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海外の糖尿病事情 10 [ ミャンマー ]

2006年02月
DITN 2006年2月5日発行号掲載:「海外糖尿病事情」より
医療スタッフ向けの情報紙『DITN(DIABETES IN THE NEWS)』(発行所:メディカル・ジャーナル社)に連載された「海外糖尿病事情」よりご紹介します。
人口5,217万人(2002年)
GDP113億ドル(2000年度)
1人当たりGDP219ドル(2006年)
外務省資料より
 ミャンマー(ビルマ)といえば、まず、日本人の頭に浮かぶのは、アウン・サン・スーチーさんと「ビルマの竪琴」の舞台と言ったところでしょうか。現在でも、戦友の墓参りのために訪れる日本人は、少なくないようです。

 ミャンマーは、5つの国と国境を接しており、多民族国家であるため、食文化も多様です。今回は、同国の患者さんから聞き取りによって得られた情報を元にご報告いたします。

 入手可能な資料から見る同国の20歳から79歳までの糖尿病患者数・有病率については、
  • 2003年現在で、31万1,600人(男女別で各6万6,800人、24万2,900人)、(郡部都市別で各16万6,200人、14万5,400人)、(年齢層別で各20〜39歳7万0,800人、40〜59歳11万6,100人、60〜79歳12万4,700人)、有病率1.1%
  • 2025年予測で、55万2,200人(男女別で各13万6,000人、41万6,100人)、(郡部都市別で各29万4,500人、25万7,700人)、(年齢層別で各20〜39歳8万6,400人、40〜59歳20万1,300人、60〜79歳26万4,400人)、有病率1.3%となっています。
  • 2003年現在で、0〜14歳の1型糖尿病発病率、有病率とも0.000003%となっています。
 特徴としては、男性より女性、都市生活者より郡部の方が患者が多いという2点が挙げられますが、年齢が上がるにつれて患者数が多くなる点は、日本を始め他の国々と同様です。聞き取り調査に協力して下さった患者さんおよび家族の方々については、特に同国の政治的な事情もあり、詳細は公開できませんが、今回は全て2型の方々です。同国の医療事情については、皆保険ではなく、一部の富裕層は、民間の保険会社と契約しているそうです。ガソリン等、配給制度がある同国では、公的医療機関では安価で治療が受けられることになっていますが、実情は異なるようです。

 聞き取り調査によれば、同国の糖尿病専門医は5人しかおらず、しかも料金の高い私営の医療機関にいるとのことです。そして、特定の医療施設に常駐しているわけではなく、いくつかの医療施設で掛け持ち診療をしており、患者が事前に医療施設に連絡を入れ、予約をするシステムになっているそうです。

 医療施設でのケアを受けるためには、1回につき、平均的な月収の3割ほどの費用が必要なため、話をした患者さんのうち1人(60歳代前半・主婦)は、3年前に1回診療を受けて以来、1度も診療を受けておらず、民間療法を取り入れながら自己流で食事に気をつけているということでした。他に話をした患者さん(40歳代前半・男性・運転手)も、医療機関でのケアは受けておらず、民間療法に頼っているとのことでした。

 患者さん(40歳代後半・キリスト教会の尼僧)の話では、同じ尼僧院にいる尼僧仲間20人のうち8人までもが糖尿病を患っており、オーストラリアのインスリンフォーライフから送られた簡易血糖測定機器を共用しているとのことで、治療に関しては、民間療法を取り入れながら、糖質を減らし、野菜を中心とした自己流の食事療法を実践しているとの事でした。彼女の話では、慈善活動・布教活動のため全国に足を運ぶそうですが、糖尿病患者は非常に多く、40歳以上の8割は糖尿病と言われているということでした。

 今回、案内役をお願いしたガイドさん(30歳代前半・女性)の話でも、30歳以上の半分は糖尿病と言われているとの話もあり、行動を共にしながら、彼女自身、頻尿であると感じたため、私の個人的な感想とはなりますが、しっかりと検査をしたほうが良いのではないかと感じた次第です。

 同国でもやはり、糖尿病は存在しており、また人々も認識しているにもかかわらず、経済的事情により、適切なケアを受けることができず、民間療法に頼らざるを得ない事情が伺えます。

 今回は、医療従事者といった専門家と接触することができず、患者・その家族というレイマンの話であるため、前述の入手資料から引用したデータとあまりに開きがあり、あくまでも参考程度に留めなければならないことは確かです。

 しかしながら、街で飲食店に入ると、皆、水や茶ではなく、糖分の多い清涼飲料水を摂取しており、街角で販売されている菓子類も皆、砂糖をタップリと使用したもので、肥満体と思われる人々も少なくないことから、生活水準が向上するにつれて、“聞き取り”の通り、有病率50%・80%という数字が現実のものとなってしまう可能性を否定できないことに懸念を感じています。
©2006 森田繰織
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