採血のための穿刺器具の取り扱いについて
島根県で血糖自己測定を行うときの微量採血に使用する穿刺器具の穿刺針を使い回した事例が発覚し、その後、各地で、穿刺針を交換していたが穿刺器具(針の周辺部分がディスポーザブルタイプでないもの)の複数患者による使用が発覚しました。日本糖尿病学会などは、穿刺器具の適正な取り扱いについて注意を呼びかけています。
針を除く穿刺器具本体の複数者使用によりB型肝炎などの感染症の発生が認められた事例は、日本では報告されていません。
針を除く穿刺器具本体の複数者使用によりB型肝炎などの感染症の発生が認められた事例は、日本では報告されていません。
2008年8月14日更新
穿刺器具の複数使用が発覚、厚労省が調査開始2008年5月21日に島根県の診療所で、複数の患者に採血用の穿刺針を使い回していたことがあきらかになりました。医療スタッフが器具の使い方を誤認しており、結果として同じ穿刺針を「使い回し」してしまったということです。県の発表1によると針を交換しないで検査を行った事例はこの1件だけでした。
この事例では穿刺器具のうち「針の周辺部分がディスポーザブルでないもの」を複数使用していたことも発覚しました。このタイプは、針は交換が必要ですが、針の周辺は交換しないで使用することができます。いずれも複数者使用が禁止されている個人用の採血用穿刺器具です。
(参考)採血用穿刺器具
厚生労働省公表資料より
厚生労働省はこれを重くみて、5月22日付で都道府県に向けて「採血用穿刺器具(針の周辺部分がディスポーザブルタイプでないもの)の取扱いについて」とする文書2で注意を喚起し、全国の病院、診療所、地方公共団体が実施している健康教育などの事業を対象に調査を指示しました。6月6日に調査の対象器具を30品目に増やし、報告締切を6月30日としました。厚生労働省公表資料
厚労省はこれ以前の2006年3月に、このタイプを複数患者に使わないよう注意を促す通知3を、都道府県や医療関係団体に出していました4。理由となったのは、「針」を交換しても「針周辺部分」に付着する血液からの肝炎などの感染の可能性を完全に否定できないことです。
医薬品医療機器総合機構は6月27日に「医療安全情報」を出し、あらためて穿刺器具の使用で注意するポイントをまとめ公表しました5。
日本糖尿病学会(門脇孝 理事長)は、6月15日に『微量採血のための穿刺器具の取り扱いについて』という文書を公表し、また、日本糖尿病協会(清野裕 理事長)は『血糖自己測定のための穿刺器具の取り扱いについてのお願い』を
1万1753施設で複数使用
8月6日、厚生労働省は全国調査の結果を発表しました。針の周辺部分がディスポーザブルタイプでないもの穿刺器具を複数使用していた病院、診療所などは、合わせて1万1753施設に上ることが分かりました。該当する器具はすでに製造販売されていない製品を含め37品目に増えました。
また、島根県益田市と広島市の診療所、松山市の看護専門学校の3ヵ所で、穿刺器具の針を交換せずに複数使用していたこともあきらかになりました。
厚労省は、医療機関の名称や器具の使用時期などを含め、調査結果をホームページで公開し、あわせて穿刺器具の取扱いについてQ&A形式で解説した一般向け、保健医療関係者向けのコーナーをそれぞれ開設しました6。
穿刺器具の複数者使用によりB型肝炎などの感染症の発生が認められた事例は報告されていません。
日本感染症学会、日本化学療法学会、日本環境感染学会、日本臨床微生物学会の4学会は、穿刺器を使うときには末端キャップを押し付けて穿刺した後にすぐに器具を離すので、「血液で汚染される危険は極めて少ない」と見解を発表し、穿刺針を交換して、さらに穿刺針の周辺部位を消毒して使用した場合には、「感染の
表 針を交換していたが器具を複数使用していた施設
厚生労働省の2008年8月8日の発表に
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- 厚生労働省の行った全国調査では、穿刺器具の針を交換していたが器具を複数使用していた比率は、病院に比べ診療所で少ない結果になりました。また、都道府県や市町村、介護施設などが実施した健康催事など保健事業での複数使用が少なくないことも示されました。
- 血糖自己測定(SMBG)を行う目的として、糖尿病患者の血糖の変動幅や変動パターンの情報を医師が得ることで、厳密な血糖コントロールが可能になることが挙げられます。また、簡易血糖測定器は精密につくられており、その
性能 は血糖コントロールの指標として血糖値をはかるには十分ですが、医療機関のより精密な測定機の性能 には及びません。
糖尿病患者がSMBGを行う場合、穿刺器具の使用を患者個人に限り複数使用をしないこと、一度使用した穿刺針を再使用しないことを原則とする指導が行われています。
1 | 島根県の発表 |
2 | 厚生労働省の報道発表資料(2008年5月27日) |
3 | 採血用穿刺器具(針の周辺部分がディスポーザブルタイプでないもの)の取扱いについて(2006年3月3日) |
4 |
厚生労働省「採血用穿刺器具(針の周辺部分がディスポーザブルタイプでないもの)の取扱いについて」(2006年3月3日)
(1) 製造販売業者は、この器具の添付文書の記載を統一し、禁忌・禁止の項に「個人の使用に限り、複数の患者に使用しないこと。」と記載すること。
(2) 製造販売業者は、出荷前にこの器具に「複数患者使用不可」のシールを貼付するとともに、既に納入済みの製品であって、まだシールが
(3) 医療機関等は、この器具を複数の患者に使用しないよう特段の注意をはらうこと。
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5 |
医薬品医療機器総合機構 医療安全情報「PMDA医療安全情報」 微量採血のための穿刺器具の取扱いについて(2008年6月27日) |
6 | 厚生労働省「微量採血のための穿刺器具(針の周辺部分がディスポーザブルタイプでないもの)の取扱いに関する調査結果について」(2008年8月8日) |
7 |
日本感染症学会、日本化学療法学会、日本環境感染学会、日本臨床微生物学会 「微量採血用穿刺器具の取り扱いに関する見解」(2008年7月18日) |
厚生労働省が公表した資料
微量採血のための穿刺器具(針の周辺部分がディスポーザブルタイプで
ないもの)に関する報道発表資料(厚生労働省、2008年5月27日)
医薬品医療機器総合機構 医療安全情報
関連情報
- 厚生労働省
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微量採血のための穿刺器具(針の周辺部分がディスポーザブルタイプでないもの)の取扱いに関する調査結果について(平成20年8月8日)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/08/h0807-2.html- 微量採血のための穿刺器具(針の周辺部分がディスポーザブルタイプでないもの)に関する報道発表資料
(平成20年5月27日)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/05/h0527-2.html - 微量採血のための穿刺器具(針の周辺部分がディスポーザブルタイプでないもの)に関する報道発表資料
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独立行政法人 医薬品医療機器総合
機構 -
- 微量採血のための穿刺器具の取り扱いについて
http://www.info.pmda.go.jp/anzen_pmda/file/iryo_anzen05.pdf - 微量採血のための穿刺器具の取り扱いについて
- 社団法人 日本糖尿病学会
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微量採血のための穿刺器具の取り扱いについて
http://www.jds.or.jp/
企業のサイト
三和化学研究所バイエル薬品 ダイアベティズケア
ジョンソン・エンド・ジョンソン ライフスキャン事業部
ロシュ・ダイアグノスティクス
アボット ジャパン
ニプロ
(このページの文書はすべて編集部で作成しました)
2008年08月
※2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した「NGSP値」で表わされるようになりました。過去のコンテンツの一部にはこの変更に未対応の部分があります。