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アフリカ・マラウイの糖尿病事情

2014年09月

 アフリカのマラウイ共和国で、青年海外協力隊員(以下、協力隊)として活動している栄養士の大山達也さんより、マラウイの糖尿病事情について伺いましたので、ご紹介します。

【大山達也さんのプロフィール】
1987年生まれ、北海道釧路市出身、天使大学看護栄養学部栄養学科卒。
中学生の時に聞いていたラジオで【人の体は毎日いただく食べ物が形を変えたもの】という言葉をきっかけで栄養に興味を持ち、栄養士になりました。
大学時代、国際栄養学という授業で青年海外協力隊で栄養士としての活動経験を持つ講師から話を聞いたことをきっかけに、青年海外協力隊を志しました。
大学卒業後、神奈川県にある医療法人沖縄徳洲会湘南鎌倉総合病院にて管理栄養士として2年の勤務ののち、念願叶い平成24年度4次隊としてマラウイ北部カロンガ県病院で活動しています。



1.マラウイ共和国について教えてください。

 マラウイ共和国はアフリカ南東部に位置し、隣国をザンビア、タンザニア、モザンビークに囲まれた国です。公用語は英語とチェワ語、その他多数の言語が存在します。
世界最貧国と言われることの多いマラウイですが、僕が住んでいて感じたのは【貧困=不幸】ではないということです。
 確かに村人の生活は裕福とは言えず、現金収入を持たないその日暮らしの人が多くいます。しかし、人々は明るく、僕が村へ訪問すると快く受け入れてくれ、昼食に貴重な肉を用意してくれるなど、おもてなしあふれる国です。

2.大山さんが活動されている病院について教えてください。

 僕が活動している病院はKaronga District Hospital(カロンガ県病院)で県立の病院、公的機関です。
 マラウイは各県に県立病院があり、その県の最高医療機関になります。院長は医師免許を持っていますが、県全体の医療責任者も兼任しているため多忙で患者を診ることはほぼありません。

大山さんが活動しているカロンガ県病院

3.マラウィでは、どのように糖尿病診療がおこなわれているのでしょうか?

病院での糖尿病診療については、以下のような問題があります。
  1. 1.糖尿病は血糖値(主に空腹時血糖FBS)で診断し、それ以外、血液検査の項目は測ることができない。

  2. 2.看護師の中には、HbA1cなど糖尿病に関する知識をもたない医療従事者も多く、そもそも糖尿病が主に3種類(1型、2型、妊娠糖尿病)あることを知らない。

  3. 3.食事は糖尿病食を提供しているが、おかずに油と塩を使わないもの出しているのみで、マラウイの主食であるシマ(トウモロコシの粉をお湯で練ったもの)は、特に計量することなく盛られる。

 私は定期的に糖尿病mの患者さんの自宅を訪問し、患者さんと一緒に食事を摂りながら食事療法のアドバイスを行っています。マラウイでは「主食が多く、おかずは少なめ」というのが昔からの食事スタイルで、これを患者さんに改善するよう指導をするのは難しいです。
 また、圧倒的に運動不足の人が多く、これはマラウイではスポーツを楽しむという習慣がないためではないかと考えられます。
病院ではカロリーをしっかり計算した食事を患者さんへ提供したいのですが

  1. 1.量りがないために計量できない。
  2. 2.病棟に体重計がないために患者の体重がわからない。つまりBMIや必要栄養量も判定できない。

などの理由により、栄養指導について限界を感じています。
そのため、食後のエクササイズを提案するなど工夫し、患者さんの状態に合わせて療養指導を行っています。
ただ、患者さんの殆どは裕福層なので、野菜や肉など様々な食材を購入することができることから食事のバランスが取れているのでアドバイスはしやすいですが、食事量の調節指導が難しい状況です。
 マラウイではインスリン療法も行われていますが、インスリンは他からの寄付が多くあるものの、在庫が不足することがしばしばあります。食事管理と運動療法で血糖をコントロールをしていくのが最善ですが、継続性のないマラウイ人にとって、それは難しい事なのかもしれません。

4.活動されている病院では、糖尿病の患者さんは何名ほどいらっしゃるのでしょうか?

