糖尿病患者の海外旅行

 海外への旅は人生の大きな楽しみだ。しかし、糖尿病患者であることが海外旅行を躊躇させたり、不安になってしまう人も少なくないようだ。この連載を続けていて、「旅行の準備や注意点、アクシデントがあった場合の対策を教えてください」といったご質問をいくつかいただいた。
 血糖コントロールが良好に保たれていれば、海外旅行を躊躇する必要はないと思う。しかし、そのための準備や対策は必要である。

旅行の準備

海外旅行のときの医療保険

 海外で治療を受ける場合、いままでの経験では、まず自腹(現金)で全額払わなければならない。それから保険会社から契約時に交付された診断書となっている用紙に記入してもらい、帰国後に保険会社に提出し払い戻しを受けることになる。
 手術、入院といった重症のケースで手持ちの現金が足りない場合は、保険契約書やクレジットカード、など支払い能力を示すものを提示し、医療機関と交渉すればほとんど受け入れてもらえるということを聞いている。国、医療機関によって異なるようだ。

 3万円以上なら、もう少し手間がかかるかもしれない。例えば、低血糖を起こして救急車で運ばれた(国によっては救急車は有料)とか、車を運転していて低血糖を起こして事故を起こした、インスリンを現地調達するために処方箋を発行してもらった、長期滞在にあたって現地の診療所で診察を受けたなど、糖尿病に関連するものであれば、もちろん払い戻しは受けられないものと覚悟しなければならない。

旅行で起きたことは自己責任

 旅行は自発的な行為なのだから、やはり自己責任が原則だと思う。起こりうることを想定し、そのことが覚悟できないなら、あるいはそのことを他人に責任を転嫁するくらいなら、やはり旅行をする資格はないものと思う。会社の都合で海外へ出張・転勤させられたケースなら労働災害と捉えることもできるが。

 大げさな話になるが、私の場合、旅行へ行くときは(それこそ戦闘地域とは程遠い“観光地”だが)毎回死を覚悟している。拉致されて人質状態になったり、どこかへ売り飛ばされたり、なにしろインスリンがなくなった時点で死刑宣告と同じなのだから。

 事故に遭って怪我をしたりしても、現地の医師がみな糖尿病の知識があるとは限らないので、助かる命も助からない可能性もある。実際、私の場合、フィリピンで医者にかかったときにインスリンを1日4回打っていることを説明したら、「フィリピンでは、通常2回打ちなのに、日本ではなんて遅れた治療をしているのだ。帰国したらぜひ2回打ちにしなさい」と言われた。さらにインフルエンザだったにもかかわらず、「フィリピンの食べ物に慣れていない日本人がよくかかる食あたり」と診断された。

 仏教、そしてイスラム教にも、「事故に遭う」ということは「そもそもその事故現場にあなたがいたことに責任がある」という共通する考え方がある。この考え方は、海外への旅行にもあてはまると思う。

 そして、保険でカバーできることも限界があることを覚悟しなければならないと思う。保険とは一種の“共済”システムなので、保険会社も事業体として存続しなければ他の保険契約者にも迷惑がかかることになる。

 また、保険に関して、自分が病気になったとき以上に自分が加害者になったときが一番大変だと思う。もちろん、故意ではない場合である。自動車を運転していて…というのなら誰でも考え付くことだが、私の場合はこんなことがあった。

 中国の蘇州を旅しているとき、同じツアーの人が自転車にぶつけられた。“運転者”は20歳代後半から30歳代前半と思しき女性で、後ろの荷台には3歳ぐらいの男の子が乗っており、接触した瞬間急ブレーキを掛けたため、後ろの荷台に乗っていた男の子が荷台から地面に落ち、口を切って流血の惨事となった。その母親は接触した人にものすごい剣幕で食って掛かってきた。接触した人は、何が起きたか分らず呆然と立ち尽くす状態で、我々のツアーの日本人たち数人が日本語で、私も英語と片言の中国語で応戦した状態。

 騒ぎを聞きつけ、中国人の現地ガイドと人民解放軍の兵隊が来て、さらに騒ぎはエスカレート。日本人側は、日本人の感覚で“歩行者”であり、ぶつかってこられたのだから、こちらが被害者と主張。母親は子供が口を切って出血しているので、こちらが被害者と主張。「これから、警察で事情聴取」というところまで話が行きかけた。

 団体ツアーで、時間に限りがあるため、中国人の現地ガイドが人民解放軍の兵隊にお金(恐らく袖の下、日本円で1000円程度)を渡し、旅行主催社である現地旅行社の連絡先を渡して、その場を切り抜けた経験がある。このときは、保険会社を巻き込むことなく解決できたものと思われるが、“被害者”であるはずの日本人旅行者も納得できない様子だった。文化の違いを改めて肌で感じさせられた。

 日本人の感覚で、軽い気持ちで「ゴメン」などと迂闊に言ってしまうと“加害者”であることを認めたことになってしまうので、“外国”では日本の常識が通用しないことを頭に入れておかなければならない。

しっかりとした知識が必要

 文化の違いということで、この旅で思い出したことがもうひとつ。

 ツアー参加者の一人で、小学校5年生の男の子が下痢をしたということで、母親が心配のあまり顔面蒼白状態になっていた。中国人現地ガイド曰く、「下痢をしたときは、麻婆豆腐を思いっきり辛くして腸を刺激すればよい」と。私が「日本人は、普段唐辛子の辛さに慣れていないから、唐辛子の刺激で下痢することがある」と説明したところ非常に驚いていた。

 その子の母親に下痢が水様便であったか粘便であったかを尋ねたところ、流してしまい覚えていないとのこと。その子の顔色が徐々によくなっているのを確認し、「脱水症状になっていないか」を注意し、もし発熱があれば医者に相談した方がよいと、私としては極々常識的なことをアドバイスしたつもりだったのだが、ツアー参加者は「看護婦か」と訊いてきた。

 慣れない気候風土・水や食べ物、異動の疲れなど海外では体調を崩すことを前提に行動しなければならない、つまり自己責任と自分自身は思っていたのだが、みな、基本的な健康に関する知識も持ち合わせていないのかと感じた次第である。

これまでに寄せられた寄付金

20,681,414円

これまでに実行した支援金

20,274,037円
2025年12月現在

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