「持続皮下インスリン注入(CSII)療法」(以下、ポンプ療法)は、インスリンポンプを用いてインスリンを持続的に注入する治療法。血糖コントロールが困難な1型糖尿病患者で、効果的な治療法であるという研究が米国で発表されている。
より細やかな調整で正確にインスリンを投与
インスリン療法は、基礎分泌と追加分泌からなる健康な人のインスリン分泌パターンを再現することをイメージしている。インスリン分泌には、食事と関係なく少量ずつ分泌される「基礎分泌」と、食事などの血糖値の上昇に応じて分泌される「追加分泌」がある。基礎インスリン分泌による血中濃度は、血糖値に影響を及ぼす成長ホルモンなどの影響を受け1日の中で変化する。健康な人では一定のレベルが持続するが、インスリン分泌が障害されている1型糖尿病患者ではコントロールが困難な場合がある。
例えば、明け方から早朝にかけて血糖値が上昇する「暁現象」といわれる現象がある。血糖値は通常は夜間は低くなるが、明け方になると分泌されるホルモンや自律神経の緊張などの影響を受け、糖尿病でインスリン注射量の調節が適切でない場合、高血糖になることがある。
暁現象を改善するために、作用時間の長い中間型や持効型溶解インスリンの注射量を調節することで対応をはかることが多いが、それによる低血糖が懸念される。ポンプ療法によって、血糖値が高くなる時間帯から基礎インスリンが増えるように設定すれば、低血糖を増やさずに明け方の血糖上昇を抑えることができるかもしれない。
ポンプ療法は、プラスチック製の管を皮下に留置し少しずつインスリンを注入する治療法。基礎分泌に相当するインスリンを24時間にわたり正確に注入し、状態に合わせて基礎注入量の設定を調節ことができる。また、追加分泌(食事のときに必要なインスリン)をボタン操作で注入できる。治療が困難な例でも、より細やかな調整で正確にインスリンを投与することが可能になると考えられている。暁現象の多い患者や、勤務や生活のパターンが不規則な患者、厳格な血糖コントロールが必要とされる妊娠中にも有用
だ。
米国の利用者は2000年に10万人に
米国では1型糖尿病患者を中心に、インスリンポンプが急速に普及しており、利用者数は2000年に10万人を超えたと報告されている。
ポンプ療法を行う患者数の年次推移(米国)
文献1より
米国では公的な医療保険制度がなく、多くの人が個人で民間の保険会社や組合・団体が提供する医療保険に加入している。日本と医療保険制度や医療の体制が異なるのでただちに比較できないが、インスリンポンプの利用が増えた背景として、血糖コントロールが不良で治療が困難な患者でも低血糖の減少や血糖コントロールの改善ができ、糖尿病合併症の発症予防につながることを示した研究
発表が増えたことや、インスリンポンプ機器が進歩し以前よりも高性能・高
機能になり、使い勝手も向上していることなどが挙げられる。
低血糖を抑えながら血糖コントロールを改善
米国では従来のインスリン注射による治療とポンプ療法を比べ、低血糖を抑えながらどちらがより血糖コントロールを改善できるかを検討した研究が発表されている。この研究は米国糖尿病学会(ADA)が発行する医学誌「Diabetes Care」2005年3月号に掲載された(文献2)。
研究では、ポンプ療法を3ヵ月以上行ったことのある平均年齢43歳の1型糖尿病患者100人を、持効型溶解インスリンと超速効型インスリン製剤によるインスリン注射を行うグループ(50人)と、ポンプ療法を行うグループ(50人)に分け比較した。米国の15施設で行われ、試験期間は5週間だった。
評価は血清フルクトサミン値と、治療の最終週に実施した24時間連続血糖モニタリングシステム(CGM)から得られたデータをもとに行った。血清フルクトサミン値は、HbA1c値に比べより近い過去の平均血糖値をあらわす。その結果、日中の低血糖や夜間(午前12時〜8時)の低血糖の頻度は同じくらいだったが、血清フルクトサミン値はポンプ療法の方がより低くなった(343 vs 355μmol/L)。
8〜21歳の1型糖尿病患者を対象に注射による治療とポンプ療法を比べた研究も発表されている。この研究は「Diabetes Care」2004年7月号に掲載された(文献3)。
インスリン療法を6ヵ月以上続けていた1型糖尿病患者32人(男性14人、女性18人)を、持効型溶解インスリンと超速効型インスリン製剤によるインスリン注射を行うグループ(16人、平均年齢 13.0歳、糖尿病罹病期間 5.6年)と、ポンプ療法を行うグループ(16人、平均年齢 12.5歳、糖尿病罹病期間 6.8年)に分け比較した。米国の1施設で行われ、試験期間は16週間だった。治療目標は、HbA
1c値 7%未満、血糖自己測定値 70〜120mg/dL(食前)または90〜150mg/dL(就寝時)だった。
その結果、インスリン注射のグループではHbA1c値が8.2%から8.1%と有意な変化はみられなかったが、ポンプ療法では8.1%から7.2%と改善がみられた。血糖自己測定の平均値は、朝食前は両群で同等だったが、昼食前、夕食前、就寝時はいずれもポンプ療法のグループで有意に改善された。また、1日のインスリン用量も、注射では16週後に有意な変化はみられなかったが(1.1から1.2U/kg)、ポンプ療法では有意に減少した(1.4から0.9U/kg)。
文献
- Diabetes Metab Res Rev. 2002; 18 (Suppl. 1): S14-S20
Abstract http://www3.interscience.wiley.com/journal/91016166/abstract
- Diabetes Care. 2005; 28 (3): 533-538
Full Text http://care.diabetesjournals.org/cgi/content/full/28/3/533
- Diabetes Care. 2004; 27 (7): 1554-1558
Full Text http://care.diabetesjournals.org/cgi/content/full/27/7/1554
[ Terahata ]