海外の糖尿病事情 2 [インド・バングラデシュ]
DITN 2004年9月5日発行号掲載:「海外糖尿病事情」より
医療スタッフ向けの情報紙『DITN(DIABETES IN THE NEWS)』(発行所:メディカル・ジャーナル社)に連載された「海外糖尿病事情」よりご紹介します。
インド・バングラデシュ
lT時代、グローバリゼーションの時代と言われ、数学・英語教育に定評のあるインドという国が注目されていますが、経済発展と共に糖尿病患者が激増し、同国の経済格差の拡大に伴い、糖尿病治療事情についても“格差”により、恩恵を受けられない人々が存在していることを知ることとなりました。
入手可能な資料によれぱ、同国の人口の約40%は絶対貧困者と言われる1日1ドル以下の生活水準を、約45%は貧困者とされる1日2ドル以下の生活水準を余儀なくされている人々と言われています。日本のような国民皆保という状態では、ないため、医療については全て自己負担が原則です。同国で貧困層の1型糖尿病患者を支援している医師の話では、外国からの援助や政府が支援している公的な医療機関もあるにはあるのですが、数に限りがあり、全国民がその恩恵を被ることは不可能とのことです。同国の年間の平均的な糖尿病治療費用は、インスリンを必要とする場合で180ドル〜350ドル、インスリンを必要としない場合で約70ドル前後とされています。インスリンを必要とする場合、貧困層では収入の半分から全てに相当することになります。そのような事情下で、国民の大半を占める貧困層の学童期の児童が発病すると、学校を中退し、自ら治療費を稼ぐために働かなければならず、また伝統的に男児を優先して育てる傾向があり、女児が発病した場合、親が治療そのものを放棄してしまい死に至るケースも稀ではないということです。
因みに、隣国のバングラデシュでは、無料の医療施設に行くためのバス代が払えず、治療を受けることができない人々が多数おり、それら施設医療職員が平然と賄賂を要求してくる事実もあります。富裕層出身者が大半を占める医療関係者と貧困層の患者との認識の違いも間題だと思います。イスラム教徒が多い同国では、一部の富裕層を除き、女性は男性の食べ残ししか食事にありつけず、栄養失調のため1型糖尿病を発病するという記事もあります。女性は夫や父親の承諾がなければ医療機関へ行くことも許されず、糖尿病を発病すると、一族の厄介者扱いをされ、捨てられてしまう事実もあります。女性の自立が大変難しい同国では、運良く特別な施設に入ることができなければ、死を意味します。
同国の労働者の平均日当は0.4ドル程度。インスリンが必要な年間の平均的治療費用は約240ドル、インスリンを必要としない場合でも約13ドルとされています。インスリンを必要とする場合、平均的な労働者では収入を上回る出費を余儀なくされるため、運よく公的援助が受けられなければ、生存自体が不可能と言えます。
※インドの実情についてはドリームトラストのホームページ(http://www.dreamtrust.org/)をご覧ください。ドリームトラストとは経済的に困難な状況にある1型糖尿病の子供たちを支援するために活動するインドの団体で、国際糖尿病支援基金ではトラストの活動を支援しています。
©2004 森田繰織