第1回「CSII療法のあり方を考える」
3. 聖マリアンナ医科大学でのポンプ導入
2週間の入院で治療準備と手技をマスター
当科は入院による導入が基本です。順天堂大学時代には一部の症例は外来で導入していましたが、それにはスタッフと医師の時間、指導場所の確保など条件を揃えるのが必須です。当科では入院すると、24時間ホルター心電図のパワースペクトル解析を行って、心臓自律神経(交感神経・副交感神経)の時間的な活動度を評価しています。これに基づいて、持続注入量の切り替え時刻を決めています。夜間に交感神経の活動が低下してくる時刻と明け方に上昇してくる時刻を求め、その時刻に合わせて深夜の持続注入量の低下と明け方の増量を行っています。また自己血糖測定とCGMでの血糖変動の評価、朝絶食と昼遅食による絶食試験の結果を踏まえて持続注入と追加注入の設定を行っています。入院はおおむね2週間前後で、退院後は自宅でのライフスケジュールに合わせてさらに調節を行います。
自律神経検査はなぜ有用なのか
そもそもCSII導入時に心臓自律神経の解析を行うに至ったのは、1日中のインスリン拮抗ホルモンの変動と自律神経の変動が同期しているかを検討することが始まりでした。インスリン持続注入を最も低下させる時間帯=拮抗ホルモンが最も低値の時間帯=交感神経活動が最も低下している時間帯、と仮説を立てました。そこで1型糖尿病の患者さんにご協力頂いて、24時間のホルター心電図検査と同時に静脈内留置カテーテルから1時間ごとの採血を行って各種ホルモンの測定結果と突き合わせたところ、交感神経活動の低下と立ち上がりの時刻がカテコラミンとコルチゾールの変化とほぼ同期していること、副交感神経の立ち上がりと低下の時刻にはメラトニンとグレリンの変動がほぼ同期していることが分かりました。この結果は2006年の米国糖尿病学会で発表しました。
以来、自律神経の解析結果に基づいてCSIIの持続注入速度の切り替え時刻を設定しています。これまでの結果から交感神経の立ち上がりは午前3〜4時、遅い方で5時頃です。また低下はおおむね午後7〜8時頃が多い印象です。当科ではこの検査に特化したアクティブトレーサーという専用レコーダーと専用の解析ソフトを使用していますが、保険適用ではありません。従って、このような評価がCSIIの導入に必須というわけではなく、切り替え時刻と注入量についてはおおまかな時刻と量を設定してからトライ&エラーで調節していけばよいと思います。
私のような者には少し時間がかかります。しかしスマホを使い慣れている若い方は簡単に使いこなせると思います。CSIIがうまく行くかどうかのポイントはインスリン注入の時間や量の調節にあり、使い方に関する障壁はそれほどありません。病棟主治医は入院中にある程度の血糖改善の目途をつけたいと考え、いろいろ調節を行いますが、そうなると入院期間が延びてしまいます。入院中は使い方を習熟してもらうこと、夜中の低血糖回避と朝方の高血糖改善、1日を通して血糖変動の大きな凸凹をなくすこと、など最低限のポイントを中心に考えるべきです。退院すれば入院中とは異なるライフスケジュールになるわけですから、外来でさらに調節していけばよいと思います。
病棟の主治医と糖尿病療養指導士の資格を取得している看護師が中心になります。勿論、病棟担当の栄養士と薬剤師も加わります。大学病院では多職種のスタッフが協力して多面的なアドバイスが行えることが強みでしょうか。
2015年08月 公開