青魚などに含まれるオメガ3脂肪酸が、1型糖尿病患者に起こる手足のしびれや痛み、感覚の鈍麻などの神経障害を改善する可能性があることが、カナダのトロント大学が行った研究で明らかになった。
魚油で作られたオメガ3脂肪酸サプリの効果
「1型糖尿病の神経障害に対するオメガ3脂肪酸の補給の影響」と題された論文は、米国神経学会の発行する医学誌「Neurology」に発表された。
「今回の試験は、糖尿病神経障害のある患者さんための新たな臨床的治療の可能性を開く重要な一歩となります。ヒトを対象とした臨床試験ではじめて試みられた研究の成果です」と、トロント大学神経学センターのディレクターのエバン ルイス氏は言う。
糖尿病神経障害は、糖尿病によって引き起こされる神経損傷のひとつの形態だ。症状は患者によって異なるが、かゆみ、しびれ感、感覚喪失、手足の灼熱感、痛み、歩行困難などがある。糖尿病神経障害を抑制し治癒する有効な治療法が求められている。
今回、研究チームは、1型糖尿病患者の感覚神経や運動神経が障害されて起こる多発性神経障害が、オメガ3脂肪酸の補充によって改善されるかについて検討するため、1型糖尿病患者40人を対象とした試験を実施した。
対象となった40人の平均年齢は48歳、体格指数(BMI)は平均28.1、1型糖尿病を患っている期間は平均で27年、女性の割合は53%だった。
参加者全員が、オメガ3脂肪酸のサプリメントを1日当たり10mL服用した。サプリメントには、エイコサペンタエン酸(EPA)750mg、ドコサペンタエン酸(DPA)560mg、ドコサヘキサエン酸(DHA)1,020mgが含まれていた。12ヵ月服用を継続し、糖尿病に伴って起こる多発性神経障害の状態を調べた。
オメガ3脂肪酸が神経再生を促す
角膜は、目を構成する層状組織のひとつで、もっとも外界に近い部分にあり、神経が高い密度で集まっている。これらの神経が損傷を受けたり、角膜の神経線維が長さが失われることは、1型糖尿病の病状の進行を知るためのバイオマーカーになると考えられている。
研究チームが、オメガ3脂肪酸のサプリメントによる神経構造への影響を調べたところ、患者の角膜の神経線維の長さは平均して29%増加した。これは体の他の部位の微小な神経線維の再生も示しているという。
糖尿病性の感覚神経・運動神経の障害による多発性神経障害と診断されたのは23人だった。角膜の神経線維の長さが、開始時は平均8.3mm/mm
2だったのに対し、1年間のオメガ3脂肪酸サプリメントの服用後には平均10.1mm/mm
2に増加した。
その一方で、神経伝導や知覚機能には変化がみられなかったという。
「栄養学的なアプローチによって、微小な神経線維の損傷をくいとめ、治癒できることがはじめて判明しました」と、トロトン大学医学部神経学科のヴェラ ブリル博士は言う。
「オメガ3脂肪酸のサプリメントが神経の再生を促す可能性が示されました。目標としていたのは、無作為化臨床試験を開始するために必要な十分なデータを収集することで、今回の研究はその基盤となります」と、ルイス氏は言う。
研究チームの次の目標は、より規模の大きい第3相無作為化比較試験を行うことだ。
Research SUggests Seal Oil Could Help People With Type 1 Diabetes(トロトン大学 2017年6月13日)
Effect of omega-3 supplementation on neuropathy in type 1 diabetes(Neurology 2017年6月13日)
[ Terahata ]