:59件
- 性別不明:1件
- 平均年齢:15.8歳
- 入院件数:82件
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◇有害事象の原因となった思春期特有の問題の内訳
- 教育:47件
- コンプライアンス不良:19件
- 教育とコンプライアンス不良の両方:2件
- スポーツおよび他の活動a:12件
- 医療機器の誤った使用:8件
- 危険な行動b:4件
- 医療機器の無責任な管理:5件
- 思春期の成長c:5件
- 自宅から離れていた:1件
- 保護者からの助言の欠如:1件
- a: 水泳 3件、ヨット・ボウリング・スノーボード・ジョギング・バスケットボール・フットボール・野球・自転車・乗馬 各1件
- b: このうち2件は自殺企図の可能性あり
- c: 体格、成長のスパート、筋肉量に関して
米国食品医薬品局(Food and Drug Administration: FDA)は、医療機器の承認に当たっては「期待される健康への利益がいかなる潜在的なリスクをも上回る」ことが必要であることを明文化している(文献1)。
本研究は、医療機器の製造元からの有害事象報告に基づいており、因果関係・トラブルの発生頻度も明らかにされていないため、エビデンスの質としては高くないが、インスリンポンプの安全性を10年間の長期にわたり調査した点が特徴的である。
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