理事長挨拶
杉山 隆
愛媛大学医学部附属病院 病院長
同産科婦人科学講座 教授
2024年11月22日に開催されました第40回日本糖尿病・妊娠学会の臨時理事会において理事長を再任いただきましたので、会員の皆様ならびに関係各位にご挨拶申し上げます。
私はこれまで、2期4年間、コロナ禍という苦しい状況ではありましたが、本会の伝統を守りつつ発展させるべく尽力したつもりです。まず、学会主導の多施設共同研究であるDREAMBeeスタディを推進して参りました。また、妊婦の糖代謝異常診療・管理マニュアルの改訂(第3版)を行い、現在は第4版への大規模改訂作業を進めています。コロナ禍、非常時用の妊娠糖尿病診断法として、経口ブドウ糖負荷試験を用いない簡易版診断基準の策定を行いました。現在、非常時の妊娠糖尿病診断法についてさらに検討を進めています。DREAMBeeスタディでは、事務局である成育医療研究センターの10年間にわたるご尽力のお蔭で昨年最初の論文を出し、その後複数の論文が投稿されており、実りの時期に入っていると言えます。ただし、DREAMBeeはサステイナブルではありません。人による作業エフォートが多く、学会収支にも影響が及びます。今後の方策として、DREAMBeeのデータを含め、スマホアプリによる妊婦さんのデータ(母子手帳、食事・運動等のPHR)と電子カルテ(産科部門別カルテ)情報のリンケージを行い、さらにDPCデータとも連結し、先進的大規模データ基盤を構築すべく、AMED事業を通して準備を進める予定です。
DREAM-Beeについては、今後、様々なクリニカルクエスチョンに対する疫学研究が行われ、わが国発のエビデンスを発信することが期待されます。これらの研究成果がガイドラインに反映され、母体のみならず次世代の健康も守ることに繋がることを狙います。さらに、糖代謝異常合併妊娠の管理として、血糖管理が重要であることは言うまでもありませんが、その基本となるのが食事療法です。一方、妊娠糖尿病に対する食事療法に関し、根拠が不十分であることは歪めない事実です。食事療法の結果としての妊娠中の体重増加量は妊娠中の管理上の重要な指標であると考え、少しでも良好な妊娠アウトカムにつながるよう、妊娠中の体重増加量の目安や食事療法の各論についても本学会に与えられた重要なテーマと捉え、検討して参ります。さらに、多職種からなる本会の強みを維持するためには、さらなる多職種間の連携強化、そのためのつなぎ手となるプロバイダー制度に向け、準備を進めて参ります。
引き続き内外の学会との連携を果たします。今後も世界各国の構成員からなる欧州糖尿病学会の分化会であるDiabetes and Pregnancy Study GroupやInternational Association of the Diabetes and Pregnancy Study Groups、米国糖尿病学会との連携のみならず、わが国の他学会との連携も重視し、リエゾン機能を強化し、学会を運営します。
今後とも会員の皆様のご協力をいただきながら臨床研究を行うとともに基礎研究も重視して参る所存です。糖尿病と妊娠に関する領域は、母体のみならず、胎児、新生児、さらにはその後の児の将来の健康にも関連しますので、プレコンセプションケア推進も含め、広い視野を持って、precision medicine、さらにはpreemptive medicineを見据えた多面的な研究等を取り組むことが本会の役割であると考える次第です。
これまで本会の礎を築いていただきました諸先輩の方々の恩恵を大切にしつつ、皆様のご意見・ご提案を頂戴しながら、本会のさらなる発展に向け尽力する所存です。役員のみならず会員の皆様のご理解ならびにご協力をいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
2024年11月 更新