インスリンポンプ・CGM情報ファイル

インスリンポンプ・CGM情報ファイル

インスリンポンプ、CGMセンサ使用時の肌トラブル対策

執筆:坂本かず美
東京医科大学茨城医療センター東6階病棟 看護主任
皮膚・排泄ケア特定認定看護師

 近年、インスリンポンプやCGM(持続血糖モニタリング)を利用することで、血糖測定やインスリン注入を行うための時間、場所を気にすることなく生活できるようになりました。その一方、装着する機器を体に固定するためのテープで、たびたびかぶれるなどの肌トラブルが起きることがあります。インスリンポンプやCGMを、できるだけ快適に使い続けていただけるよう、肌トラブルの予防についてお話していきます。

*紹介する方法はインスリン処方を受けている病院の医師または看護師と相談の上、行いましょう。
*紹介する製品や方法は選択肢の一つであり、効果には個人差があります。


肌トラブルが起こるのはなぜ?

原因1医療用テープによる「ムレ」

 インスリンポンプやCGMの機器は、体にしっかり固定していないと、着替えや物にぶつかるなどの小さな力でも簡単に外れてしまいがちです。機器の固定には医療用テープが使われますが、これが肌トラブルの原因になることがあります。

 健康な皮膚の表面は、組織が一糸乱れることなく整列し、強く結合しています。また、汗とともに分泌される皮脂に適度に覆われ、それがバリア機能の役目を果たしています。そのおかげで細菌の繁殖が抑えられ、化学物質の侵入を防ぐことができ、体内の組織が守られています。

 ところが医療用テープを体に貼ると、汗がスムーズに蒸発せず、皮膚表面の水分が過剰となりムレてふやけていきます(写真1)。その結果、皮膚のバリア機能が失われ、表面の組織の配列が乱れます。そして抵抗力が低下し、むけやすくなったり、細菌が繁殖したり、皮膚内部へ化学物質が侵入しやすくなってしまいます(写真2)。

 これを防ぐため、大量に汗をかいた時は医療用テープを貼り替えることが有効です。貼り替えることにより、汗で弱まった粘着力が解消されると同時に、医療用テープの内側で細菌が繁殖して感染症を起こす可能性が少なくなります。また、汗を微量ずつ蒸散してくれるフィルムドレッシングを使う対策もおすすめです(後述)。

 インスリンポンプ、CGMともに定期的な交換日に医療用テープも貼り替えることになりますが、CGMはインスリンポンプに比べて定期交換の頻度が少ないため、最低でも1週間に1度は貼り替えることをおすすめします。ただ、貼り替え回数が多すぎると逆に肌トラブルの要因になりますので、定期的な交換日以外の貼り替え回数が多くなる場合には、貼り替え頻度についてかかりつけ医または看護師に相談しましょう。

写真1:ふやけた皮膚の例
写真1:ふやけた皮膚の例
写真2:弱くなった皮膚の例
写真2:弱くなった皮膚の例

原因2医療用テープの「適切でない貼り方・剥がし方」

 健康な皮膚であっても、テープを剥がすときに角質が一緒に剥がれます。これがくり返されることで皮膚が薄くなり、痛み・赤みが見られやすくなります。さらに、同じ場所で剥離をくり返したり、勢いよく剥がしたりすると皮膚がむけてしまうことがあります(写真3)。インスリンポンプの針やCGMセンサは、付け替えのたびに装着位置を変え、剥がすときはゆっくり丁寧に剥がすことを心がけましょう。

 また、医療用テープを貼る際に、テープを引き伸ばして貼ることで力がかかり水ぶくれができることがあります(写真4)。そのため、貼るときはテープを引き伸ばさず、かつ、しわにならないように、手を優しく添えながら中央から外側に向かって丁寧に貼る必要があります。

写真3:皮膚がむけた例
写真3:皮膚がむけた例
写真4:水ぶくれの例
写真4:水ぶくれの例

原因3医療用テープによる「炎症」「アレルギー症状」

 医療用テープの粘着成分が皮膚に浸透することで刺激となり、炎症やアレルギー反応などの皮膚炎(写真5)を起こすことがあります。この場合、テープの貼付面と同じ形の水ぶくれや赤み、かゆみを伴います。

写真5:アレルギー反応の例
写真5:アレルギー反応の例

肌を正しく「洗浄」「保湿」「保護」しましょう

 インスリンポンプの使用中に起こる肌トラブルは、インスリンポンプを固定する医療用テープによる「ムレ」「適切でない貼り方・剥がし方」「粘着剤が肌質と合わない(アレルギー反応)」などで生じますが、間違ったスキンケアや乾燥でより症状が出やすくなります。肌トラブルを防ぐためには、肌を正しく「1.洗浄」「2.保湿」「3.保護」することが大切です。

