一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会
利益相反に関する指針
序 文
一般社団法人日本糖尿病・妊娠学会(以下「本会」という)は、糖尿病と妊娠に関する医療の進歩・発展を図り、もって人類・社会の福祉に貢献することを目的としており、会員に対する教育活動、会員による医学研究成果などの発表場の提供、市民への啓発活動などこの目的を達成するための重要な活動を行っている。
本会の学術集会や刊行物などで発表される研究においては、糖尿病と妊娠に関する医療における治療法の標準化のための臨床研究や、新規の医薬品・医療機器・技術を用いた臨床研究や調査、または産学連携による研究・開発が行われる場合がある。それらの成果は糖尿病と妊娠に関する医療の現場に還元されることから、必要性と重要性は極めて高い。
産学連携による研究には、学術的・倫理的責任を果たすことによって得られる成果の社会への還元(公的利益)だけではなく、産学連携に伴い取得する金銭・地位・利権など(私的利益)が発生する場合がある。
これら2つの利益が研究者個人の中に生じる状態を利益相反(conflict of interest:COI)状態と呼ぶ。利益相反状態が深刻な場合は、研究の方法、データの解析、結果の解釈が歪められる恐れが生じる。また一方で、適切な研究成果であるにも拘わらず、公正な評価がなされないことも起こりうる。本会においても、会員に対して利益相反に関する指針を明確に示し、糖尿病と妊娠に関する医療の進歩に寄与する研究・調査・開発の公正さを確保した上で、研究及び本会の事業を積極的に推進することが重要である。そこで、公益社団法人 日本産科婦人科学会「利益相反に関する指針」及び、一般社団法人 日本糖尿病学会「利益相反(COI)に関する指針」を参考に本会の利益相反に関する指針を作成した。
I. 指針策定の目的
本会は、その活動において社会的責任と高度な倫理性が要求されていることに鑑み、「利益相反に関する指針」(以下「本指針」という)を策定する。その目的は、本会が利益相反状態を適切にマネージメントすることにより、本会が関わる重要な事業における活動に対し、中立性と公正性を維持した状態で適正に推進させ、糖尿病と妊娠に関する医療の進歩に貢献することにより社会的責務を果たすことにある。
本指針は、利益相反についての基本的な考えを示し、本会が行う事業で会員等が発表を行う場合,利益相反状態を適切に自己申告によって開示させることにある。
II. 対象者
1)利益相反状態が生じる可能性がある以下の対象者及びその配偶者、一親等の親族または収入・資産を共有する者に対し、本指針が適用される。
- 本会の会員及び以下の2~7の活動に関わる非会員
- 本会の役員、学術集会長、次期学術集会長、次々期学術集会長、本会に設置されたすべての委員会委員長、委員会委員(以下「役員等」という)
- 本会の機関誌「糖尿病と妊娠」・刊行物等で発表する者
- 本会の機関誌・刊行物の編集者
- 本会の学術集会で発表する者
- 本会が主導する医学研究で特に倫理委員会 臨床研究審査小委員会での審査を必要とするもの、または本会会員が本会の所有するデータベースを利用して行う研究に関する研究代表者と研究分担者
- 本会事務局職員
2)所属する研究機関組織
- 申告者が所属する研究組織そのもの
- 申告者が所属する所属機関・部門の長
III.対象となる活動
本会が関わる重要な事業における活動に対して、本指針を適用する。 特に、学術集会及び講演会での発表、本会の機関誌・論文・図書・刊行物などでの発表を行う会員には本指針を遵守することが求められる。本会会員に対して教育的講演を行う場合や、市民に対して公開講座などを行う場合は、特に社会的影響力が強いことから、その演者には特段の本指針遵守が求められる。
IV. 開示・公開すべき事項
対象者は、自身における以下の1〜9の事項で、「利益相反に関する指針」運用細則(以下「運用細則」という)に定める基準を超える場合には、利益相反状態を所定の様式に従い、自己申告によって正確な状況を開示する。基準を超えない場合は、所定の様式に従い、基準を超えていない旨を自己申告する。なお、自己申告及び申告された内容については、申告者本人が責任を持つものとする。具体的な開示・公開方法は、対象となる活動に応じて運用細則に定める。
- 企業や営利を目的とした団体の役員、顧問職。寄付講座に所属する者が受領した報酬
- 株式の保有とその株式から得られる利益
- 企業や営利を目的とした団体からの特許権使用料
- 企業や営利を目的とした団体から、会議の出席(発表、助言など)に対し、研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当、講演料など
- 企業や営利を目的とした団体からパンフレットなどの執筆に対して支払われた原稿料
- 企業や営利を目的とした団体から提供された研究費、投資など
- 企業や営利を目的とした団体が提供する奨学(奨励)寄附金
- 企業などが提供する寄附講座
- その他の報酬(研究とは直接無関係な旅行、贈答品など)
V. 回避すべき利益相反状態
1) 全ての対象者が回避すべきこと
研究の結果の公表は、純粋に科学的な判断や公共の利益に基づいて行われるべきである。本会会員は、研究結果を会議・論文などで発表する、あるいは発表しないという決定や、研究の結果とその解釈といった本質的な発表内容について、その研究の資金提供者・企業の恣意的な意図に影響されてはならず、また影響を避けられないような契約書を締結したり契約外報奨金などを取得してはならない。
2) 医学研究の責任者が回避すべきこと
本会又は本会の委員会が実施する医学研究(臨床試験,治験を含む)の計画・実施に決定権を持つ試験責任者(多施設医学研究における各施設の責任医師は該当しない)や調査を実施する委員会の委員長は次の利益相反状態にない者が選出されるべきであり、また選出後もこれらの利益相反状態となることを回避すべきである。
- 当該研究を依頼する企業の株の保有や役員等への就任
- 当該研究の結果から得られる製品・技術の特許料・特許権の獲得
