肥満は世界中で健康をおびやかす大きな課題となっている。50ヵ国の研究者約500人が参加して行われた研究によると、肥満の脅威はいまや飢えや感染症を上回っているという。この研究は、英国の医学雑誌「ランセット」に発表された。
50ヵ国の研究者約500人が参加し、「世界調査レポート:疾病がもたらす脅威」と題された研究がまとめられた。1990年から2010年までの健診データを比較し、世界の人々の健康状態の傾向に大きな変化が起こっていることを発見した。
調査によると、肥満は世界中で増えており、1980年に比べ2倍に増えた。世界の15億人以上が太り過ぎか肥満で、男性のほぼ10%と女性の14%に相当するという。肥満者の数は5億人を超えており、男性は3億人以上、女性は2億人以上が肥満だ。肥満は有効な対策を施さないと、2030年までに10億人以上に増えるとみられている。
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以前は、肥満は欧米の富裕国で増えているとみられていた。しかし、グローバリゼーションが進行し、途上国にも食料が十分行き渡るようになった結果、肥満は広い範囲で爆発的に増えている。多くの途上国で、摂取カロリーを抑えた伝統的な食事スタイルが失われ、高脂肪・高カロリーの欧米式の食事スタイルが定着してきたことや、運動不足が原因として挙げられる。
肥満は、アフリカ地区の一部の国を除くほぼ全世界で増加を続けている。肥満は経済成長の著しい国で特に多く、中東諸国ではこの20年で2倍に増えた。肥満者の割合が30%を超える国は、米国、ベネズエラ、サウジアラビア、シリア・アラブ、南アフリカ、エジプト、リビア、20%を超える国は、カナダ、ロシア、カザフスタン、オマーン、フランス・イタリアを除く欧州諸国、オーストラリア、アルゼンチン、チリなどだ。
同じ途上国の中でも、栄養摂取の格差が生まれている。欧米式の食事スタイルが定着した地域では肥満が増え、栄養不足が慢性化している地域では感染症が依然として多いという現象が現れている。肥満と栄養不足の二重苦に悩まされている国は少なくないという。
医療が進歩したために、平均寿命が世界的に延びていることも、一因として挙げられている。平均寿命は1990年に比べ、男性は10.7年、女性は12.6年延びた。「感染症で命を落とす子供の数は、予防接種が普及したおかげで世界的に減少している。感染症への対策が世界的に行き届いたことが、寿命の延長につなかった」と研究を主導した米ワシントン大学のアリー モクダッド教授は話す。
しかし、「人生を終えるときまで平均14年間を高血圧症や糖尿病などの慢性疾患を抱えて過ごしており、延びた分の人生における生活の質は決して高くはない」(モクダッド教授)という。
肥満が影響する糖尿病や脳卒中、心疾患などの疾患は、長期的な疾患やけがの主要な原因となっている。欧米諸国では、心疾患で死亡する人は減少しているが、心疾患と診断される人の数は驚異的ペースで増加している。
世界保健機関(WHO)は、不健康な食事や運動不足、喫煙、過度の飲酒などの原因が共通しており、生活習慣の改善により予防可能な疾患をまとめて「非感染性疾患(NCD)」と位置付けている。心血管疾患、がん、糖尿病などが主なNCDだ。
米ハーバード大学などの研究によると、今後20年間でNCDにより30兆ドル(約2500兆円)の費用負担が生じ、何百万人もの人を貧困に追いやりかねないことが懸念されている。
Age‐specific and sex‐specific mortality in 187 countries, 1970?2010: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2010(ワシントン大学)
[ Terahata ]