アフリカ・ウガンダの糖尿病事情(2)
今回は、青年海外協力隊員として、東アフリカにあるウガンダ共和国で糖尿病医療活動に関わった、成田祐子さんにウガンダの糖尿病事情を含めた医療事情についてレポートしてもらいました。
「アフリカ・ウガンダの糖尿病事情(1)」については、こちらをご覧ください。
6.他アフリカ諸国では、糖尿病にかかると通院出来ない事があるが、ウガンダではどうか
公的病院では医療費は基本的に無料です。しかし、村落部から来院する場合の交通費が捻出できないために受診をあきらめる場合も少なくありません。
外来では検査代金として患者さんから毎回2、000シリング(約80円)の支払をお願いしています。そのお金が払えないと訴える患者さんもいますが、その場合は周囲の患者さんがお金を貸したり、医師がツケ払いを許可したりします。
私も当初は受診中断率が高いと予測していましたが、当院の糖尿病外来の受診継続率は良いみたいです。数値的な統計はとっていないのですが、医師からの聞き取りによると7〜8割の患者さんが月1回の通院を継続しているそうです。患者さんに聞くと、交通費や検査代は近所の人や家族から寄付金募って捻出しているみたいです。
医師も、お金のない患者さんの場合は、通院回数が負担にならないように、月1回を2か月に1回にしたりと配慮しているそうです。
7.ウガンダの平均収入(月収)について
教師は15〜20万シリング(約8、000円)、看護師は30万シリング(約15,000円)、主任クラスの看護師は60万シリング(約23,000円)、看護部長は90万シリング(約37,000円)医師は100万シリング(約40,000円)地方自治体職員は70〜100万シリング(約30,000〜40,000円)ほどです。
給与の未払いも多く、多数の方々が副業(農家、養豚、商店、自分のクリニック、薬局など)を行っております。貧困層では1日100円以下で生活する方も多数います。特に村落部では現金収入が非常に限られており、貧困層の割合が多いです。
外資系の会社や、輸出輸入業、政府機関に勤務している方は高額な給与をもらっており、月500〜600万シリング(約20万円)という話も聞きます。
8.現地の食事について
大量の炭水化物と、塩分が非常に高いスープが特徴です。
マトケ(甘くないバナナ)、ポショ(トウモロコシ粉を練ったもの)、イモ類、かぼちゃ、米、たまにパスタ を1つの皿に山のように盛ったものが主食です。 それに、大量の油で炒めた玉ねぎとトマトをベースにした塩味スープとロイコ(化学調味料、日本でいう味の素)を入れます。具材は牛肉・ヤギ肉・鶏肉・豆です。また、Gナッツ(ラッカセイ)をすりつぶしてペーストにしたソースを組み合わせる場合もあります。いずれにしても、信じられない位の油の量です。 これに、ソーダを飲み物として添えるのが一般的です。
ウガンダの一般的な食事。糖質・脂質が多いです!
軽食として、チャパティー(インドのナンを油っぽくしたもの)、豆サモサ、イモの素揚げ、揚げドーナツ。これに合わせる飲み物は、砂糖が大量に入った紅茶です。
果物は豊富にあります。アボカド・マンゴー、パイナップル、すいか、オレンジが一般的です。
マトケ:日本で食べるバナナのような甘さは無く、青い状態で調理して食べます
朝食は火をおこす時間がないので、軽食で済ませる事が多いです。10時ころにお茶タイムがあり、パンと紅茶でお腹をみたします。
14時ころに昼食そして、多くのウガンダ人は夕食を食べたら、すぐに寝ます。
18時ころにお茶
21〜22時に夕食
9.糖尿病にかかわらず、現地の医療事情について
公的機関は診察にかかわる経費がすべて無料となります。しかし、薬剤や医材の慢性的な不足・停電により医療機器が使えない・医療スタッフ不足などが影響し、患者サービスが充分とは言えません。ベッド数も時には過剰となり、床にゴザを敷いて入院してもらう患者さんもいます。
多くの病棟では日勤で2名、夜勤では1名の看護体制でした。1病棟40名近くの患者さんのケアをこの人数行います。点滴・採血・回診などの直接治療に関わる行為を行うので精一杯なのが現状です。そのためウガンダの場合、患者さんの日常生活援助(清潔・排泄・洗濯・食事の介助)はすべてご家族が行います。
