インドのドリームトラスト会長、シャラッド・ペンデセイ先生をお迎えして 1
2006年06月
去る6月21日から25日まで、インドのドリームトラスト(Dream Trust)の会長、シャラッド・ペンデセイ先生が来日されました。札幌で「第31回日本足の外科学会」が開催され、ペンデセイ先生は糖尿病による足の病変の研究に関する教育研修講演をしました。そして講演終了後に東京の国際糖尿病支援基金にお立ち寄りいただくことになりました。
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6月24日、国際糖尿病支援基金の事務局がある株式会社創新社の会議室で、インドの糖尿病事情やドリームトラストについて、先生が作成されたCD-ROMや発表用資料を用いた形でお話していただき、その後、夕食会となりました。
国際糖尿病支援基金の運営委員に囲まれて (中央がペンデセイ先生) |
私達が支援しているドリームトラストの会員たち、つまり私達の「インドにいる子供たち」からのメッセージと写真も届けられ、すくすくと成長している姿に非常に感動した次第です。
国際糖尿病支援基金が支援しているVaibhav Patilさん(2004年当時) ドリームトラストを通じて国際糖尿病支援基金が支援している1型糖尿病患者さんの近況を伝える写真とメッセージカードもいただいたので、近いうちにご紹介します。 |
インドの2型糖尿病患者数は、現在診断されているだけで約3,800万人とされており、世界一の数を“誇り”ます。ちなみに中国・米国がこれに続きます。
1型に関しては、14歳以下の子供に関しては、10万人中4.2人で10万人中37.4人のフィンランドと比較すると少数といえますが、14歳以下はインドの総人口の36%を占めるため、近い将来増加することが予想されています。
1型糖尿病の治療に必要最低限必要なインスリンと注射器の価格は、1カ月500〜600ルピー(13〜15米ドル、日本円で1,500円〜1,700円)と日本人の感覚からすれば、とても安価(患者からすれば羨ましいほど安い!)と思われますが、平均的な月収が日本円にして1万円に満たない人々が多数を占めるドリームトラストの会員達にすれば、とても負担が重いものとなります。
説明するペンデセイ先生 CD-ROMやDVDを持参して 詳しく解説してくれました。 |
公共の医療施設へ行けばインスリンは無料ですが、在庫が常にあるわけではなく、医療施設がインスリンを手配するために走り回らなければならず、それでも十分な量を用意できるとは限りませんし、また、公共の医療施設へ行くための交通費も大きな負担となります。
ちなみに国際糖尿病支援基金が支援している1型糖尿病患者さんの1人であるVaibhav Patilさんの場合、3カ月に1度通院し、交通費が1人日本円にして1,500円(子供なので付き添いも必要なので2〜3人分)、インスリンと注射器代が月1,500円、これらの合計を単純計算しただけで年間3万円となります。その他の費用もかかりますので、フォスターペアレントと似た経済支援の年間300ドル(約3万6,000円)相当という数字が弾き出されます。
他にもオーストラリア人からの支援を受けることができるようになり、ペンデセイ先生から診断された時には、結核に感染し、痩せ細り、抵抗力も非常に弱っていた少女が今では見違えるほどに回復し、元気になっています。
もし、運悪く経済支援が受けられないとどうなるのでしょうか?
ドリームトラストの会員の場合、平均的な家庭では子供が4人います。そして、糖尿病患者に対する社会的な差別もあります。1カ月のインスリン代だけで、一家の平均月収の4分の1を占めると親御さんは、その子を厄介者と看做します。
そして、インドでは、男の子は跡取り、労働力として重宝され大事に育てられますが、女の子は大事にされません。地方都市であるナグプール周辺は、女性の自立は非常に難しく、結婚しなければ生きていくことは非常に困難です。糖尿病の治療をすることは、非常に大きな負担を強いられるため、糖尿病の女性が結婚することは非常に困難です。
年頃になっても、嫁に行けない娘に対し、将来を悲観し、所謂、行かず後家として親が面倒を見続けなければならないという懸念から、女の子が1型糖尿病となると、治療をしなければ死んでしまうことをわかっていながら、あえて治療を放棄し、死なせてしまう結果となってしまいます。
16〜18歳といった、いわゆる年頃の1型糖尿病の娘を抱える家庭では、ペンデセイ先生をはじめ、ドリームトラストのスタッフ達が巡回訪問をすることを拒むケースもあります。なぜなら、自動車すらほとんどない農村で、自動車に乗ってよそ者がやってくると非常に目立ってしまい、村人達は「何事か???」と集ってきてしまいます。すると事情を説明しなければならず、娘が糖尿病であることがバレてしまいます。
生き延びるために何とか結婚するために婚前はもちろん、結婚後も糖尿病であることを夫にも隠し続けなければなりません。やがて、妊娠し、子宝に恵まれたということで、夫をはじめ婚家の人たちが浮かれ気分であるドサクサに紛れて、実は、病院に行ったら「糖尿病だと言われた」と、つい最近発病したことにして何とか取り繕うのです。
» その2へ続く
©2006 森田繰織