- 当該研究に係る時間や労力に対する正当な報酬以外の金銭や贈り物の受領
- 企業所属の派遣研究者などが当該研究に参加する場合、実施計画者や結果発表において当該企業名を隠ぺいするなどの不適切な行為
- 当該研究データの集計、保管、統計解析、解釈、結論に関して、資金提供者・企業が影響力の行使を可能とする状況
- 研究結果の学会発表や論文発表の決定に関して、資金提供者・利害関係のある企業が影響力の行使を可能とする契約の締結
VI. 実施方法
1) COIの対象となる活動を行う会員・非会員の責務
COIの対象となる活動を行う場合、当該研究に関わる利益相反状態を適切に開示する義務を負うものとする。開示については運用細則に従い所定の書式にて行う。本指針に反する事態が生じた場合には、利益相反を管轄するコンプライアンス委員会にて審議し、理事会に上申する。
2) 役員等の責務
本会の役員等は本会に関わる事業や活動に対して大きな役割と責務を担っており、当該事業に関わる利益相反状態については、就任した時点で所定の書式に従い自己申告を行なう義務を負うものとする。理事会は、本会の役員等がすべての事業を遂行する上で、深刻な利益相反状態が生じた場合にコンプライアンス委員会に諮問し、答申に基づいて改善措置などを指示することができる。
学術集会におけるプログラム委員会は、本会の学術集会で医学研究成果が発表される場合、その実施が本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する演題については発表を差し止めることができる。発表の差し止めの決定についてはコンプライアンス委員会で審議の上、理事会に答申し、理事会承認後、実施することができる。
編集会議は、医学研究成果が本会の機関誌や刊行物などで発表される場合に、その実施が本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する場合には掲載を差し止めや論文撤回などを求め、それを公開することができる。当該論文の掲載後に本指針に反していたことが明らかになった場合は、当該刊行物などに委員長名でその由を告知することができる。なお、これらの決定についてはコンプライアンス委員会で審議の上、理事会に答申し、理事会承認後、実施することができる。
すべての委員会は、それぞれが関与する本会の事業に関して、その実施が本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する事態が生じた場合には、速やかに事態の改善策を検討しコンプライアンス委員会に報告する。
3) 本会が主導する医学研究・本会の所有するデータベースを利用して行う研究の研究代表者と研究分担者の責務
当該研究に関わるCOI状態を適切に開示する義務を負うものとする。開示については運用細則に従い所定の書式にて行う。本指針に反する事態が生じた場合には、COIを管轄するコンプライアンス委員会にて審議し、理事会に上申する。
4)研究機関、所属機関・部門の長にかかる組織COI管理
必要に応じて、研究機関自体、あるいは所属する上級の役職者が特定の企業と深刻なCOI状態にないことを、当該研究に関わるCOI状態を開示する際に求める。
5)学会組織自体の組織COI管理
本会は、企業・法人組織、営利を目的とする団体から本会に支払われる額を、①研究助成、共同研究、受託事業、②寄付金、③学術集会等収入について、会計年度を単位として一元管理し、組織COIとして開示・公開する。
6)不服の申立
前記1)、2)及び3)号による処分を受けた者は、本会に対し不服申立をすることができる。本会は、これを受理した場合、速やかにコンプライアンス委員会において再審議し、理事会の協議を経て、その結果を不服申立者に通知する。
7)本会の責務
- 理事長は、深刻なCOI状態が生じた場合、コンプライアンス委員会などに諮問し、その答申を理事会に諮り、改善措置や再発防止策を講じて社会的な信頼性の確保に努める。
- コンプライアンス委員会は、COI自己申告内容を適切に判断・管理するとともに、深刻なCOI状態が生じた場合や自己申告に疑義がある場合には調査を行い、理事会に答申する。
8)開示請求
所属する会員のCOI状態について開示請求が外部からなされた場合は、コンプライアンス委員会は請求理由の妥当性を検討した上で、個人情報の保護を考慮しつつ事実関係の調査を行い、開示内容を理事会に答申する。
VII. 本指針違反者への措置と説明責任
1) 本指針違反者への措置
コンプライアンス委員会は本指針に違反する行為に関して審議する権限を有し、審議の結果、本会会員や役員等に重大な遵守不履行があると判断した場合には、その遵守不履行の程度に応じて一定期間、次の措置をとるよう理事会に答申することができる。以下の措置の実施には理事会の承認を要する。
- 本会が開催する学術集会での発表の禁止
- 本会の機関誌・刊行物などへの論文掲載の禁止
- 本会の学術集会長就任の禁止
- 本会の理事会,委員会への参加の禁止
- 本会の懲戒規定に則った処分
- 医学研究の中断、参加の禁止、新規申請の禁止
2) 不服の申立
被措置者は、本会に対し、不服申立をすることができる。本会がこれを受理したときは、コンプライアンス委員会において誠実に再審理を行い、理事会の協議を経て、その結果を被措置者に通知する。
3) 説明責任
本会の学術集会や機関誌・刊行物などにて発表された医学研究や調査において、本指針の遵守に重大な違反があると判断した場合、コンプライアンス委員会及び理事会の協議を経て、社会への説明責任を果たす。また検証の結果不当な疑惑あるいは告発と判断された場合には、本会の自己責任と社会的説明責任を果たすとともに、当該個人の人権を守るために本会は、見解と声明を出す。
VIII. 細則の制定
本会は本指針を実際に運用するために必要な細則を制定することができる。
IX. 施行日及び改定方法
本指針は平成27年11月20日より施行する。本指針は必要に応じて、理事会、評議員会の議を経て、総会の決議により改定することができる。
2021年12月 更新