病院食も週に1〜2回の昼食のみ(しかも不定期)、配給される病棟も限られており、すべての患者さんに食事を提供することができません。基本的には患者さんのご家族が調理や洗濯を行いますので、病院の敷地内に洗濯ものが干してあったり、炭火で調理する風景が広がります。ご家族のいない患者さんの場合は、見知らぬ他のご家族が食事を分け与えたりしています。
(左)小児科病棟 新病棟ができても、まだまだ解決すべきことは多いです
(右)看護が不足する中、患者さん家族が食事や洗濯をするため、院内の庭は「洗濯物干し場」と化します。家族のいない入院患者さんも見知らぬ他の入院患者さんの家族に助けてもらっています。物質的に貧しくても、心の豊かさは生きているのです
特に産科部門の繁忙度の高さは深刻です。助産婦1名で同時に5名の分娩を行わなければならない場面がありました。その際に分娩後出血・帝王切開のための手術室搬送・胎児仮死が同時に発生すると、命の選択を迫られるケースも経験しました。 患者待ち時間の長期化、医療スタッフの技術についても改善する必要が多くあります。
しかし、村落部のヘルスセンターではもっと劣悪な状況であり、患者さんの中には、とりあえず病院に来て診察してもらえるだけでもありがたいという気持ちの方々も多く、患者(patient)の通りひたすら耐えて待っている方々も多くいるように思います。
(左)栄養失調で入院中の子供 まだまだ医療以前に解決すべき問題も山積です
(右)最新の保育器:本来1人1台でなければなりません。アフリカの諸国では、保育器自体が不足しているケースが多々あります。また、私が勤務していた病院では、保育器の台数はあったとしても、設置スペースや電源が不足し全ての保育器を稼働できず、1台に3人押し込めるという苦肉の策で急場を凌いでいました。
私は、JICAボランティアとして、医療施設の環境整備を基礎として(整理整頓、綺麗な病院つくり)患者サービスの向上や、スタッフの技術向上のための支援を行ってきました。使ったものは元に戻すことで導線を効率化させ患者さまにスムーズな診療を提供する事、在庫切れの前に補充する習慣や意識改革と在庫切れを起こさないシステム作り、看護技術や医療機器の取り扱いの勉強会の開催、医療ゴミ分別や感染対策の啓もう活動などをスタッフとともにおこなってきました。
日本では当たり前の事がウガンダではそうではなく、赴任当初は驚きや落胆の連続でした。しかし、スタッフと1つ1つ話し合いながらゆっくりではありますが改善できた事は非常に嬉しく思っています。
現在も、スタッフから定期的に報告や相談があり、メールを通じて活動支援を行っております。このように、病院をよりよくしたいというスタッフの意識改善が図れたのも2年間の大きな成果だと思っています。
10.予算等の関係で医療事情の劇的な改善が期待できない中、どのような解決策があると思うか。
スタッフが現状の施設や材料の中で、いかに工夫をしていくかという発想をもち、常に医療サービス改善へのモチベーションを維持していく事かと思います。 例えば当院の場合は、医材廃棄率に対するスタッフの意識が非常に低く、過剰請求を繰り返しては期限切れで廃棄するケース・病棟内で薬剤がどこにあるのかわからないというケースが多くみられました。5Sの手法を用い、各部署の医材保管場所にラベルを貼りスペースを決めて整理する事で防止する対策を考えました。医材廃棄率の高い部署の現状を写真つきで病院経営陣に定期報告する事で、トップマネジメントから部署に働きかけるという事も行いました。
調剤室にて:限られた予算の中で、スタッフの意識改革は重要なポイントです!
また、医療スタッフの患者サービスに対する意識を変化させていく事も重要です。
「スタッフが少ないから患者は何時間待ってもしかたない」「待つのが嫌なら、他の病院に行くか、帰ればいい」という意識のスタッフもいます。患者さんまへの治療が遅れることは、患者さんまの身体侵襲が大きくなる事はもちろんですが、重篤になればなるほど治療も複雑困難になり、人員も時間もコストもかかり、逆に自分たちの負担を増やす事態になる事を認識してもらう必要があると考えています。
©2015 森田繰織