糖尿病を発症する前から、腎臓の機能低下を示す数値が悪化しており、「慢性腎臓病」(CKD)を発症している人が多いことが、米国の大規模調査で明らかになった。
「CKDを検査で早期発見し治療を始める必要性があらためて示されました」と、研究者は述べている。
「糖尿病」と「高血圧」が発症に大きく影響
糖尿病と診断された患者の多くが、糖尿病の発症にさかのぼり、「慢性腎臓病」(CKD)の症候を示していたことが、米国のテネシー大学健康科学センターやバージニア大学医療ネットワークなどの研究チームによって明らかにされた。
多くの患者は、糖尿病と診断される前の段階で、腎臓の機能低下も進行しているおそれがあるという。
慢性腎臓病(CKD)は腎臓の働きが低下した状態や、尿の中にタンパクが漏れ出る状態(タンパク尿)の総称。「糖尿病」と「高血圧」が発症に大きく影響している。
また、肥満、メタボリックシンドローム、脂質異常症、高尿酸血症も影響する。過食や運動不足といった長年の生活スタイルが原因になるほか、加齢や喫煙も影響する。
CKDは、「脳卒中」や「心筋梗塞」などの原因にもなる。原因である糖尿病や高血圧が動脈硬化を進行させ、また慢性腎臓病そのものが血管にさまざまな障害を引き起こすからだと考えられている。
CKDが進行すると腎不全に至り、人工透析が必要となる。これらは患者のQOL(生活の質)を大きく損ない、死につながることが多いので"サイレント キラー"とも呼ばれている。
糖尿病の診断前に30%以上がCKDを発症
研究チームは、「米国退役軍人省研究調査」の参加者のデータを調査した。対象となったのは、2003〜2013年の10年間に糖尿病と診断された30歳代から80歳代の退役軍人3万6,794(平均年齢 61.5歳)。
解析した結果、これらの人の31.6%が、糖尿病と診断される以前に、eGFRや、尿中の微量アルブミンを調べる尿中アルブミン-アルブミン指数に異常が起きていたことが明らかになった。
CKDの発症率は1,000人当たり241.8症例だという。年齢、HbA1c、血圧、BMI(体格指数)が高いと、CKDの危険性が上昇することも分かった。とくにHbA1cが高いとCKDのリスクは1.88倍に上昇した。
また、人種的な背景にも関連しており、アジア系の米国人ではCKDのリスクは1.53倍に上昇した。
日本でもCKD患者は約1,330万人に上ると推定されている。同様の大規模な調査は日本では行われていない。とくに糖尿病の人は、腎臓病に関する検査値について、医師によく確認しておいた方が良い。
CKDのリスクの高い人に検査を受けることを推奨
CKDでは、血液から老廃物を取り除く腎臓の「糸球体」という器官が少しずつ壊れていく。その結果、老廃物が十分に取り除けなくなったり、尿に漏れないはずのタンパクが尿に交じったりする。
CKDになっても、腎臓の働きがかなり低下するまで自覚症状はないが、一定程度以上に壊れてしまった糸球体を、正常に戻すことはできない。CKDの進行を抑えるために、早期発見して治療を開始することが重要だ。
CKDは尿検査や血液検査で発見できる。「タンパク尿」と「血清クレアチニン値」のどちらかが異常だと、CKDと診断される。CKDを見逃さないためには両方の検査を受けることが勧められる。
血液検査では、「血清クレアチニン値」を調べる。クレアチニンの値から「GFR」という値を推算し、GFRが60未満だと慢性腎臓病が疑われる。クレアチニン値と年齢、性別から計算する「eGFR」(推算糸球体濾過量)は、CKDの重症度をはかる指標となる。
クレアチニンは老廃物の一種で、腎機能の低下に伴い血中濃度が高くなる。今回の研究ではクレアチニン検査は多く行われていたが、異常値と判定されたのは、CKDの診断が確定したり、第3期まで進行した患者に限られていたという。
「治療ガイドラインは、CKDのリスクの高い全ての人に検査を受けることを勧めていますが、現状では検査は、糖尿病などを発症し治療を開始した患者に限られます。しかし実際には、その発症前に腎臓に異常が起きている可能性があります」と、テネシー大学健康科学センターのサバ コベスディ教授は言う。
CKDの検査をもっと幅広く実施する必要が
「CKDは初期の段階では、検査をしないと発見できません。つまり、医師に気付かれることなく、腎臓障害が進行してしまっている患者が多いということです」と、コベスディ教授は指摘する。
糖尿病の有病者数は多いので、CKDの有病者数もかなり多いと推測されるという。
「CKDの有効な治療法は確立されていません。しかし、早期発見し適切に治療をすれば、それだけ進行を遅らせることができます。そのためには、関連する糖尿病や高血圧などの疾患をしっかりと治療することが必要です」と、コベスディ教授は言う。
CKDを発症するリスクは、他に病気を発症している高齢者で上昇した。脳血管疾患を発症している高齢者では1.23倍に、心不全を発症している高齢者では1.87倍に、末梢動脈疾患を発症している高齢者では1.35倍に、ぞれぞれリスクが高くなった。
「CKDのスクリーニング検査をもっと幅広く実施する必要があります。糖尿病や高血圧、肥満、心血管疾患について、予防の必要性が広く認識されるようになってきましたが、CKDの危険因子に対しても意識を向上させることが重要です」と、コベスディ教授は強調している。
ic kidney disease before diabetes diagnosis(米国退役軍人省 2018年3月13日)
veterans with incident diabetes mellitus(PLOS ONE 2018年2月9日)
[ Terahata ]