ストレスは血糖コントロールを悪化させる。休暇をとることは、仕事のストレスから解放され、活力を回復するのに有効な手段だ。休暇をとり、ストレスを効果的に解消するために、いくつかの方法がある。
ストレスは血糖コントロールを悪化させる
多くの働く人にとって、休暇をとることは仕事のストレスから解放され、活力を回復するのに有効な手段だ。
米国心理学会(APA)によると、休暇をとることで、
「
自己効力感」(目標を達成するために頑張れるという自信)、
「
楽観主義」(現在と将来の自分についてポジティブに考えられる)、
「
希望」(目標に向かうのに必要な忍耐力と、達成するための方法を柔軟に変更できる)、
「
回復力」(うまくいかないことがあっても回復できる)
――とったことが改善する。
一方で、ストレスは血糖コントロールに悪影響をもたらすことが分かっている。休暇をとることは、ストレスに対抗する効果的な方法になる。
● ストレスで血糖値が高くなる
体や心にストレスがかかると、コルチゾールなどの血糖値を上げるホルモンが分泌される一方で、インスリンの効きが悪くなるインスリン抵抗性が強まる。そのため血糖値が上がりやすくなる。休暇をとることでストレスから回復し、これらの悪影響を抑えることができる。
● ストレス解消のための食べ過ぎ
休暇は自分の食生活を見直す良いチャンスになる。ストレス解消の手段として、過食にはしることはよくある。イライラしていたり精神的に不安定なときには、空腹でなくても、つい手近にあるものを口に運んでしまいがちだ。お酒を飲む人なら、飲酒量が増えてしまう。こうしたことが、血糖コントロールの悪化につながる。
● ストレスが原因でうつになることも
糖尿病のある人は、糖尿病のない人に比べ、うつ病になりやすいと考えられている。15人に1人が一生のうちに1回はうつ病になるとされるが、糖尿病のある人では何らかの抑うつ症状を有する割合が2倍に上昇すると報告されている。
糖尿病の人の多くは、年齢的に家庭でも実社会でもストレスの多い生活を強いられている。加えて、将来に対する漠然とした不安、糖尿病や合併症の治療にともなう生活の質の低下などが重なるとうつになりやすい。
休暇をとることで、うつ状態を解消しやすくなることは、多くの研究で確かめられている。
● 周囲から理解を得られにくい状況は深刻
うつになると、心の面だけでなく、体の面にも症状がでてくる。例えば、ホルモンや自律神経など、体の働きを調節するさまざまな機能に不具合が生じる。そうしたの不快な症状が新たなストレスとなり、うつがさらにひどくなるという悪循環が陥りやすい。
さらに、こうした身体症状は検査結果に出にくく、周囲からは「気のせい」「怠けている」とみられがちで、そうした誤解が患者を苦しめる。休暇をとることで、ホルモンや自律神経などの作用をリセットすることができる。
関連情報
休暇でリラックスすることで、ストレスのレベルが低下
米国心理学会が米国在住のフルタイムやパートタイムなどで働く成人1,512人を対象に行った「仕事と幸福感に関する調査2018」によると、働く人のほとんどは休暇から仕事に戻った時点で、ポジティブな効果を得られる。
「生産性が向上した」(58%)、「仕事の質が向上した」(55%)という仕事に対する好ましい影響があっただけではない。「前向きな気分になった」(68%)、「活力が回復した」(66%)、「ストレスが軽減した」(57%)、「やる気が向上した」(57%)といった気持ちの変化も大きかった。
さらに調査では、休暇を奨励する企業に勤める労働者と、そうでない労働者を比較した。休暇を奨励することで「生産性が向上した」(73%対47%)、「やる気が向上した」(71%対45%)といった回答に差が出た。
「休暇でリラックスすることで、ストレスのレベルが低下します。働き盛りの世代にとって、休暇をしっかりとることが大切です」と、米国心理学会のデビッド バラード氏は言う。
休暇でリフレッシュ効果を得るために
なお、休暇をとるのをためらう原因は、「給料が上がられないのではないか」(49%)、「成長や昇進をできなくなるのではないか」(46%)、「仕事量が多く片付かない」(42%)などだった。米国心理学会は、労働者のこうした心配や懸念を解消するために、企業などは労働者の心の健康づくりに経営として取り組むべきだとしている。
「米国では、労働者の3分の1以上が仕事のストレスを慢性的に抱えています。しかし、ストレス管理を支援している企業は4割にとどまっています。働く人々の心の健康に直接に関わるこうした問題にすぐに対処するべきです」と、バラード氏は述べている。
一方で、休暇をとっても、いつもと違う生活パターンに慣れるまでに時間がかかり、なかなかリフレッシュ効果を得られないという人も少なくない。
調査では、休暇でリラックスできない理由として、「仕事に戻るのが憂うつに感じられる」(42%)、「休暇中も緊張やストレスを感じる」(21%)を挙げた人が少なくなく、「後で多忙になる」「他の人に迷惑がかかる」といった声も聞かれ、仕事が原因でリラックスできない人が多いことが示された。
休暇にリラックスするための2つの方法
最近の研究によると、休暇をとりストレスを効果的に解消するコツは、▼フィットネスをして体を動かす、▼マインドフルネスを実践して、心と体をリラックスした状態に導くことだ。
・ フィットネスがストレス解消に役立つ