1 洗浄

 まずは、垢や余分な皮脂、医療用テープの粘着剤などの肌表面に残っている汚れを洗い流します。いつも医療用テープを貼っているところは、ほかの部分より皮膚が薄くなったり、刺激を受けて傷つきやすくなっている可能性があるため、かたい素材で強くゴシゴシと洗うのではなく、肌よりやわらかい素材に洗浄剤を含ませて十分泡立てて洗うか、泡のみで優しく洗いましょう。

洗浄のポイント

  1. 皮膚の状態にあった洗浄剤を選ぶ(さっぱり系、しっとり系、弱酸性など)
  2. 洗浄剤の使用量を守る
  3. 十分に泡立てる
  4. 肌を過度にこすらない
  5. 洗浄剤が残らないように十分にすすぐ

2 保湿

 皮膚のバリア機能を維持し、乾燥から守るために保湿剤を塗ります。入浴後 (洗浄後) 10分以内に塗るのが基本で、1日2回保湿するとより効果的です。量は、肌がかろうじて光る程度、ティッシュペーパーが付着するくらいの量が適切です (季節によって必要量は変化します)。

 保湿剤は、使用して湿疹などの皮膚障害が起きないものを大前提に、使用感も含めて自分の肌タイプに合ったもの(乾燥肌向け、敏感肌向け、無香料、無添加など)を選びましょう。保湿により医療用テープの貼りにくさが気になる場合は、保湿剤を塗っても肌に貼りやすい保湿ローションを使うことをおすすめします。

塗った後も医療用テープを貼りやすい保湿剤の例
(※下記商品名をクリックすると外部の商品詳細ページにリンクします)

3 保護

 医療用テープを貼る際に正しく貼ることが肌を保護し、肌トラブル予防につながります。また、テープを剥がす際も、肌を傷めないよう丁寧に剥がすことで剥離トラブルは最小限に抑えることができます。


正しいテープの貼り方・剥がし方

 ここでは、医療用テープの正しい貼り方と剥がし方を紹介します。インスリンポンプの注入セットやCGMセンサのテープを貼る際、剥がす際は、次のポイントに注意することで肌トラブルが起こりにくくなります。よくある間違った貼り方として、あらかじめテープをカットせずにテープの片方の端を肌に貼り、そのまま引き伸ばしてもう片方の端まで貼っている場合があります。これを続けると肌に力がかかって刺激となり、水ぶくれなどの皮膚障害の原因になるため、こうした貼り方は避けてください。

貼り方のポイント

  1. なるべくシワが入らないように貼る
  2. 指の腹で皮膚やチューブに優しく圧着する
  3. テープをあらかじめカットしたうえで、テープを引き伸ばさずに、機器に沿って中央部から貼る
テープの貼り方のポイント

剥がし方のポイント

  1. テープを180度折り返す
  2. 皮膚が持ち上がらないように手で押さえながら、ゆっくりと剥がす
  3. より優しく剥がすためには、「剥離剤」を肌とテープの隙間にしみ込ませるようにたらし、テープを折り返しながら剥がす(写真6)
剥がし方のポイント
写真6:剥離剤を使う場合
写真6:剥離剤を使う場合

剥離剤を使用すると医療用テープの剥離刺激を軽減できます。インスリンポンプまたはCGMの機器を外してから、少しだけ剥がした固定用テープと皮膚の間に、剥離剤を多めにたらしながら徐々にテープを剥がしていきます。剥離剤をたらす際にボトルの口を肌につけないように注意しましょう。


肌の保護を強化しましょう~機器装着時の工夫~

 インスリン注入を行う際に、いつも同じ部位に注入しないほうがいいことはご存じでしょうか? 同じところにばかり注入していると、皮膚中に塊ができ、インスリンの効果が得にくくなります。また、前述のとおり、同じ場所で医療用テープを貼ったり剥がしたりをくり返すことで皮膚がむけやすくなります。肌トラブル予防のため、インスリンポンプの注入セットやCGMセンサは付け替えるたびに装着位置を変え、それでも肌トラブルを起こしやすい場合には、被膜剤やフィルムドレッシング材(後述)を利用するなど、肌の保護を強化することを検討してください。