 何事も継続しないのがマラウイの方々の欠点で、患者さんも来なくなったり、まちまちです。
毎週金曜日に糖尿病外来をやっていますが、平均30名の患者が来院しています。患者総数はわかっていません。

5.マラウィでは、1型・2型糖尿病どちらの患者さんが多いのでしょうか?

 大半が2型糖尿病だと思います。年齢や体格などでの判断ですが、たまに妊娠糖尿病と思われる方もいますが。といっても「血糖値の高い妊婦さん」(詳しい検査ができないため、糖尿病合併妊婦とは診断ができない)です。

6.糖尿病の患者さんは富裕層が多いのでしょうか?

 現地の糖尿病患者さんの特徴としては、公務員(オフィサークラス)や、家族が外資系企業に勤めているなど裕福な家庭が多いと思います。
 日々の食事に困ることはなく、アスパルテームなど人口甘味料を使う人もいます。マラウイでは人口の約90%が農業に従事しており、少し古いデータになりますが、2010年の貧困率は50.7%です。人工甘味料は中都市以上の街の薬局で購入できますが、値段は高いです。

7.他のアフリカ諸国を含め、途上国では糖尿病になった場合、経済的な事情で通院することができないことがありますが、マラウイではどうなのでしょうか?

 マラウイは診療、薬代が無料なので、お金がなくても病院にかかることができます。しかし、村に住んでいる多くの人は病院までのアクセスが悪く、交通費が払えないことなどが原因で、通院ができていないようです。
 県病院の他にヘルスセンターがいろいろな村に設置されていますが、建物もほとんど「掘っ立て小屋」に近く、医療行為が到底できないような状況のため、病気に罹った場合、村のウィッチドクター(伝統医のことで薬草を用いて治療しますが、人によっては怪しい施術をする伝統医もいます)か、交通費を工面して病院へ通院することになります。
 ちなみにマラウイでは、クリニシャン(正式な医師免許は持っていないが医療系の大学を卒業しているため医療行為が可能な者)が、ウィッチドクターからアドバイスをもらったりしているなどの話も聞いたことがあります。

8.マラウィ人の平均収入は、どれくらいなのでしょうか?

 金額はわかりませんが、私が裕福とする判断する基準は「自動車」と「家電製品」の有無です。私が訪問した患者さんの家の殆どは自動車とTV、冷蔵庫を持っています。
 ちなみにマラウイ人の家電優先順位は、1位:TV、2位:DVDまたはCDプレーヤー、3位:冷蔵庫、4位:クッカー(電磁調理器)といったところです。食糧の貯蔵よりも、今を楽しむことができるTVが優先とはなんともマラウイらしいです。
 一度、給料日に給与明細を同僚に見せてもらったことがありますが、公立病院の調理員の給料は約30,000マラウイ・クワチャ(MWK)(7,000円程度)、看護師で約60,000 MWK(14,000円程度)みたいです。
物価が異なるので基準になるかわかりませんが、マラウイでは、水500mlの値段が170MWK(40円程度)です。

9.現地の食事はどのようなものなのでしょうか?

 病院で出される患者さんの食事と医療従事者の食事の差に唖然とします。患者さんは毎日、朝食:ポリッジ、メイズ粉(トウモロコシのことです。しかし、スイートコーンと違い、甘くはありません。)のおかゆ、昼食:シマと豆、夕食:シマと野菜。ですが、医療従事者には昼食のみの提供:米と牛肉や鶏、野菜が食べられます。
患者さんには栄養のある食事が必要ということはわかっているものの、提供しないというのが現状です。なぜなら医療従事者は人数が少ないうえに給料が安く、昼食も質素ということではクリニシャンが病院を辞めてしまうため、留めておくために医療従事者には食事を豪華にする必要があるようです。

 マラウイは本当に食事のバリエーションに乏しい国です。
主食はシマか米、タンパク質となる食材は牛乳や卵、大豆が比較的安価です。肉は鶏、牛、ヤギ、豚で鶏肉が一番高価です。魚は比較的肉類より高めですが、小魚は安価でマラウイ湖周辺の村では村人も食べることができます。村人の殆どは肉を食べられないようです。野菜は主にトマト、たまねぎ、葉物、イモ類、キャベツです。食事の味付けは塩、油のみで、出汁を使うということはほとんどなく、砂糖は使いません。マラウイでは砂糖は紅茶やお菓子用に使用しています。