職場でのストレスを解消するために運動は効果的だ。フィットネスと心身の状態は密接に関連していることが、スイスのバーゼル大学によって示された。ストレスがたまると、メンタル面での健康が損なわれ、うつが増えるだけでなく、血圧値や脂質の値が上昇する。運動をすることで、これらを改善することができる。
研究チームは、スウェーデンで197人の労働者に、エルゴメータを使いフィットネスに取り組んでもらった。血液検査を行いBMI、血糖値や血圧値、コレステロール値、中性脂肪などさまざまな数値にどのような変化が起きるかを調べた。また現状の自覚的ストレスレベルについても調査した。
その結果、運動には、▼動脈硬化を防ぐ、▼血糖値の上昇を防ぐ、▼肥満を解消する、▼コレステロールなどを改善する、▼筋力の低下を防ぐ、▼心肺機能を高める、▼免疫力を高める――といった効果だけでなく、ストレスを解消する効果もあることが確かめられた。
ストレスの多い労働者ほど、これらの数値が改善した。ウォーキングなどの運動がストレスに対策するために効果的であることが示された。
一方で、ストレスが多いと運動に取り組むのをためらう人が多いことも分かった。強いストレスにされされると、積極的な行動に移すことをためらうようになる。運動を中心としたカウンセリングを実施する必要性が確認された。
「休暇は運動に取り組むチャンスでもありますが、強いストレスにされされている人は、休暇をとっても、運動をなかなか始められないという悪循環に陥りがちです。ストレスを効果的に解消するために、運動が大いに役に立つことを気に留めるべきでしょう」と、バーゼル大学のマーカス ガーバー教授は言う。
・ マインドフルネスが心身の健康とストレス回復力を向上させる
「マインドフルネス」は、日本の禅などの考え方や瞑想をベースにしたメンタルトレーニングとして米国で発達した。マインドフルネスを日本語に訳すと「気付くこと」「意識すること」という意味になる。
自分の体や心の状態を意識する瞑想を毎日行うことで、ストレスを受ける場面に遭遇したときなどに否定的な感情にとらわれることなく、平静さを保てるようになるという。
最近は宗教色を一切排除し、科学的な根拠を示した研究が増えており、マインドフルネスを応用した瞑想は認知症やうつ病の症状改善に有効と考えられている。集中力も高められるとして、米国ではマインドフルネスをベースにした社員研修プログラムを提供する企業が増えている。
南カリフォルニア大学は、ヨガと瞑想を行い、マインドフルネスを実践することで、メンタル面と身体面で有益な効果を得られることを明らかにした。研究チームは、ヨガや瞑想によって、脳由来神経因子(BDNF)、視床下部-下垂体-副腎系(HPA)、炎症性マーカーなどにどのような影響が出てくるかを調べた。
研究に参加した38人の男女が、ヨガや瞑想に3ヵ月取り組んだ結果、BDNF、コルチゾール活性、抗炎症性サイトカインなどが改善しただげでなく、うつや不安感などのメンタル面でも好ましい変化が起きることが分かった。
マインドフルネスを実践することで、幸福感を得やすくなることが示された。「マインドフルネスの方法はヨガや瞑想に限られませんが、これらを長期間行うことで、抗炎症性マーカーが向上し、免疫力も上がることがはじめて分かりました。1日に30分間の瞑想を3日間続けて行うだけでも効果があります」と、南カリフォルニア大学のバルーク ラエル カーン氏は言う。
マインドフルネスによって、ストレスレベルが下げられ、血糖コントロールやうつも改善することは、他の研究でも確かめられている。マインドフルネスを行い、リラクゼーション効果を得るために、数日間の休日はうってつけだ。次の休暇にはマインドフルネスに取り組んでみてはいかがだろう。
Vacation Time Recharges US Workers, but Positive Effects Vanish Within Days, New Survey Finds(米国心理学会 2018年6月27日)
17 Tips to Manage Diabetes in Hot Weather or on Vacation(カナダ医学部教員協会 2017年6月16日)
Being fit protects against health risks caused by stress at work(バーゼル大学 2016年11月1日)
Fitness Moderates the Relationship between Stress and Cardiovascular Risk Factors(Medicine & Science in Sports & Exercise 2016年11月1日)
Yoga and meditation improve mind-body health and stress resilience(Frontiers 2017年8月22日)
Yoga, Meditation and Mind-Body Health: Increased BDNF, Cortisol Awakening Response, and Altered Inflammatory Marker Expression after a 3-Month Yoga and Meditation Retreat(Frontiers in Human Neuroscience 2017年6月26日)
働く人のメンタルヘルスポータルサイト「こころの耳」(厚生労働省)
[ Terahata ]