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フィリピンの糖尿病事情について(インスリン・フォー・ライフからのレポート)

 オーストラリアで途上国の糖尿病患者さんを支援するインスリン・フォー・ライフ(IFL)のスタッフが2013年10月にフィリピンとベトナムを訪問し、現地の糖尿病患者さんに対する支援やケアなどの実態調査を行いました。

 今回、IFLのニール・ドナラン氏より、フィリピンの糖尿病事情に関する現地レポートが届きましたので、ご紹介いたします。

 国際糖尿病支援基金はこの活動に賛同し、インスリン・フォー・ライフ(IFL)を支援しています。



セブ市について

 今回の調査には、インスリン・フォー・ライフ(IFL)代表のロン・ラーブ氏、TADE(台湾糖尿病エデュケーター協会)のクリスティーン・シュウ氏とシャロン・チェン氏、日本からは看護師の湧井晶子氏が参加し、フィリピンのセブ市へ向かいました。
フィリピンの総人口は9千8百万人で、セブ市の人口はおよそ86万6千人です。

 我々は10月9日に到着し、その夜はディナーと現地の支援団体である「スイートアラート」主催のプレゼンテーションミーティングに出席しました。彼らのプレゼンテーションの後に、ラーブ氏はIFL オーストラリア&グローバルについて、シュウ氏とチェン氏は台湾の糖尿病教育について、湧井氏は日本の糖尿病教育と看護師としての経験を話しました。

  この「スイートアラート」とは、セブ市で働く女性たちが設立した人道支援団体で、経済的に恵まれないフィリピンの糖尿病患者さんへ、糖尿病療養に必要な物資をサポートしています。 会長のアーミ・ガルシア氏は、ヴィンセント・ソット・メモリアル医療センターから来たマリアン・デノポール博士への支援も約束しました。


スイートアラートとIFLのメンバー


我々はセブ市内の3つの主要病院を訪問しました。
IFL は、ヴィンセント・ソット・メモリアル医療センターのヘラルド・アキノ最高経営責任者と会い、JDF (小児糖尿病財団)が毎年行っている、小児糖尿病キャンプに関してのプレゼンテーションに出席しました。

  ヴィンセント・ソット・メモリアル医療センターは800床あり、従業員800人、医療スタッフ115人、医師80人で、600人の外来患者を対応しています。ここは 、セブ州(人口680万)全域の人々へ医療を提供する地域中核病院です。

ヴィンセント・ソット・メモリアル医療センターにて

  マリアン・デノポール医師は、1日に約70名の糖尿病患者さんを診察している内分泌科のチーフです。現在、165名の患者さんが定期的にインスリンの供給を受けています。 緊急治療室では常に7バイアルのインスリンを確保し、病棟では13バイアル、重症棟では1バイアル、通常でも1バイアルを維持しています。

  CCMC (セブ市医療センター)は300床の市立病院で、主にセブ市から来る患者さんの診察を優先しています。
糖尿病センターは火曜日と木曜日に診療しており、一日約20人の患者さんを治療しています。インスリン1バイアルは毎月無料で提供されますが、血液検査は受診毎に行なわれ、患者さんは1ドルを自己負担しなくてはなりません。
尿検査は行っていません。もし診療日以外に重症の糖尿病患者さんが来院した場合は救急外来に入院が認められており、救急外来でも多少のインスリンを提供しています。「スイートアラート」はこの病院に部屋を持っており、IFL オーストラリアによって提供されたインスリンを、小さな冷蔵庫で保管しています。

  我々の訪問後、2013年10月15日に地震が発生し、この病院も被災しました。患者さんは他の病院に移送され、このことはセブでの保健事業に大きなストレスを与えました。現在「スイートアラート」は、インスリン保管のために、別の病院を探しています。



聖アンソニーマザー&チャイルド病院

  我々の訪問中、この病院では血液検査と糖尿病教育プログラムが行なわれていました。
栄養士が、健康についての講演を患者、医療スタッフ、病院職員に対し行い、およそ50人が検査を受けました。検査を受けた中には血糖値が500mg/dlもある患者さんもいたため、すぐにノボミックス30のインスリンが投与されました。

