日本だけでも年間2万人以上が感染する結核。専門家は「結核は世界的に増えており、糖尿病の人は、特に結核に注意が必要です」と警笛を鳴らしている。
結核を「過去の病気」と侮ってはならない
結核は1950まで日本の死亡原因の第1位だった。適切な治療法が開発されてからは、患者数は一時期を除いて減少し、「結核の流行は終わった」といわれるくらいになった。
しかし、今でも年間2万人以上の新しい患者が発生し、年間で2,000人以上の人が命を落としている。
日本の2013年時点の人口10万人に対する新規患者数(罹患率)は16人で、米国の5倍に上る。さらに世界に目をむけると、年間に860万人が結核に罹患し、130万人が死亡している。
若い世代で結核に対する抵抗力(免疫)をもたない人々が増えたこと、診断の遅れなどによる集団感染・院内感染が増加している。
高齢者では、結核が蔓延していた若い頃に感染し、休眠状態にあった結核菌が、免疫力の衰えや糖尿病などにより活発化し、発病するケースが増えている。
特に糖尿病の人が血糖コントロールが悪い状態が続くと、細菌などに対する抵抗力が弱まり、ひどい感染性を起こす危険性が増す。
さらに、細菌などに感染するとインスリンを効きにくくする物質(サイトカインなど)が多くなり、血糖値は高くなりやすい。このことが糖尿病の状態をより悪くし、感染症をさらに進行させてしまうという悪循環が生まれる。
糖尿病の人は結核を発症する危険性が3倍に上昇
糖尿病の人にとって、結核の脅威は今後ますます拡大するという報告が、医学誌「ランセット」に発表された。「糖尿病の人は、結核を発症しやすく、発症すると重症化しやすい」と警笛を鳴らしている。
「糖尿病の有病数は、全世界で2035年までに5億9,200万に増えると予測されています。糖尿病と結核を合併する患者の数も増えていくと予想されます」と、世界保健機関(WHO)の結核グローバルプログラムのノット ロンロート氏は言う。
「糖尿病の人は、結核を発症する危険性が3倍に上昇し、結核を発症する可能性は4倍高く、死亡率も2倍に上昇します。糖尿病の人が結核に対するケアを受けられるよう、医療体制を整備する必要があります」としている。
世界の結核の感染数の多い上位22ヵ国では、糖尿病も過去3年間で52%増加している。そのため、結核を発症した患者のうち糖尿病を合併している割合は、10%(2010年)から15%(2013年)に増加したとみられている。
結核を発症する患者数は、2035年までに3〜8%増加すると予測されているが、糖尿病の有病数の多い国では、これよりも高い数値で推移する可能性がある。
しかし、血糖コントロールを改善し、結核菌をもっている人の発症を抑えることができれば、結核の発症は15%以上減らせるという。
WHOは、結核の患者数を2035年までに現在に比べて90%に減らすことを目標に活動をしている。「これを達成するために、糖尿病と結核の多い国で、両方の病気を適確に診断して治療する体制を整備する必要があります」
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結核の予防策は良好な血糖コントロール
結核菌が体内に潜んでいる人が、体の抵抗力が落ちると、潜んでいた菌が活動を始め結核を発病する。
高齢者では、せきやたんなどの典型的な症状があらわれないケースも多い。微熱や体重減少、食欲減退も結核の兆候だ。発見の遅れは、重症化や感染の拡大につながる。
予防の基本は、血糖コントロールを改善し、免疫力を高めておくことだ。それに加えて、できるだけ健康的な生活を維持し、細菌に対する抵抗力をつけておくと効果的だ。
健康的な生活とは、栄養バランスの良い食事をとることと。体をよく動かすこと。運動により血流がよくなると、細胞の修復機能が高まり、抵抗力が強くなる。
加えて、咳や痰が2週間以上続く、倦怠感が続く、急にやせ衰えるなど、結核の初期症状が現れたら、早めに医療機関で受診することが重要となる。
[ Terahata ]