糖尿病患者さんの夕食。この日のメニューは米、豆、野菜で、病院で3品出ることは珍しく、また米はほとんど提供されません。この日はメイズ粉がないために米を提供したようです。普段は、メイズ粉(とうもろこし)をお湯でといて、かき混ぜたシマ(写真右の白いモノ)と豆シチュー、野菜が出されます。



 マラウイ保健省では「6 Food Group」を推奨していて、穀物、油脂、豆、肉や卵、野菜、果物というように分類されています。
「6 Food Group」とは、穀類、豆類、動物性食品類、野菜類、果物類、油脂類に分けられるもので、これらをバランスよく食べましょうとマラウイ保健省では推奨しています。
しかし現実は厳しく、農村部では動物性食品類を摂取することが難しいです。なので、タンパク源としての豆類が存在するのでしょう。

10.糖尿病に限らず、マラウイの医療事情は、どのような状態なのでしょうか?

 マラウイの医療事情はかなり悪い状況です。村人の半数近くは未だにウィッチドクターを信じています。医療設備も整っておらず病院が適切な処置を行わないため、患者さんがウィッチドクターを信仰するのも無理はないような気がします。

 以前、他の海外青年協力隊が活動する病院を視察する機会があり、マラウイ中部のカスング県病院とドーワ県病院を見学してきました。それぞれの病院の特徴をご紹介します。

(1)カスング県病院
首都リロングウェからバスで約2時間、病床数約350床。平均病院食数300食前後(昼食時)
朝食:メイズ粉のポリッジ。昼食:シマ、豆。夕食:シマ、野菜(主に葉物野菜とトマト、たまねぎの炒め煮)。
訪問当時、女性協力隊がこの病院の初代栄養士としてたった1名で活動しており、活動開始から1年が経過しました。毎週1回糖尿病患者を対象に栄養指導をしていますが、後任を要請していました。(現在、初代栄養士は帰国し、後任が来年1月に赴任予定です。)

※カロンガ県病院との違い
食材はカスング県病院の方が深刻で、メイズ粉、チャイニーズキャベツ(葉物野菜)、豆、トマトくらいしかありません。肉、ミルク、卵はなく、治療食は存在しますが提供できていないのが現状です。これはカロンガ県病院も同じです。結核の患者が病棟で隔離されており(カロンガは同じ病棟にあって、扉で仕切られているだけでした)、建物はカロンガ県病院より大きい印象でした。

(2)ドーワ県病院
首都リロングウェからバスで約1時間半の場所にあり、訪問当時の病床数約250床。
平均病院食数200食前後(昼食時)食事内容は上記のカスング県病院とほとんど変わりません。現在、協力隊の栄養士、看護師が活動中で、まだ活動開始から日が浅く、糖尿病事情は分かっていません。

※カロンガ県病院との違い
食材は豊富で、メイズ粉、米、グランドナッツ(ピーナッツ)、キャベツ、肉、粉ミルク、などがありました。患者さんが肉などを食べる機会はほとんどないようですが、ここでは、高タンパク食が提供に提供されており、病棟からのオーダーでミルクなどを提供しています。ここにも結核患者が隔離されています。

11.予算等の問題で医療事情の劇的な改善が期待できない中で、どのような解決策があるとお考えですか?

  マラウイでも糖尿病に対する関心が高まっているのを感じます。
しかし、この国での糖尿病療養指導はかなり難しい状況です。というのは、食事療法だけでも食材、調理法のバラエティに乏しいこと、新しい提案をしても受け入れようとしない国民性があるからです。栄養士としてこの国で活動を行っている中で苦労することが多々あります。
  病院での医療は薬品がすべて外部機関からの援助で成り立っており、供給が不安定であるため、今後は糖尿病の予防を中心に考えていこうと思っています。
また、現地語をもう少し話せるようになって、本当に患者さんが必要としていることをサポートしようと考えています。


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