保護強化のコツ1 被膜剤の塗布

 テープ(インスリンポンプやCGMの機器に付属しているテープ、固定用の医療テープ)の刺激から肌を保護するためには、テープが肌に直接触れないようにする対策が有効です。「被膜剤」には、肌とテープの間に薄い保護膜を作り、テープの粘着成分が直接肌に触れるのを妨ぐ機能があります。テープを貼る前に塗布することでかぶれやかゆみといった肌トラブルの発生を抑えられます。被膜剤を塗った上からテープを貼っても、テープの粘着力は落ちません。

インスリンポンプ使用時の場合:被膜剤の塗り方

  1. 装着する箇所より少し広めの範囲を、中心から外に向かってアルコール綿で消毒ししっかり乾燥させる(2回ほどくり返す)
  2. 針を刺す部位に被膜剤が触れないように針を刺す箇所をアルコール綿で押さえ、アルコール消毒した範囲に被膜剤を塗布する(写真)。 その後、しっかり乾燥させる
  3. アルコール綿で押さえていたところに注入セットの針がくるように挿入補助具の位置を合わせて(または手で)カニューレ(インスリン注入口)を装着する
  4. 固定用テープを貼る
スプレータイプの被膜剤
スプレータイプの被膜剤
スティックタイプの被膜剤
スティックタイプの被膜剤

CGM使用時の場合:被膜剤の塗り方

  1. 装着する箇所より少し広めの範囲を、中心から外に向かってアルコール綿で消毒ししっかり乾燥させる (2回ほどくり返す)
  2. CGMセンサのニードルを挿入し、ニードルハブ(装着器具)を抜く。ここではまだ剥離紙は剥がさないようにする
  3. CGMセンサが抜けないようにセンサベースを指で押さえ、持ち上げながら被膜剤を塗布する(写真)。後から貼る固定用テープの範囲より広く塗ることがポイント。その後、しっかり乾燥させる
  4. 被膜剤が乾いたら、剥離紙を剥がしてセンサを肌に貼り付け、さらに上から固定用テープを貼る
スティックタイプで塗る場合
スティックタイプで塗る場合
CGMセンサの頭頂部や側面にも塗布する。

保護強化のコツ2 フィルムドレッシング材を下貼りする

 テープが肌に直接触れないようにする方法として、機器を装着する前にフィルムドレッシング材を下貼りしておく方法もあります。フィルムドレッシング材とは、傷口や点滴部位などを覆って保護するための透明な薄いフィルム状の医療用テープのことで、水蒸気透過性があります。一般に薬局やドラッグストア、インターネットで購入できますが、もし購入先がわからない場合には、かかりつけの病院に相談しましょう。

フィルムドレッシング材の下貼り方法(インスリンポンプ)

  1. 装着する箇所より少し広めの範囲を中心から外に向かってアルコール綿で消毒ししっかり乾燥させる (2回ほどくり返す)
  2. フィルムドレッシング材を半分に折り、中心部分にVの字の切り込みを入れる(※フィルムドレッシング材にはカットタイプやロールタイプがありますが、ここではカットタイプを使用)。切り込みを入れた部分が注入セットの穿刺(針を刺す)部分になるよう、フィルムドレッシングを貼る(写真)
  3. 切り込みを入れた箇所に穿刺できるよう、挿入補助具をあてて(または手で)装着する
切り込みを入れる
切り込みを入れる
肌に貼る
肌に貼る

保護強化のコツ3 通常の医療用テープをフィルムドレッシング材に変える

 機器が体から簡単に外れないよう固定するにあたり、通常の医療用テープの代わりにフィルムドレッシング材を使うと肌トラブルが起こりにくくなる可能性があります。フィルムドレッシング材は、湿気を逃がしムレにくい、薄くて端部から剥がれにくいなどのメリットがあります。フィルムドレッシングで機器全体を覆うように貼り付けることにより、確実に機器を固定しながら、肌への負担を減らすことができます。

固定方法(CGM)

  1. CGMセンサを装着する。フィルムドレッシング材は少し長めに切っておく
  2. テープの両端を持ち、空気を抜いてシワができないように貼る
フィルムドレッシングの貼付
フィルムドレッシングの貼付

まとめ

 洗浄や保湿は、毎日継続することが肝心です。続けることが可能なご自身に合った洗浄剤と保湿剤を選び、正しい方法で実践してください。また、医療用テープの貼り方や剥がし方、肌の保護に配慮することも大切です。こうしたことが肌トラブルを未然に防ぐことにつながります。インスリンポンプによる治療をストレスなく長期間継続できるよう、1年を通して肌を健やかに保っていきましょう。

インスリンポンプ情報.jp
1型ライフ

取り扱い病院検索