2013年9月13日から 、IFL は下記の物資をセブへ無償で寄付しました。

  • インスリン   1,780 ml
  • テストチップ   2,000枚
  • 測定器   12個
  • 注射器   100本
  • ペン型注射器用針 300本
  • ランセット   770本
  • インスリン & ランセットペン  24本
  • フィリピン現地での上記購入費用 21,300米ドル
  • オーストラリアからの郵送料 200米ドル
  • 合計 21,500米ドル


ヅマグエテ

 ヅマグエテ市はネグロス・オリエンタル州に位置しています。 ネグロス島はセブ南部から、バスとフェリーでおよそ4時間かかります。ヅマグエテ市の人口は130万人です。

ネグロス・オリエンタル地域病院のクラリタ・カディス医師とチャティ・メリー・エルゲン・ハリスにより、糖尿病啓発プログラムのイベントが開催されました。このイベントはヅマグエテ・スポーツスタジアム等で開催され、1200人から1500人が参加しました。

参加者
ボランティア 137人、医師 4人、特別ゲスト 4人
ヅマグエテ市長のチキティング・サガルバリア市長
ネグロス・オリエンタル州のロエル・デマゴ州知事
ネグロス・オリエンタル州のマーク・マシアス副知事

午前6時より血糖測定が開始されましたが、我々がセブから到着したのが午前7時だったため、午前8時30分に会場に到着しました。イベントの参加者に我々が紹介され、IFL からニール・ドネラン、日本から湧井晶子氏、TADEからクリスティーン・シュウ氏によりスピーチが行われ、医師や栄養士達が糖尿病を適切に管理することの重要性について説明しました。1,000人が検査を行い、うち360人はインスリンを投与され、628人は食事療法や生活改善が必要と診断されました。

ヅマグエテでの糖尿病啓発イベント

プログラムは午後4時で終了しましたが、大きな成功をおさめ、ヅマグエテとネグロス・オリエンタル州では糖尿病有病率が高いことが明らかになりました。糖尿病療養に必要な物資の支援同様、患者さんと医療スタッフへの継続した検査と教育プログラムが必要です。

次の日、我々はネグロス・オリエンタル地域病院を訪問しました。
この病院の患者収容人数は200人ですが、我々が到着した時には500人の患者がいました。 患者とベッドが院内のホールと廊下に並べられ、中には1つのベッドに2人以上が寝かされているベッドもありました。患者の多くが貧困のため、治療費を支払うことができません。

その次の日、 IFLと糖尿病のイベントを開催したスタッフとともにフィードバックセッションを行い、そこで我々は糖尿病啓発プログラムを再検討しました。このセッションはネグロス・オリエンタル地域病院で行われ、医師、医学生とボランティアの多くが、プログラムの良い面や悪い点についてコメントしました。フィードバックセッションの目的は、それらのコメントから学び、今後に生かすためです。

またIFL は、ネグロス・オリエンタル病院とクラリタ・カディス医師へ、できるだけ多くの糖尿病療養に必要な物資を支援することにしました。 2013年10月13日に、ヅマグエテの他の2つの病院シリマン医療センターと聖子供病院を訪問しました。両方とも私立病院です。

2013年9月13日から、IFL はヅマグエテへ下記の備品を無料提供しました。

  • インスリン   4,705ml
  • テストチップ  4,850枚
  • 測定器   46個
  • 注射器   420本
  • ペン型注射器用針  6,020本
  • ランセット   1,600本
  • インスリン & ランセットペン  69本
  • フィリピン現地での上記購入費用 56,800米ドル
  • オーストラリアからの郵送料 900米ドル
  • 合計  57,700米ドル

2013年10月12日、 TADE (台湾糖尿病エデュケーター協会)によって寄付されたものは、以下の通りです。

  • テストチップ 700枚
  • 測定器   8本
  • 綿棒   1,500本
  • ペン型注射器用針  10本
  • ランセット   400本
  • 糖尿病文献 190冊
  • フィリピン現地での上記購入費用  1,500米ドル

フィリピンで入手可能なインスリンとテストチップの価格
インスリン

  • 中国製とインド製  3ml のカートリッジあたり12米ドル
  • イーライリリーとノボ ノルディスク ファーマ3ml のカートリッジあたり20〜30米ドル
テストチップ
    アボット、ロシュ、チップ 1枚1.25米ドル。


思いがけない出来事、家族の死、そして地震

ロン氏の義母、タリーさんの祖母が逝去し、彼らは急きょオーストラリアへ戻らなければならなくなり、ヅマグエテ市へは行くことができませんでした。お二人には心からお悔やみ申し上げます。

