1型糖尿病に対するインスリンポンプ療法
論文の要点
- 文献のタイプ:専門家による教育的総説
- 内容:症例提示、インスリンポンプの原理、エビデンスの紹介、具体的な使用方法、費用、副作用、未解決な問題、ガイドライン、参考文献など
解 説
イギリスのキングズカレッジロンドン校のJohn C. Pickup氏らは、1978年に世界で初めてインスリンポンプの臨床応用を報告した(文献1)。この第一報において、Pickup氏らは電池で駆動される小型のシリンジポンプ(サイズ: 40 mm x 163 mm x 25 mm、重さ: 120g)によりインスリンを持続的に皮下注入することで血糖値を良好にコントロールすることが可能であることを示した(文献2)。
この総説において、1型糖尿病におけるインスリンポンプ療法開始の適応は以下のように示されている(表1)。
表1 1型糖尿病におけるインスリンポンプ療法開始の適応
- (1) 頻回注射法*で最善の努力をしてもHbA1c高値が持続している場合(HbA1c が8.5%以上で費用対効果が高いとされているが、国によってガイドラインで定められた基準値は異なる)。
- (2) 頻回注射法*で最善の努力をしても重症低血糖を繰り返している場合(ただし低血糖および重症低血糖の頻度の定義が完全には確立していないため、医師の判断を要する)。
- (3) 小児において、インスリン注射を行っていてもHbA1cが高値で重症低血糖の問題があり、頻回注射法*が困難または非現実的と考えられる場合。
- (4) 妊娠初期または妊娠前において、重症低血糖を起こすことなく目標HbA1c(<6.1%もしくは各国のガイドラインによる)の達成が困難な場合。
*頻回注射法は、持効型インスリンアナログを用い、頻回の血糖自己測定を行い、カーボカウントおよびインスリン自己調節に関する構造化された教育を行い、多職種の医療チームと頻繁に連絡を取ることを含む。
このインスリンポンプ療法開始の適応に関して、北米の専門家から「患者がCSIIを望んだ場合」という項目がない、と指摘する編集者への手紙があった3)。これに対してPickup氏は、現状では医療経済的な理由からそのようになっていないが、近い将来、患者が自分にもっともふさわしいインスリン強化療法を選べるようになるよう政府または健康保険に働きかけて行かなければならない、と回答している(文献3)。
この総説ではインスリンポンプ療法の父とも言うべき第一人者の見解を知ることができる。
関連文献
- 1) Pickup JC, Keen H, Parsons JA, Alberti KG. Continuous subcutaneous insulin infusion: an approach to achieving normoglycaemia. Br Med J 1978;1(6107):204-7.
- 2) 'Mill Hill Infuser', the first portable insulin infusion pump, London, England, 1976. Collections Online-Objects. SCIENCE MUSEUM GROUP.
- 3) Blumer I, Edelman, SV, Hirsch IB. CORRESPONDENCE. Insulin-Pump > Therapy for Type 1 Diabetes Mellitus N Engl J Med 2012; 367(4):383-384.