「私の間食はおもに主人です」と言いますと、まるで主人を頭からガリガリと齧(かじ)ってしまうかのようですが、もちろんそういう意味ではありません。第一、主人は昔かたぎの堅物ですので、とても齧れはいたしません。
──私は糖尿病で網膜剥離の手術を受け、病院から帰って来たのは今から3年前のことでした。それからはインシュリンの注射と食事療法の日々が始まりました。もちろんご飯山盛りの生活や清涼飲料水のがぶ飲みの生活とは「さよなら」をしたのですが、困ったのがいわゆる、「おやつ=間食」の存在でした。
今まで私は、朝のワイドショーから午後のワイドショーまで、テレビの前にでんと座って、煎餅や羊羹、ケーキ、飴玉──それこそ自分の家で駄菓子屋が開けるほど、バリバリむしゃむしゃと食べ続けていたものでした。
療養生活のために、もちろん清涼飲料水などはすぐに止められましたし、また、その他の煎餅や羊羹、ケーキ、飴玉だって、けして死ぬほど好きなわけでもありません。ですが、間食を一切しないとすると、この物足りなさはどうしようもありませんでした。たぶん三度の食事を減らしている事もあるのでしょうが、おやつの時間になりますと、食べたくて、食べたくて、大げさでなく身もだえしそうになるのです。
そこで、通院している病院の栄養士さんとも相談し、シュガーレスの飴やら同じシュガーレス甘味料を使った飲み物を少々いただいたり、おからクッキーなどを自分で作ったりし始めました……。でも、どこか物足りない!
それでやっと、「間食とはほとんど習慣に違いない」と気が付きましてね、テレビの前にでんと座っていた時間をなくし、その時間帯に間食ができないようにするため、散歩を始めたのですよ。歩きながら何かを食べてしまうといけないので主人の監視つきで。 そうしましたら、歩くという運動が加わったこともあるのでしょうが、糖尿病であまり動かなかった足もだいぶ回復してきましたし、血糖値もかなり安定して今ではインシュリン注射もしなくてよくなったのです。
そういう私も、間食を完全に止めたわけではありません。おからクッキーだけでなくおからパンまで作れるほど腕を上げましたし、砂糖のない代替えおやつの生活にもすっかり慣れてきました。そして何よりも、むしゃむしゃ食べる「おやつ」の代わりに始めた主人との散歩がすっかり好きになっていたのです。
散歩の途中、階段の上り下りや、道に段差などがあったりするときは「少しまだ眼が悪くて足元がおぼつかない」という理由で、主人に腕を組んでもらっています。主人と腕を組むなんて何十年ぶりでしょうか。実は、もう眼はよく見えるようになっているのですが、主人には内緒で、腕を組んだりしているのです。
そういうわけで今では、私の間食はおもに主人なのです。