フィリピンでの最終日である2013年10月15日水曜日、午前8時12分にマグニチュード7.2の地震がセブ市を襲いました。
滞在先のホテルはひどく揺れたが、我々はホテルから脱出することができ、誰も怪我をしませんでした。しかし、セブ市では約150人が亡くなり、多くの方が負傷しました。
建物は崩壊し、医療施設では多くが怪我人を受け入れ限界の状況にありました。 未だその余波は続いています。



危機的状況にある糖尿病

我々はフィリピンにおいて、多くの未受診者に対し検査を行ったが、ほとんどが糖尿病に対する知識や教育が欠如しています。糖尿病療養に必要な物資は高価で、多くの患者さんがインスリンを買う余裕が全くありません。
但し、糖尿病に関する資料等についてはPDA、IDF糖尿病アトラス、全国保健省などから、入手可能かと思われます。



IDF メンバーシップとIDFライフ・フォー・チャイルド

「スイートアラート」は、IDF会員としてセブでの“ライフ・フォー・チャイルドプログラム”への申し込みをしました。我々はヅマグエテのクラリタ・カディス医師に対しても同様の申し込みをするよう勧めるつもりです。

「スイートアラート」で計画されているプログラム
今後の「スイートアラート」による計画は次の通りです。
2013年11月
― 本プロジェクトに関わる医師による適切なインスリン配布のための会議。
― バランゲイの健康労働者へ糖尿病啓発のオリエンテーションの実施。

2014年2月:
― アヤラモールにおいて、スイートアラートの活動紹介と糖尿病療養に必要な医薬品の展示。
2014年5月:IFLと合同による
― 5月9日:バランゲイの糖尿病に関する展示会
― 5月12、13,14日:サマーキャンプ
― 5月16、17日:ヅマグエテ市訪問
― 5月17日、18日:ディポログ市訪問



まとめ

フィリピンでは糖尿病に関し危機的状況にあります。
糖尿病療養に関する物資や資金、医療従事者や患者さんに対する教育が必要とされています。 IFL はできる限り多くの支援を行うと同時に、フィリピン政府は緊急にこの問題を取り組む必要があると考えます。

IDF のライフ・フォー・チャイルドプログラムやIFLオーストラリア&グローバルは、今後もフィリピンの糖尿病患者さんへの支援を続けていくつもりでいます。台湾や日本といった他の国々も、この次にIFLが訪問予定のベトナムに対しても支援をしていただくことが望まれます。



謝辞

アーミ・ガルシア氏、そしてセブの「スイートアラート」のご婦人方に感謝いたします。
クラリタ・カディス医師と娘のロレーン・カディス氏、すべてのボランティアの方々、医者、看護師、ヅマグエテの医学生。
啓発日のために製品を寄付した製薬会社の代表者の方々、他
また、台湾のクリスティーン・シュウ氏と シュミ(シャロン)チェン氏にはフィリピン、ベトナムに同行していただきIFLの実情調査に協力して頂いたことと、シュウ氏とチェン氏の同行を許可していただいた、台湾糖尿病エデュケーター協会会長のネン・クーン・ユー博士へ深謝いたします。

IFLオーストラリア&グローバル、ならびにフィリピンへ同行してくださった方々を代表し、この報告書を提出します。

IFLオーストラリア&グローバル
ニール・ドネラン

翻訳協力者:浅野優子様

 ご賛同いただき、御参加いただける方は、下記口座(郵便局)までお振込み頂きますようお願い申し上げます。

 御協力頂きました方は、支援者としてこのホームページ上の「支援者名」のコーナーでお名前を発表させて頂きますが、本名での発表をご希望でない方は、振替用紙(郵便局)の通信欄にご希望のお名前をご記入ください。

振込口座(郵便局):
口座番号:00160−3−82542
加入者名:国際糖尿病支援基金口
※通信欄へ「フィリピンの糖尿病患者さん支援」とお書き頂きますようお願い致します。

関連サイト
国際糖尿病支援基金
インスリン・フォー・ライフ被災したフィリピンの糖尿病患者さんへのご支援をお願いします。
インスリン・フォー・ライフ(IFL)オーストラリア

2014年01月
国際糖尿病支援基金
  • これまでに寄せられた寄付金
    2,012万9,888円 
  • これまでに実行した支援金
    1,951万7,033円 

(2024年12月現在)

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