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インドのドリームトラスト会長、シャラッド・ペンデセイ先生をお迎えして 2

2006年06月
 現在、ドリームトラストが支援している会員は418人を数えます。

 ドリームトラストが発足したのは、1995年になりますので、約10年の歴史を持つことになります。今から約10年前、スーダちゃんという8歳の女の子が1型糖尿病と診断され、ケトーシスも頻繁に起こしていました。彼女の父親にインスリンを打たなければ彼女が死んでしまうと、ペンデセイ先生が繰り返し、わかりやすく説明したのですが、経済的な事情で治療を止めてしまい、彼女は家で死んでいました。このことがきっかけとなり、ドリームトラストが発足することとなりました。
 (「ドリームトラストの誕生のきっかけとなった2つのショッキングな出来事」を参照)。

 当事、ペンデセイ先生がドリームトラストに関する記事を英国糖尿病協会の機関誌である「Balance」に掲載したところ、欧州で非常に大きな反響がありました。

 その後、オーストリア人の元ファッションモデルで、自らも1型糖尿病歴27年の女性がドリームトラストを訪れドイツ語で記事を書きました。ドイツ、オーストリア、スイスといったドイツ語圏からこの記事への非常に反響が大きく、現在ではこの3カ国で支援者の47%を占める結果となっています。ちなみに国別の支援者数を多い順番に並べるとインド、ドイツ、オーストリア、スイス、オーストラリア、英国、日本、フランス、南アフリカ、オランダとなっています。



 ちなみにドリームトラストの会員の子供たちの平均的なHbA1cは、8.5%で、血糖測定器が非常に高価で、特にテストチップが非常に高価なので、低血糖は身体で覚えて対処しなければなりませんし、まずは、生き延びることが先決なので、日本のように「HbA1c何%を目標」という治療目標を設定すること自体が非常に贅沢なことであると感じさせられた次第です。

 このように書くと、なにかドリームトラストは、「ただ援助を待っている」という印象を与えてしまい、現在の国際協力の流れでもある「人道支援から自立に向けた開発支援へ」という流れに逆行する印象を与えてしまうかもしれません。

 しかしながら、ドリームトラストでも自らできることは、積極的に取り組んでいます。

 その一つの例として、夏場は日中の気温が50度近くになり、電気がなく、冷蔵庫がない郡部でインスリンを保持するためにインドに古くから伝わる知恵を応用した素焼きの壷があります。
 (「わが友、糖尿病-これからの国際協力:素焼きのインスリン保冷庫」を参照)。

 この壷を作るために必要な費用は、1個につき約3ドルで済みます。しかしながら、素焼きの壷の表面に開いている非常に細かい穴が1年ほどで塞がってしまい、気化熱を上手く使えなくなってしまうため、1年ごとに新しいものを作り変えなければなりません。夏場のナグプールのような高温・低湿の場所なら使えるこの方法も夏場の日本のような高温でも湿気が多い所では、使えない代物になってしまうのです。

 はじめにインドは世界最大の2型糖尿病患者数を誇る国であることを述べましたが、このことについても質問がでました。2型糖尿病はいわゆる生活習慣病であり、過食・運動不足といった不摂生から肥満となり、それが引き金になり糖尿病の患者数が増えます。国民の大半が食べていく事すら難しいというイメージのあるインドでなぜ? という疑問がでるのは、もっともだと思います。

 以下はペンデセイ先生のお話からのご紹介です。
 インドでは、他の先進諸国が数十年かけて経済発展を遂げ、ライフスタイルの欧米化が進んだのに比べ、この10年という非常に短い期間で急激に経済発展を遂げ、ライフスタイルも欧米化が進んでいます。

 農村から現金収入・働き口を求めて都市へと皆が大挙して押し寄せ、都市部でストレスが多い生活を送り、スパイスを多く使用し栄養的に優れた伝統的な食事から安価で簡単に食べられる口当たりの良い高エネルギーのジャンクフードや菓子類で簡単に食事を済ませ、運動量も減っている状態です。これらの要因が重なり、世界一の糖尿病大国となってしまいました。

 伝統的な食事をすることができる平均的なインド人の場合、総摂取エネルギーうち60%が炭水化物からとりますが、貧困層の場合80%以上が炭水化物からの摂取となります。穀物中心の食事が一番安上がりというのが理由です。
 食事に関して少々注釈を加えると、日本にあるインド料理店では、カレー、サモサ、ケバブ、タンドーリチキンといったところが定番メニューといえるかもしれません。そのため、伝統的なインド料理というと脂肪分、炭水化物の多い食事という印象を受けるかもしれません。

 しかしながら、これを日本食に例えれば、伝統的で健康に良いとされる精進料理、懐石料理、薬膳料理は比較的高価で、経済的に余裕のある人が食べているといえます。一方で日本風のファーストフードである安価な回転寿司や立ち食い蕎麦は炭水化物に偏る傾向があります。健康維持の観点から食事のコストが下がれば栄養価も下がる傾向がみられるのは万国共通のようです。

 外国人がイメージする日本食の定番といえば寿司、すき焼き、天ぷら、とんかつといったところで、前述のインド料理の定番メニューに相当し、これらのものは、口当たりは良くても高エネルギー(特に天ぷらやとんかつ)といったところでしょうか?

 足の病変が専門のペンデセイ先生は、自らフットケアに関するDVDも制作しておられ、インド国内でも英語の話せない人たちや、文字を読めない人たちのためにアニメーションや写真を多用し、わかりやすい内容で作成しています。

ペンデセイ先生が制作したインドの患者教育用DVD

文盲の人でもフットケアについて学べるように、
アニメーションや画像を多用し、わかりやすい内容にしてあります。

 インドでは、日本のような入浴の習慣がなく、また熱帯性の気候であるため感染症も起こしやすいことから、糖尿病患者にとって足を清潔に保ち、きちんとケアすることが非常に大切なことになります。

 今回、ペンデセイ先生をお迎えして、お話を伺いながら、改めて小児特定慢性疾患制度、国民皆保険制度の下で継続的に治療を受けることのできる幸せさを感じさせられた次第です。日々の生活の中で、ストレスを感じることや不満を感じることも多々ありますが、インドの子供たちのことを考えると自分の抱える悩みは小さなものに思えてきた次第です。
©2006 森田繰織
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