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2026年10月19日

長時間の睡眠、実は不調のサインかも? 糖尿病性腎症のリスクが上昇

 「毎日たっぷり眠っているから、自分は健康だ」と安心していないだろうか。2型糖尿病患者さんにおいて、長過ぎる睡眠時間が三大合併症の一つである「糖尿病性腎症」の発症や進行のリスクを高める可能性が示された。順天堂大学などの研究グループが、日本人2型糖尿病患者約680人を平均6年間追跡した前向きコホート研究によると、睡眠時間が8時間以上の患者では、6時間未満の患者に比べ、糖尿病性腎症の発症または進行のリスクが約1.9倍になるという。長時間の睡眠は休養ではなく、体の不調のサインかもしれない。研究の詳細は、Journal of the Endocrine Society(2026年10月8日オンライン版)に掲載されている。

「睡眠」の腎機能低下との関連は不明

 糖尿病性腎症は、糖尿病患者さんの約30〜40%が発症する代表的な細小血管合併症である。進行すると末期腎不全に至り人工透析を余儀なくされるだけでなく、心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患の発症リスクを大幅に上昇させる。

 これまで腎機能低下を招く生活習慣因子として、塩分やタンパク質の過剰摂取、運動不足、喫煙、過度の飲酒などが指摘されてきたが、「睡眠」との関連については不明な点が多かった。一般の人においては、睡眠時間の長短双方が生活習慣病や死亡リスクと関連することが知られているものの、糖尿病患者さんにおける腎症の新規発症や進行との関連を長期にわたり前向きに検証した研究は限られる。

日本人2型糖尿病患者678人を6年間追跡

 そこで研究グループは、2型糖尿病患者さんの睡眠を含む生活習慣と糖尿病性腎症との関連を検討する前向きコホート研究を実施した。

 対象となったのは、外来通院中、25〜69歳、日本人、登録時に顕性腎症(持続的なタンパク尿)を認めていない―という条件を満たす2型糖尿病患者678人。追跡期間は平均6.0±2.7年間に及んだ。

 主要評価項目は、「糖尿病性腎症の新規発症(正常アルブミン尿から微量または顕性アルブミン尿への進展)」と「微量アルブミン尿から顕性アルブミン尿への進行」を合わせた「複合エンドポイント」とした。

 ベースライン時および追跡期間中(2年後、一部項目は5年後)に複数回にわたり生活習慣の調査を実施し、追跡期間中の平均値を算出することで、長期的な生活習慣の実態を解析に反映させた。調査内容は以下の通り。

調査内容
・簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)による栄養摂取状況
・朝型夜型質問紙(MEQ)による体内時計の傾向
・ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)による主観的な睡眠の質
・身体活動量
・うつ症状 など

睡眠8時間以上群でリスク約1.9倍、高齢者で顕著

 追跡期間中、対象者の31.7%に当たる215人が複合エンドポイント(糖尿病性腎症の新規発症または進行)に達した。

 平均睡眠時間、食事内容(総エネルギー、炭水化物、植物性タンパク質の摂取量など)、身体活動量、飲酒、喫煙などの生活習慣因子と、HbA1c、血圧、糖尿病の罹病期間といった従来の危険因子を含めて多変量解析を行ったところ、腎症の新規発症または進行と関連傾向が見られたのは、生活習慣因子では「平均睡眠時間」のみだった。

 そこで平均睡眠時間に焦点を当て、さらなる解析を実施した。平均睡眠時間によって、対象を①6時間未満、②6〜7時間未満、③7〜8時間未満、④8時間以上―の4群に分類。ベースライン時の年齢、糖尿病の罹病期間、性、HbA1c、収縮期血圧、中性脂肪、尿酸値、尿アルブミン値、さらに各種糖尿病治療薬や降圧薬の使用状況などで調整した多変量Cox比例ハザードモデルで、①6時間未満群を基準(1.00)とした腎症の新規発症または進行のリスク(ハザード比:HR)を算出した。結果は以下の通り。

腎症の新規発症または進行のリスク vs.①6時間未満群
②6〜7時間未満群:HR 1.08(95%信頼区間 0.74〜1.57)
③7〜8時間未満群:HR 1.56(同 1.05〜2.31)
④8時間以上群:HR 1.92(同 1.15〜3.19)

 睡眠時間が長くなるにつれ、腎症の新規発症または進行のリスクが有意に上昇する傾向が認められた(傾向性P値=0.003)。

 注目すべきは、長時間睡眠をとっていた患者群の身体的特徴である。睡眠時間が長いグループは、短いグループと比較してBMI(体格指数)が低く、悪玉(LDL)コレステロールも低めで、HbA1cは7〜8時間未満群で最も低値を示していた。また、朝型傾向が強く、主観的な睡眠の質も良好だった。つまり、一見すると代謝状態や生活リズムが良好に保たれているように見える患者群において、腎症のリスクが上昇していたのである。

 患者背景別のサブグループ解析では、長時間睡眠と腎症の新規発症または進行リスクとの関連は、特に65歳以上の高齢者で強く(交互作用のP値=0.046)、ベースライン時すでに微量アルブミン尿を認めていた患者でも強固な関連が示された(交互作用のP値<0.001)。また、腎機能の指標である推算糸球体濾過量(eGFR)が60 mL/分/1.73m²未満に低下していた患者においても、同様の傾向が認められた。

「よく眠れている」は体の衰えのサインか

 一般的に「しっかり眠ることは健康維持の基本」と信じられており、睡眠時間が長いことに対して警戒感を持つ患者さんは極めて少ない。「毎日8時間以上ぐっすり眠れているから問題ない」と安心材料として捉えられがちだが、今回の結果は、その常識に一石を投じるものである。

 なぜ睡眠時間が長いと糖尿病性腎症のリスクが高まるのか。研究グループは、長過ぎる睡眠そのものが直接的に腎組織を傷害しているというよりは、「長時間の睡眠を必要とする背景に、目に見えない体の衰えや全身の不調が潜んでいる可能性がある」と指摘する。具体的には、加齢に伴う筋力低下(サルコペニア)や心身の活力低下(フレイル)、日常的な身体活動量の低下、体内で持続する慢性的な微弱炎症などが挙げられる。このように筋力や回復力が低下して体が弱っていると、体調のバランスが崩れやすくなり、疲労回復や代謝維持の代償として、体が長い睡眠時間を欲するようになるという。

 また、患者さん自身が「睡眠の質は良い」と思っていても、自覚症状を伴わない睡眠時無呼吸症候群が隠れている可能性もある。

 留意すべきは、今回の研究は観察研究であり、長時間睡眠と糖尿病性腎症リスクの直接的な因果関係を示すものではない点である。したがって、睡眠時間を無理に削っても、背景にある体の衰えが改善されなければ、腎保護にはならない。

 今回の研究における最大の意義は、日常診療の問診などで容易に把握できる「睡眠時間」が、腎症リスクの高い患者さんを見つけ出すサインになりうることを示した点にある。特に高齢患者さん、すでに尿検査で微量のアルブミンが検出されている患者さんではその意義が大きい。

 「最近、以前と比べて睡眠時間がやたらと長くなった」「8時間以上眠っているのに日中のだるさや疲労感が抜けない」と感じる2型糖尿病患者さんは、単なる加齢や一時的な疲労と自己判断せず、腎機能検査の数値に目を向けるとともに、日々の活動量や体調の変化について主治医や医療スタッフに相談することが推奨されるだろう。

■参考

[ 糖尿病ネットワーク編集部 ]
腎臓の健康道_血液検査結果がもっと分かる

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