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海外の糖尿病事情 6 [ ウズベキスタン ]

2005年02月
DITN 2005年1月5日発行号掲載:「海外糖尿病事情」より
医療スタッフ向けの情報紙『DITN(DIABETES IN THE NEWS)』(発行所:メディカル・ジャーナル社)に連載された「海外糖尿病事情」よりご紹介します。
 今回は、旧ソビエト連邦の一つ、中央アジアに位置するウズベキスタンの糖尿病事情についてお話させて頂きたいと思います。

 アメリカ軍がタリバン政権の掃討作戦を展開した際に、アフガニスタンに国境を接する同国がアメリカ軍に基地を提供した時、ニュースで報道された機会もあるため、ご記憶の方も多いと思います。

 旧ソ連邦の一つということで、ヨーロッパというイメージも強いかもしれませんが、地理的に中央アジアに位置し、周辺国も含めイスラム教徒が多く、アレクサンダー大王やペルシア帝国の支配を受けたこともあり、歴史的に有名な遺跡も多く、綿花栽培が盛んな国です。

 ウズベキスタンには旧ソ連時代と同じように政府によって保証された公的保険制度があり、私的な保険制度もあります。保険料は税金同様、給料から天引きで、国民皆保です。しかしながら、インフレと経済的な行き詰まりの影響で、必要な医療全てに保険が適用できないのが現状ということです。

 医療に関しては、旧ソ連時代の方が経済は安定しており、良い状態にありました。現在、旧ソ\\\\\連時代の保険制度(共産主義の下、医療は全て無料で供給されるシステム)から、ヨーロッパの国々で採り入れられているような公的“保険”制度への移行途上にあります。

 ところが、旧ソ連崩壊以降、経済状況が悪化し、それを許す状況には無く、計画通りに進んでいない状態です。将来、ヨーロッパの国々で採り入れられているような公的“保険”制度が実現する日が来ることを祈る次第ということです。

 糖尿病治療に必要なコストは、グルコメーターが(US$60〜120)、テストチップが(US$19〜50)ですが、とても高価なため全ての患者さんには行き渡りません。インスリンについては、2003年時点では、供給できたインスリンのうち政府の公的負担で賄えたのは、全体の20〜25%程度で、残りの75%の患者達は民間の保険に頼らざるを得ない状況で、また契約できる保険会社を探さなければならない状況です。

 インスリンの推定価格は、1バイアル(10m100U)US$3.5〜4.8で、日本と比べとても安価に思えますが、同国の平均収入が年収US$240前後であることを考えると決して安価とは言えないのでしょう。

 インスリン、ペン型注射器、インスリン用注射器、グルコメータチップは薬局で購入できますが、多くの患者は、経済的に入手することがとても困難な状況です。

 ウズベキスタンでは、ノボ ノルディスク、イーライリリー、ベルリンケミ、アベンティス他多くの製薬会社が進出しており、それらの会社から、インスリン、ペン型インスリン・注射器、注射器が人道援助という形で、一部ながら寄贈されています。ノボ ノルディスクから2001年に子供達にインスリンが寄贈され、またノボ ノルディスクとイーライリリーからは、定期的な寄贈もあります。しかしながら、これらの寄贈だけでウズベキスタン全体で必要なインスリンを賄うことは不可能で、また、いつも寄贈が受けられるわけではありません。

 同国の法律では、人道援助物資に関しては無税ですが、インスリンについては、無税となる種類が決められています。外国から援助を受ける際、税関を通るまでに通常2〜3週間かかります。そして、子供を中心として、必要性が高いながらも経済的に入手が難しい人を優先して分配されるということです。

 同国の糖尿病患者数は1型・2型とも年々増加しており、とある保健省の内分泌医のデータでは、2003年現在で総糖尿病患者数は84,323人となっています。内訳で見ると、成人が83,582人、未成年者741人。19%に当たる16,072人が1型、81%に当たる68,251人が2型です。

 有病率2.1%。2003年の新規診断者数は2,882人で年間伸び率3.4%。2003年の糖尿病による死亡者は、3,903人全死亡者のうち4.81%。2003年に政府の公的保険で供給できたインスリンは、全必要量の24%足らずで、血糖降下薬は20.1%足らずです。我々は全インスリン必要量753,792本のうち180,726本しか調達できませんでした。

 自由は制限されるものの旧ソ連時代の方が経済が安定し、医療の面では良かったという声が聞かれました。また同国の糖尿病協会に当たる組織も民族的・宗教的な背景が事情にあり、一つではありませんが旧ソ\\\\\連時代のお陰で、ロシア語という共通語があります。賛否両論色々な意見があることは承知していますが、前回のキューバの事情と同様、共産主義・独裁主義体制の理想と現実について改めて考えさせられました。

 経済的な混乱は、しばらく続きそうですが、今回、話してくださった同国の糖尿病専門医(政治的な言及もあるので、特定できる内容は避けさせていただきます)が経済的に恵まれない患者達に治療が行き渡るように懸命に努力している姿に同国の糖尿病治療の明るい未来を感じた次第です。
©2005 森田繰織
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