糖尿病の人では、認知症とがんの両方の発症リスクが高まることが知られている。糖尿病とがんの両方を発症すると、軽度認知障害や認知症の発症リスクがさらに高くなることが、日本人を対象とした調査で明らかになった。
認知症の多くは予防可能 何が必要か?
「JPHC研究」は、日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。
国立がん研究センター・社会と健康研究センターなどの研究チームは、1990年に長野県佐久保健所管内の在住していた40~59歳の男女1万2,000人のうち、地域住民を対象に実施されている「こころの検診」に参加した1,244人を対象に、中年期のがんおよび糖尿病への罹患と軽度認知障害(MCI)・認知症との関連を調べた。
認知症の3分の1はその危険因子を取り除くことで予防できるという研究が発表されている。正常と認知症の中間とされる軽度認知障害や、認知症を、早期に発見し予防につなげることが重要だと考えられている。
糖尿病は認知症とがんの両方の危険因子として知られるが、これまでの研究では、がんが認知症の危険因子かどうかの結果は一致していない。がんと糖尿病の合併が軽度認知障害や認知症のリスクにどのように影響しているかを調べた報告もない。
そこで研究チームは、日本人を対象に、中年期におけるがんと糖尿病への罹患が、その後の認知機能に与える影響を調べた。軽度認知障害と認知症の診断は、記憶やその他の認知機能に関する4つの検査と、医師の判定により行われた。
がんと糖尿病の合併は認知症のリスク上昇に関連
「こころの検診」において、1,244人のうち、421人が軽度認知障害、60人が認知症と診断された。研究チームは、がんと糖尿病のそれぞれについて、罹患していなかったグループ(-)と罹患していたグループ(+)の、その後の軽度認知障害と認知症のリスクを比較した。
その結果、糖尿病のないグループと比較して、糖尿病に罹患していたグループで認知症のリスク上昇がみられた。糖尿病があると、ない場合に比べ、認知症のリスクが2.5倍以上に上昇した。
また、がんと糖尿病の罹患の組み合わせから、がんと糖尿病のどちらにも罹患していないグループ[がん(-)、糖尿病(-)]と比較すると、がんと糖尿病の両方に罹患しているグループ[がん(+)、糖尿病(+)]で、軽度認知障害のリスクが3倍以上に、認知症のリスクが16倍近くに上昇した。
インスリン抵抗性が原因か
今回の研究で、中年期にがんと糖尿病を合併していることで、軽度認知障害や認知症のリスクが高くなる可能性が示された。
糖尿病はインスリン抵抗性を高めることでがんのリスク要因となると考えられている。また、がんの罹患後にインスリン抵抗性が高くなることも報告されている。
インスリン抵抗性の高さは認知症の発症メカニズムに関与することから、がんと糖尿病が合併したグループでは、他のグループよりもインスリン抵抗性が高く、結果として認知症リスクが上昇した可能性が考えられる。
今回の研究の限界として研究参加人数が比較的少ないこと、「こころの検診」は地域住民の一部の参加者で実施されたこと、研究開始時の軽度認知障害と認知症を除外できていないことなどが挙げられ、示された結果は一般的な集団と異なる可能性がある。
研究チームは「今後、これらを考慮した、さらなる研究結果の蓄積が必要」と述べている。
多目的コホート研究[JPHC研究](国立がん研究センター・社会と健康研究センター)
Midlife cancer/diabetes and risk of dementia and mild cognitive impairment: A population‐based prospective cohort study in Japan(Psychiatry and Clinical Neuroscience 2019年6月21日)
[ Terahata ]